<11月分>

麻生幾「宣戦布告」(講談社文庫)

 敦賀半島に北朝鮮の特殊部隊が上陸、さあ大変だ、というお話。

 まず、ディティールの細かさに驚く。
 国防に関する各省庁が出てくるのはもちろん、その省庁の各機関や、国防に関係ない省庁、政党、世論まで描写してある。
 とにかくみんな、責任逃れに必死で、問題の核心からどんどんズレていく様が何ともブザマで、しかし、どうしようもなくリアル。
 う〜ん、面白い。

 が、キャラクターがちょっと弱い。
 そこが「誰が誰だか忘れそうになる」と否定的にも感じましたし、「必要以上に感情移入しなくて良い」と好意的にも感じました。

 

乙一「死にぞこないの青」(幻冬舎文庫)

 いじめに遭う小学生が主人公のホラー。

 小学生の視点で話が進んでいきますが、子供ながらにぼんやり思っていることを具体的な言葉をもって描写してあるので、感情移入しやすいです。
 話の盛り上げ方も上手い。ホラーの要素が増えるにつれ、どんどん面白くなっていきます。

 時代設定が管理人が子供の頃と同じなことも高ポイントです。

 

奥田英朗「延長戦に入りました」(幻冬舎文庫)

 スポーツについて、ちょっと変わった角度からとらえたエッセイ。

 「一流のプロ、人気競技だけがスポーツの醍醐味ではなく、アマチュアはアマチュアなりに、裏方は裏方なりに、ヘタはヘタなりに楽しみがあってドラマがある」ということをユーモアたっぷりに書いてあって、ほのぼの笑えます。
 とくに、「高校野球とコールド負けの青春」が面白かったです。

 devils daughter's zakkさん、情報提供ありがとうございました!

 

桐野夏生「OUT」(講談社文庫)

 絶望的な現状から抜け出したいと願う主婦4人が、ひとつの殺人事件を機に引き返せない世界に足を踏み出す、といった犯罪小説。

 4人を現状に追い込んだ要因は日常的なものだけに、強烈なリアリティーを感じますし、作品から漂ってくるマイナスパワーは絶大にして圧倒的。
 協力することになった4人を結ぶものはあくまで打算。しかも、関わったが最後、破滅に向かっているとわかっていながらも戻ることは出来ない。マイナスパワー全開である。
 そして、どうにもならないまま終了。

 見事なくらいノワールな内容で面白かったです。倦怠感につつまれながらも緊張感がとぎれないところがよかったです。

 

奥田英朗「マドンナ」(講談社)

 40代、中間管理職のサラリーマンが主人公の短編集。

 5人の主人公は環境こそ違いますが、背負う責任・人間関係にそれぞれくたびれてます。
 「世の中、納得できることばかりではない」わかっているけど、虚しい。それでも頑張らなくちゃいけないお父さんの苦労がリアルに描かれてます。
 読んでるだけで気が重くなりそうですが、全体がやさしいトーンで包まれているのでそうはならない。安易なハッピーエンドではなく、嫌味にならない程度にハートフルな結末でまとめるさじ加減が絶妙!

 とくに「ダンス」が良いです。かつての自分の青春と向き合うドラマがお見事。

 

原田宗典「どこにもない短編集」(徳間文庫)

 タイトルどおりの、とっても変わった短編集。

 数ページでおわる話がほとんで、不思議な感触だけが残ります。
 若干ホラーっぽい感じもしますが、そこまではっきりしたものでもない。この感触をどう表現していいか言葉につまります。

 読後に残る奇妙な感触が気になります。何だこれ?

 

山田詠美「放課後の音符」(新潮文庫)

 女子高生の恋愛を描いた短編集。
 集団に属しながらもどこか違和感を感じている主人公が、周りとは少し違った人の恋愛に惹かれる、といったお話。

 大人と子供のどっちつがずの状態にある17歳の心象風景は、読んでるこっちが恥ずかしい。
 いや、面白いんですよ。
 でも、恋愛に匂いや味、音を持ちこまれても、ねぇ…?

 というか、どのツラさげて読んでんだ、俺っ!?

 

中村うさぎ「穴があったら、落っこちたい!」(角川文庫)

 「はじめて」をテーマにしたものと、犯罪をテーマにしたものの二つからなるエッセイ。

 「はじめて」をテーマにしたエッセイはいつもどおり笑えます。が、犯罪をテーマにしたエッセイはそれとは真逆。ヘヴィです。
 犯罪史上に残る大事件を独自の視点で分析しているのですが、犯人の異常性にゾッとする反面、共感できる面もありギクリとする。

 ナルシズムや被害者根性のない考え方がイイです。

 

奥田英朗「イン・ザ・プール」(文藝春秋)

 精神科を舞台にした短編集。

 ヘンな人ばかり出てきます。患者の症状もヘンですが、それを治す精神科医がもっとヘン。
 患者が、そして読者も呆気にとられているうちに病気を治してしまいます。あまりの変わりっぷりに、それがワザとなのか本気なのかもわからなくなります。凄いキャラクター。

 ヘンとはいえ、病気の症状は深刻。とくにケータイ中毒を描いた「フレンズ」は、主人公の心境が理解できるだけに悲痛なものを感じます。
 が、そこをお得意の「絶妙のさじ加減のやさしさ」が包んでいるため、読後「いいもの読ませていただきました」という気持ちになれます。
 マユミさん、ナイス!

 

宮沢章夫「牛への道」(新潮文庫)

 気にならない人には気にならない、しかし、気になる人には気になってしょうがないことについてのエッセイ。

 こういう、「わかってくれる人だけわかってくれればいい」っていうスタンス、大好きです。潔し。
 そして、そのシュールな視点がツボに入ったときの破壊力はとてつもない。不気味にも、ひとり部屋で一分近く笑いつづけるハメになります。

 「なくともやはり払いたまえ」「いかにして栗鼠毛の筆は作られるか」が管理人のツボです。

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