<7月>

司馬遼太郎「坂の上の雲(八)」(文春文庫)

 ようやく最終巻。

 ついに日露戦争のクライマックスともいうべき日本海海戦が始まります。
 日本の勝利条件は「敵艦を一つ残さず撃沈する」という、かなり不利なもの。しかし、それをロシア側の混乱もあって、とうとう成功させます。

 表面的・史実的に見れば、「この海戦は日本の完勝。めでたしめでたし」となるのですが、人間的に見ると凄惨そのもの。
 日本海軍の作戦を立てた秋山真之は完全な現実主義者だったにもかかわらず、地獄とさえ言える戦場の光景を目の当たりにすることで、戦後軍をやめ仏門に入ろうとしました。
 日露戦争は近代戦とはいえ攻撃の結果を目の当たりにします。現代のようにコンピュータでミサイルを撃ち、その結果はデータで見る、というのとはワケが違います。

 勝ったにしても代償はある。
 だから戦争はいけませんなんて単純なことは言いませんが、そのことのリアルに感じられて面白かったです。

 

新堂冬樹「カリスマ」(徳間書店)

 カルト宗教をテーマにした暗黒小説。上下巻構成です。

 少年は幼い頃、あるカルト宗教に家族をムチャクチャにされます。
 彼はその復讐を、自分がカルト宗教の教祖になって他の家族をムチャクチャにすることで果たそうとします。その発想の屈折っぷりが病的でイイ。弁護士か何かになってカルト宗教を撲滅しようとする、なんてのはマンネリだ。

 色々な人物が登場しますが、表面的には普通に生活しながらも、内面ではドロドロしたものを抱えています。
 それがカルト宗教との出会いによって、その欲望が表にさらされ、普通の生活が破壊されていきます。後半は狂気の世界。誰もが追い詰められ誰もが狂ってます。

 ただ、彼らの「幸せになりたい」「このコンプレックス・困難を何とかして克服したい」という願望は、悲痛なほど純粋なだけに読んでいて哀しくなってくる。

 説明文に冗長な部分もありますが、かなり面白かったです!

 

恩田陸
小林泰三  ミステリ・アンソロジーU
新津きよみ 「殺人鬼の放課後」(角川スニーカー文庫)
乙一

 殺人をテーマにしたミステリを4作収めた一冊。

 全体的に印象が薄かったです。
 テーマがテーマだけにグロテスクな部分が多いのですが、リアリティが感じられない。理屈やトリックに走り気味な点もちょっとキビシイです。

 一番よかったのは新津きよみ「還って来た少女」
 意外な犯人と、真相がバレたあとの犯人の醜態にリアリティを感じられました。

 

村山由佳「きみのためにできること」(集英社文庫)

 恋愛小説。

 TVの音声マン・高瀬には学生時代からの彼女ピノコ(あだ名)がいます。
 しかし、TVの仕事でなかなか会えない。そんな2人を結ぶのは、メール。
 そのやりとりときたら…、読んでるこっちが恥ずかしい!

 そんな中、高瀬は仕事で一緒になった女優・鏡耀子にピノコとは違った心の惹かれ方をしていき、そのことでピノコとの関係がこじれてしまいます。
 人の心の脆さや、変わってしまう現実、そして戻れないと自覚することの哀しさを感じ、なかなか面白かったです。

 が。
 どーしてもドラマ臭く、リアリティが感じられなかった点は不満です。

 

賀東招二「安心できない七つ道具?」(富士見ファンタジア文庫)

 コメディ版「フルメタ」の最新刊。

 相変わらず本編との落差が大きい。本編がマジになってきているので余計にそう思う。

 そして今作は収録全作が面白い。これは初のことじゃなかろうか。
 個人的には「老兵たちのフーガ」にでてくるF言葉連発の退役海兵中佐が好きです。

 

吉本ばなな「哀しい予感」(角川文庫)

 ずっと一緒に暮らしてきた血のつながってない弟への恋と、ずっと離れて暮らしてきた血のつながった姉への想いについての物語。

 これが、サッパリ。
 どーもこういうドラマ臭い設定が好きじゃないんです。また、主人公がもっている「感じてしまう」能力や、姉の「何事にも無頓着で、しかし芯がある」っていう人物設定も個人的にNGです。今まで管理人が生きてきた世界とあまりにも違いすぎ、またそれをも吹き飛ばすほどの魅力も感じられませんでした。

 不安なとき、夜空を見上げて無性に哀しくなってしまう、っていうところは好きですが。

 

秋田禎信「顔を洗って出直しな!」
      「あきれてものも言えねえぜ!」

 どうも「オーフェン」を読むのが管理人の気分転換のパターンになってるようです。

 毎回お決まりの展開なのですが、どれも平均以上に面白いというのはスゴイことだと思います。
 ファンタジー界のAC/DC?

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