<9月分>

福井晴敏「川の深さは」(講談社文庫)

 挫折した元警官が、ある少年少女との出会いがきっかけで国の暗部にかかわる事件に巻きこまれていく、というお話。

 設定は「亡国のイージス」に似通っている部分がありますが、「亡国〜」より人間ドラマに重点を置いてあるのが特徴。
 そのドラマの熱いこと熱いこと。 印象的なセリフがダイレクトに胸に突き刺さり、ゾクゾクします。

 分量が少ないので「亡国〜」ほどの怒り・悲しさはありませんが、同じくらいのカタルシスが味わえます。

 

スティーヴンソン「ジーキル博士とハイド氏」(新潮文庫)

 二重人格をテーマにした怪奇小説。

 ジーキル博士のなかに生まれたもう一つの人格・ハイド氏との闘いを通して、善意と悪意のせめぎあいを生々しく描写してあり、とても面白かったです。
 とくに後半、ハイド氏の悪意に侵されていくジーキル博士の絶望がイイです。

 海外の小説をよんでここまで面白いと思ったのは初めてです。

 

ヒキタクニオ「凶気の桜」(新潮文庫)

 渋谷に誕生した若者のナショナリスト結社がヤクザともめる、というお話。

 斬新な発想だなぁ、と思ってよみはじめたものの、中途半端な内容で肩透かし。
 ナショナリストといっても中身はただの若者だし、ヤクザとの関係にもいまいち魅力を感じられない。

 バイオレンス小説というよりは青春小説のようにも感じられました。

 

ボブ・ラングレー「最終兵器駆動」(創元ノヴェルズ)

 石油に替わるエネルギーを開発したイスラエルと、核兵器に替わる兵器を開発したイラク、そしてそれに介入するアメリカについてのお話。

 設定にひかれて読んだものの期待外れ。
 登場人物が最初と最後でずいぶん印象が違い、また、そう変わるだけの必要性が感じられませんでした。
 人物設定に偏ったイメージがあるようにも感じました。

 展開が荒い気がするのも気になりました。残念。

 

カミュ「異邦人」(新潮文庫)

 世の中のさまざまな不条理を「意味はない」と認識し、受け止める男についてのお話。

 人間は、自分の考え及ばないことには適当な理由付けをして自分を納得させようとします。そして、そうした方が対人関係が円滑になります。
 主人公はそういう不条理をそのまま受け入れ、対人関係のために取り繕うことを拒否します。

 ↑のようなことを物語を通して暗に記してあり、実にクール。読後ジワジワ余韻が広がります。
 管理人はしばらくの間、頭のなかをグルグル回って離れませんでした。

 

時雨沢恵一「キノの旅」(電撃文庫)

 言葉を話すバイクと女の子が旅をする、という内容。

 一言でいうと、「淡々とした童話」という感じなのですが、その淡々とした空気が心地いいし、キノ(女の子)とエルメス(バイク)の会話のテンポも良いです。
 ストーリーも、よくある押し付けがましいものではなくスッキリしていてなかなか面白かったです。

 タイトルページの絵も○。

 

カフカ「変身」(新潮文庫)

 ある朝、男が目覚めてみると自分が巨大な虫に変わっていた、というお話。

 正直いって、かなりビミョー。
 どう解釈していいかわからない場面が多く、解説をよんでやっと「ああ、なるほど」と思える具合。

 こういう、読み手に解釈をまかせる、っていう小説は厄介だな〜。
 再読したらずいぶん印象が変わる気もするんですが。

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