人生識字、憂患之始(2003年2月編)

良くも悪くも不定期更新のこのコーナー(さあ不定期であることの利点は何だ?)。
気が向いた時に本や漫画や音楽の感想を書いていきます。

決まり文句(コピー)
このページは僕が最近読んだ本(小説中心、たまに漫画、聞いたCDも)
を紹介するコーナーです。僕の評価を客観的に把握しやすいように書名の
下に星印を書いていますが、★が1点、☆が0.5点で5点満点としています。


『盤上の敵』 北村薫 新潮文庫
★★★★
実は1ヶ月ほど前に読んだ作品なので新鮮な印象は既に失われて
いますが、何とか残留物で書いてみます。
ということで「日常の謎」系のミステリー作家の全ての原点とも言える
北村薫が自らのイメージを突き崩すかのような作品を書いた!という
ことで話題になりました。しかもそれを裏付けるかのように冒頭に
作者からの断り書きがあり、「心を休めたいというかたには不向き」と
記されているほどです。

内容は主人公の家に猟銃を持った殺人犯が妻を人質に立てこもり、
それに対し主人公は警察を無視し、犯人との単独交渉へと乗り出す。
というものなのです。こう書くと単純ですが、本格原理主義として
名高い北村薫の手にかかると何十もの謎が折り重なった素晴らしい
物語へと発展します。

確かに作中では死体が登場するなど従来の北村作品では見られなかった
ものがワンサカではありますが、そこはそれ。作者が作者である以上、
ただ殺人事件が発生したから残酷であるとはなりません。
ラストの幻想的な描写はその幻想が晴れた時に起こる残酷さと常に隣り合わせ
であることを端的に示唆しています。それが幻想であり続けることは幸せなの
だろうか、ベールが剥がれ、そこからの再生はありうるのか、様々な想像を
読者へと強いるあのラストにはただ脱帽するしかありません。
(2月21日)


『十三妹』 武田泰淳 中公文庫
★★
中国の古典に登場する十三妹という女盗賊と同じく古典的存在である
白玉堂という時代的には共演のありえない二人が共演してしまったという
作品です。解説は田中芳樹、イラストは鶴田謙二。分かりやすいですなあ。

鶴田謙二が描く中国物というとどうしてもチャイナさんのイメージしかなく、
読む前は「ブレッケンリッジさん、家賃払うアルよー」という叫び声が
頭の中に響いているだけでした。

それは良いとして。
この作品、面白いことは面白いのですが、興ざめする点がどうしてもありまして、
それは会話のカギカッコの前にその会話主が表示されているのです。
例えると。

ギョクセイ「ホボマイニチって書いてんだから、マイニチ書けよな」

って感じになります。読み始めた時は苦痛でしたね。そこに来るたびに
読むスピードが止まってしまいます。40年ほど前に書かれた作品という事から来る
表現等の違和感(例えとして「太陽族」が出てきたりします)は仕方がないとして、
これは何とかならなかったものでしょうか。
(2月20日)


『<柊の僧兵>記』 菅浩江 徳間デュアル文庫
★★
昨年、日本SF大賞だか何かを受賞した菅浩江の旧作です。
つまりは復刊。デュアル文庫はこのような作品ばかりですね。
まあ絶版作品が読めるので特に文句はないのですが。

内容は一人の少年の成長物語。
砂漠の民でありながら生まれつき白い肌で生まれてしまい、鬼っ子扱い
されているのが主人公のミルン。ある日、村の伝統的儀式の最中にネフトリア
と名乗る者たちに襲われ、彼とそして同じく白い肌の持ち主の少女アジャーナ
の二人だけが生き延びてしまった。彼らは真実を探るために数百年もの間、
生きているという<柊の僧兵>を探すことにした。
そこから物語が面白いように転がり始めるわけです。

全てが予定調和的に話が進んでいくような気がしないでもないですが(そのため
パンチには欠けます)、やはりうまく話が進んでこその英雄物語、成長物語なの
でしょう。多分、中学生ぐらいの時に読んでいれば共感できたかもしれません。
(2月13日)


『狂笑面』 北森鴻 新潮文庫
★★★★☆
ようやく出てくれた民俗学者、那智蓮杖が探偵役の連作短編集です。
中性的で美しくもあり、かつそこには何者も凍らせるほどの厳しさを
覗かせる「異端」の民俗学者である那智蓮杖とその研究室の助手
であり事件の時はワトスン役として活躍する内藤との二人が毎回の
登場人物。彼らが民俗学のフィールドワークで出会った事件を解決する
というのが基本的なパターンです。

民俗学はいいねえ。
とただただ単純に思ってしまいました。歴史学なんてフィールドワーク
をするのでしょうか?すると言えばしますが、古文書調査が基本だから・・・。
歴史は点を明らかにし、民俗学は面を明らかにするなどのようなことを
那智さんは言っていましたが、それはまさしく当てはまり、面を対象に
しているからこそ数々の事件にぶち当たることも可能なのでしょう。
加害者、被害者、それぞれの思惑が研究対象である事物に複雑に混じり合う
ことで、事件をそして真相を引き出すことが可能になる。
もちろん歴史学との兼ね合いも重要で作中でも述べられているように双方の
歩み寄りがもっと必要なわけですが、世間は那智教授のように視線だけで
人を黙らせるわけにはいきませんし。
(2月11日)


『玄武塔殺人事件』 太田忠司 徳間デュアル文庫
★★★
探偵事務所を開いている野上英太郎とその助手である狩野俊介は
彼らの友人である(行きつけの喫茶店の看板娘らしい)アキの要請で
事件へ首を突っ込むことになった。彼女の友人である紫織の故郷、
生まれ育った家である玄武屋敷で殺人事件が起こったというのである。

という内容の推理小説です。
主人公は狩野俊介、中学生。
愛らしい笑みを浮かべながらも、腕時計に仕込んである麻酔銃で
野上英太郎を眠らせると蝶ネクタイ型ボイスチェンジャーで彼の振りをして
事件解決をするという、子供ではありません。ついでに言うとボタン一つで
キック力が格段にアップするという靴を履いていたりとかもしません。
少し頭の回転の速い普通の中学生です(なぜ彼が探偵の助手をやっている
のかは色々と理由がありそうですが)。

内容も出入り口が一つしかない玄武塔で行われ、しかも屋敷から塔へと
つながる唯一の廊下も工事の人がいたため、出入りは不可能。つまり
密室殺人であったり、他にも遺産相続等での親族同士のいがみ合いが
見られたりと意外にも基本に忠実な作品でした。

この作品は徳間文庫などで既に刊行されているのですが、今回徳間デュアル文庫
へと新装発刊されました。がしかし、なぜかシリーズの途中から刊行。
そのためアキちゃんと主人公たちとの関係など全く分かりません。
何の意図があって、こんな迷惑なことを・・・。
(2月6日)


『そして二人だけになった』 森博嗣 新潮文庫
★★★★
新潮文庫初登場の森博嗣。
初登場とは言え、購入層にそれほど変化が見られるのかは甚だ疑問では
あります。

タイトルからも分かるとおり、クリスティを彷彿とさせる作品です。
瀬戸大橋などを代表とする四国にかかる海峡大橋が舞台で、その中にある
「バルブ」と呼ばれるシェルターのような居住空間(とは言うものの閉鎖空間、
つまりは密室)に6名の人間が集まった。この大橋のプロジェクトの中心的人物で
あり、世界的著名人でもある科学者勅使河原とその秘書森島によって交互に
語られていく形式を取っています。
推察可能かもしれませんが、最後に残る「二人」とはこの二人。しかし両方の
「語り」からではどちらが犯人と決め付けることは不可能・・・とまあそういう
内容になります。

閉鎖空間であり、次々と人が殺されるという恐怖感というのは残念ながら味わえま
せん。それはタイトルから来るものなのか、はたまた森博嗣という作風なのか。
とにかくラストははっとさせられ、そしてもう一度驚かされる。読後はまいった
って頭を下げてしまう気分になりました。
(2月2日)


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