夏は嫌いだ。


























暑くて だるくて 外に出るのも億劫で
たまに外に出ると 大量の蝉の声が支配してて
その隙間に入り込んでくる車の音や工事の音が 煩くて 煩くて。

























消されてしまいそうになる。





















この二十数年間生きてきた俺が数秒の雑音に、 だ。

   






そう思ったら歩くのも嫌になってきて。





















ここに、意味はあるのか。




















立ち止まってしまい 明日への意味など無くなって。
このまま この人生も終わりにしてもいいかな。







なんて思った。

  













親の顔などとうに消え 身内も 大切な人も
いない。

ここに未練など無い。



























顔を上げると廃墟のビルがあった。
吸い込まれるように入っていく。




屋上から見える景色が頭の中に浮かんだ。


























とても、気持ちいい。

























もう身体も死にたがっているんだろう。









一段、一段上がっていく。
やけに重い足に視線を落としながら。





















四階に差し掛かったところだった。












五階へ繋がる階段に男が座っていた。
逆光で顔は見えなかったけれど、体格からして男と思った。













身体を少しずらすと、少し顔が見えた。
















黒髪で長身の男は、俺を見下ろしている。


すると話しかけてきた。








「何しにきたの。」







まっすぐな目で俺を見る。
直視されるのは苦手だ。


































俺を見るな。

























「ねぇ、何しにきたの。」






ゆっくり腰を上げるとこっちに寄ってくる男。
目の前でその足は止まる。
俺よりずっと身長の高い男だった。





その男は俺と同じ目線まで腰を落とす。
あの目で覗き込まれる、手はやけに汗ばんでいた。







「君の耳は死んでる?」








こいつは分っていっているのか。
たちの悪そうな笑い方。そんな男に多少は腹が立った。
睨みつけるとそいつはまた、口端を上げて微笑した。








「いいね、その目。ここは通らせなーい。」



「…は?」







ポケットから煙草を出し、一本くわえ笑いながら言う。
俺は意味が分らないし、やけに憎たらしく言う奴にむかついてくる。








「お、やっと喋ったね。」


憎たらしい奴。











「怒るなよ。――あんた、飛びにきたんでしょ?」

「…な、んで分る…」





図星だ。初めて奴の目を自分から合わせる。
すると、男は「やっぱりね」と自分だけ納得したような仕草をした。




「よく来るんだ。同じのが。でも大抵、飛ぶ度胸なんてないから帰ってくよ。」









「でも、――」

目を捉えられる。












「あんたは目が本気っぽかったから。」















言葉が出なかった。























「だから止めたの」といってまた先程座っていた階段に戻る。










少しの沈黙。


人にすがりたがっている自分がいる。










「聞いていい?」





「なに」





「俺は達瑯。 あんたのお名前は?」



























「――みや」



























捉えられた蝶