皇帝の避暑地、承徳

第十日目
承徳なんて言う地名は、中国に来るまで聞いたこともなかった。洛陽のホテルで次にいくところを決める時、北京から遠くなくて面白そうなところを地球の歩き方で探していたら、たまたま発見したのが承徳だったのである。地球の歩き方によれば、みどころは山に巨石が立っている磐錘峰と、夏に皇帝が政務を取ったという避暑山荘。位置は北京の少し北、特快の列車で5時間くらいのところ。まあ、今回の旅行に時間的な問題がなければ一生名前も知らなかっただろう所である。昨日、北京西駅に着いたときに承徳行きのチケットを買ったので、てっきり北京西駅発の列車だと思っていたのだけどよく見たら北京駅発の列車で、気づかなかったらやばかった・・・昼頃発車の列車だったので、ホテルを出てから王府井の中国銀行で両替をして、北京駅の近くの食堂で昼食。この間の洛陽行きの列車で懲りたので余裕を持ったつもりだったけど、思ったより料理がでるのが遅くて発車ぎりぎりの時間になってしまった。結局注文していた炒飯は容器をもらってテイクアウトして、走って北京駅へ。例によって駅の入り口で手荷物をX線検査機に通すんだけど、炒飯も手に持っていたので一応ベルトコンベアに乗せておいた。
承徳行きの列車はかなり混んでいて、我々は指定席券がとれてラッキーだったらしい。今回は食料を仕入れる暇がなかったので炒飯を食べた後車内販売のひまわりの種とアイスを買った。このアイスは小豆バーみたいなもので、甘さはかなり控えめで、なぜか袋の口はどれも最初から開いている・・・再利用?こっちではこういったアイスやドリンクに入っている氷などは結局とければ生水なので、もっともやばいものだってことは知っていたけど、この頃はそんなことはちっともお構いなしになっていて何でも食べた。この路線は、山道を縫っていくので相当景色がいい!結局景色を見たりしているうちに承徳まで着いた。
6時30分頃に承徳に到着。寒い!北京でもあんなに寒いのにさらに北にきてしまったのだから当たり前だけど。とりあえず駅の売店で地図を買うと、客引きのおばちゃん2人組が近寄ってきたが言い値があまりにも高いので一番近くのホテル、京承飯店に入ってみたら、一番安い部屋が4人部屋で100元だった。しかしこっちは5人なので二部屋とらなければならないが、一人でも100元だというのを粘って粘って一人35元にしてもらって、ここに決定。このホテルはやすい部屋のある一角と、高い部屋のある一角の作りが明らかに違う。三階に上がって左に行くと安い部屋、右に行くと高い部屋があるんだけど、高い部屋の方には絨毯が敷いてあるがこっちは床、おまけに廊下の電気まで消えていた。でも部屋は今までのホテルで一番広い。洗濯物がいっぱい干せそう。
トイレットペーパー:1〜2元

第十一日目
承徳一日目は寒かった。この日は避暑山荘に行く予定だったので、ホテルを出てから駅前でバスを探すと、北京とは違って路線が5本くらいしかないので、すぐに見つかった。しかしあまりにも寒いのでとりあえずは町の中心部にでて、みんなで股引を買うことにした。こっちの人はけっこう毛糸の股引をはいているらしく、割と安く売っているようである。バスが町の中心部にさしかかると、ちょうどよく道に沿って市が立っていたので、バスを降りて露店を見ながら歩くことにする。この位置は、生活雑貨の市らしくて、古本や、洋服や、調理用具などが売っていて、見ていて飽きない。途中、パン屋でパンを買い、焼き芋をかって食べながら股引を買った。実をいうと、「自分は年をとっても絶対に股引なんてはかないぞ!」と常々思っていたのだが以外と早くその信念が破られるときがきたようだった。ほんとに寒かったんだって・・・
それからもう一度バスに乗り、避暑山荘に向かった。承徳は、中国では避暑地として有名なところらしく、その中でも皇帝が夏の暑さをさけて政務を執っていたのが避暑山荘らしい。さすがに皇帝が住んだ場所だけあって、避暑山荘は承徳の地図の6割方をしめる広大さである。とりあえずは、入ってすぐの宮殿のおみやげ屋の有料便所で股引をはくことにした。この便所は、ひょっとしたら中国で今まで入った中では一番きれいな便所だったかもしれない。個室にもちゃんと扉と鍵があったし、なによりも洗面所ではおっさんが料理をしていた。毛糸の股引は、はいてみるととても暖かいが、俺のはちょっと大きめだったので股のあたりが余って落ち着かなかったし、たまに腿がちくちくしてかゆい。だけど寒いのを我慢するよりはましかな?記念にみんなで股引姿の写真を撮った。
この宮殿は昔の中国っぽい作りで、カンフー映画に出てきそうな雰囲気があって、なかなかいい。中には昔の皇帝の服や西太后の身の回りの品や、写真などがあって、意外にも結構面白かった。この宮殿の出口にも土産物屋があって、そこのおっさんは交渉が下手で帰ろうとするとすぐに値が下がる。いつも、こういう店に来ると友達はつきまとわれるのだが、俺はよっぽど貧乏に見えるか、同胞だと思われるのか、一言「いらない」というとあっさりあきらめられることが多いので、まあ楽でいいんだけどちょっと寂しいね・・・何でも買ってしまう平井は牛の形をした石を20元で買っていた。20元は280円くらいだけど、ここでは一泊できてしまう値段なのである。やっぱり外国では外国の値段でものを考えないとだめだね、何でも安く感じてしまう。
宮殿を出ると、そこには湖(池?)が広がっていて、その湖が一面凍り付いていてスケート場みたいになっていた。実際スケートではないけどそりを貸し出していて、早速俺らも借りて遊ぶことにする。この歳でこんなこと日本ではまずやらないだろうし、周りで遊んでいるのもみんな子供だったが二人乗り用のそりでレースまでやって楽しんだ。このそりは前と後ろに一人づつ乗るのだが、ちゃんとしたスケート場と違って表面が平らではないので滑っているときにでこぼこに引っかかると前の人はそりから射出されて尻で滑っていくことになる。それで結構子供に笑われた。
とにかく避暑山荘は広いし、景色もいいのでぶらぶらしているだけでも結構楽しめる。連日の移動でちょっと疲れ気味だった我々にはのんびりした雰囲気はとても良かった。天気もすごく良かったしね。そのままぶらぶらと避暑山荘内を半分くらい回ったと思う。だけど、地球の歩き方によると”モンゴルの草原を思わせる草原”は全くモンゴルっぽくなかった。一応パオとかはあったけどモンゴルにしては狭いでしょう・・・モンゴルにも一度行って見てみたいと思った。
この日も一日歩きっぱなしで疲れてホテルへ戻ったが、思ったよりも承徳はいい町であった。実を言うとこの町にはあまり期待はしていなかったのだが、こじんまりとしているが割と栄えていて、落ち着いた雰囲気のある町だった。この日の夕食は餃子づくし。4種類の餃子を半斤(250g)づつみんなで食べる。やっぱり本場の餃子はおいしい!こうやって書いているとまた食べたくなってきた・・・。
避暑山荘:30元
宮殿:10元

第十二日目
今日は磐錘峰にいくことになっていた。こういった行動の予定を我々がいつ決めていたかというと、大まかな滞在日数をその町に着いた日の夜に決めて、行くところは前の日の夜にだいたい決めていた。その予定もかなりおおざっぱで、ほとんど気の向くままにあっちこっちぶらぶらしてきたような感じであった。そういう時間や行動の予定に縛られずに自由に行動できるところがツアーの旅行と違って貧乏旅行のいいところだね。人々とのふれあいの機会も多いし、文化の違いが肌で感じられると思う。
さて、磐錘峰への交通機関は例によってバスにしようと思っていたのだがちょうどいいバスがない。そこで初めてタクシーに乗ることにした。駅前で拾ったタクシーの運転手はおばさんで、中国では女性のバスの運転手も多いのだがタクシーの運転手も多いらしい。このタクシーに乗って気がついたことは、北京ではタクシーの運転席と助手席、後部座席の間には強盗対策の鉄格子があって治安の悪さがにじみ出ていたのだが、承徳のタクシーにはこれがない。承徳は町を歩いた感じもおっとりしていたし、治安もかなりいいらしいというのがこれで良くわかる。おばちゃんはとてもおしゃべりで、こちらが日本人とわかると磐錘峰までの20分くらいはマシンガントークだった。こっちの4人はなにを言っているか解らないので会話のターゲットはすべて奈帆ちゃんにロックオン。かなり大変そうだった。
磐錘峰は、入り口に着いてからがかなりの山道らしく、夏にはリフトもあるのだがいまは冬なので動いていない。おばちゃんはしきりに馬に乗れと勧めてきて、入り口に着いたときにいくらで馬に乗れるか聞いてくれたがこっちが日本人だということまでしゃべってくださったおかげで値段も跳ね上がった(最初から乗る気はなかったが)。これでまたしつこい客引きから逃げなければならなくなった、おばちゃんありがとね。
ガイドブックでは、1時間くらいの登山と書いてあったが、司馬台の長城を登った俺らには屁でもない道のりである。道々に馬糞が大量に落ちていたので、馬糞サッカーとかやったりして。が、昨日仕入れた股引を装備していたのが裏目に出てめちゃめちゃ暑かった・・・。
頂上に着くと、そこには40メートルくらいの岩が立っていた。これが磐錘峰である。しかし俺にとっては岩より周りの景色の方がすばらしかった!承徳の町が眼下に広がっていて、承徳の狭さがよくわかるし、町の周囲はすべて山で囲まれていて盆地のようになっている。反対側を見ると、同じくらいの高さの山々が見渡す限り続いていて、いかにも騎馬民族がいそうである。こんな景色は日本では見られないだろうなぁ。
頂上からは、来た道とは反対側から降りてゆくことにしたのだが、その道が本当に町までつながっているかどうかは行ってみるまで解らない。この辺は本当におおざっぱである。それでも帰りの道はゆっくりと下っていて、景色を楽しみながら歩いていると途中から獣道みたいになってしまった。それを降りていくと登りの時に通った道の途中に出て、無事に入り口までたどり着くことができた。帰り道は町中までのバスがあったのでそれに乗ったが、またしても逆方向に乗ってしまった!これも終点に行くまで気づかないで乗っていて、バスの運転手に言ったら笑いながらそのまま乗っていろと行ってくれた。そのままバスで町中へ、大通りから一本裏へ入った市場で胡麻の付いたパンらしきものに好みの具を挟んで揚げる、ハンバーガーみたいなやつを屋台で買って食べる。味付けで辛みそを入れてあるのだが、入れすぎで最後の方に調味料が溜まっていて4分の3くらいまではおいしかったのが最後の方はしょっぱからくて食えなかった。その後近くにあったビリヤード場でビリヤードをする。俺は結構ビリヤードが好きなのだが、中国へ来てまでするとは思わなかった。中国では割とメジャーな遊びらしく、地方へ行っても露店ビリヤード場があったりする。でも、だいたい台はでこぼこ、傾いているしキューは曲がっていて、快適なプレーはできないが雰囲気は日本のビリヤード場と変わらない、たばこの煙が充満して薄暗く、不健康そうな感じであった。このビリヤード場の台の下には補助ベットみたいな物があるし、おっさんは入り口の脇で料理しているし、この人はここに住んでいるのだろうか?謎である。
この日の夕食は初日に行った食堂に行ったら、店の人が覚えていて「正月だからサービスだ」といってピーナッツやカボチャの種、ひまわりの種を出してくれた。なくなると足してくれるしかなりサービスがいい。地方へ来ると都会よりもひときわ人情が厚いのは、やっぱり日本でも海外でも変わらないんだなぁと思った。北京でも洛陽でも何人かの日本人を見かけたが、ここ承徳では一度も見ていない。欧米の人はツアーできているらしく避暑山荘で見かけたが、日本のツアーではこんなところにこないのかもしれない。
この夜、同行者の一人、小川がホテルの灰皿を壊した。ばれないように明日買ってこなければ・・・。
磐錘峰:15元

第十三日目
さすがの我々もこの二週間連日の強行軍でちょっと疲れてテンションも下がり気味。まあ、普段のテンションが高すぎるんだけど・・・。なので今日はのんびりと町でもぶらぶらして過ごすことにして、とりあえず昼まで寝た。町へでてまずは腹ごしらえ、昨日から目を付けていた李先生というチェーンらしきラーメン屋でラーメンを食う。この店の名物は加州牛肉麺というラーメンで、加州とはカリフォルニアのこと。今まで食べたラーメンの中では日本の物に一番近くておいしかったが、不覚にも食欲がなくて半分くらいしか食えなかった。みんなに心配されるのがいやだったので無理矢理食べようと思ったがだめだった。連日の暴食がたたったのかな?
その後、日本の100円ショップのような2元市という店へ行き壊した灰皿に似た灰皿と電気湯沸かし器を買う。今泊まっているホテルはお湯がコンスタントにでないので、夜にコーヒーを飲むという貧乏旅行らしからぬ超贅沢な日課が楽しめない!そこでこの湯沸かしを買うことにしたのだった。これは、中国の家庭では一般的な物らしく、コンセントにつないでポットの口から中に差し込むと電気でお湯が沸くという代物。昔は日本にもあったような気がするんだけど、気のせいかな?しかし、これを使ってお湯を沸かした後、杏仁のジュースをホットにしようとして、カップにジュースを入れて機械をつっこんだらヒーター部分が真っ赤に焼けて溶け落ちて、一回使っただけで壊してしまった。御免。
今日は疲れをいやすのが目的なので、スーパーで買い物したりした後、早々にホテルまで戻ることにしたのだが、習慣でつい歩いて戻ってしまった。途中、武烈河という川があって、そこの河原で散歩していると鉄橋を蒸気機関車が通った。こっちではまだ現役で貨物列車として使われているようだ。
明日は北京へと戻る日。承徳は落ち着いた感じでとてもいい町だった。
今日一日の休養でまた明日からハイテンションが戻ってくるだろう。

灰皿:2元
湯沸し機:2元

第十四日目
北京行きの列車は2時頃の発車で、ホテルのチェックアウトは12時なのでチェックアウト後、いつもの食堂で昼飯を食べ、駅の周りで列車の中で食べる果物としてなしを買い、時間まで駅前の階段で座って待っていた。そういえば、昨日切符を買ったときに駅前に人だかりができていて、のぞいてみたら小汚い陰陽士が座っていた。この陰陽士はキョンシー映画にでてくる陰陽士のような格好をしていて、見物人の一人が占ってもらっているらしく紙に何か書いていて、それでお金をもらっていた。そのまま見ていると、立ち上がってどこかへ消えたと思うとどこからかラジカセを持ってきて、怪しい音楽をかけたかと思うとすぐに止めたり、なにをやっているのかよくわからない。そのうち公安がやってきてどけと言われたらしく、すぐそばの旅館へと入っていった・・・野宿じゃないんだね。
列車に乗り、早速梨をむいて食べたが酸っぱいだけでまずい。一応ノルマとして一人一つは食べたが思い出すだけで唾がでる酸っぱさだった。俺は窓際の席で、景色を見ているうちに寝てしまい、起きてみると外にちょうど花火が上がっていて急いでみんなに教えたがそれっきり上がらなくて、信じてもらえなかった・・・ほんとなのに。
北京到着は6時過ぎ、ホテルは相変わらず京華飯店。バスを降りていつもとは違う道を歩いてホテルに向かったら、小さい食堂を発見。早速入ってみるとかなり小さいが安くてうまい!場所は京華飯店のあるとおりの向かい側を東に少し行ったところ。ここはお勧めです!
京華飯店には日本人旅行者が増えていて、情報交換をしたところチベットに行くという人がいたので承徳で買った股引をあげる。日本に持って帰るのもいやだったし、捨てるのももったいなかったのでもらってくれる人がいてよかった。



第四部