"Between The Devil And The Deep Blue Sea"をはじめとする
アルバム"Brainwashed"製作時期に関する考察
About the recording session of "Brainwashed".


アルバム"Brainwashed"限定BOXセット
 アルバム"Brainwashed"の曲目が発表されてから、録音時期について疑問をもっている曲がある。アルバム中唯一のカバー曲"Between And The Deep Blue Sea"がそれだ。
 ジョージファンのうち数%、いや、もっと少ないかもしれないが、アルバム発売より以前に、すでにジョージが歌うこの曲を聴いていた。それは91年にロンドンのBBCスタジオで収録されたものであり、翌年にTV放映されたものだ。アルバム直前に発表されたプロモーション映像でもこのときの映像が使われている。

 しかし、アルバムに収録されたのは、それとは異なるミックスで、とくに曲の出だしの部分が明らかに異なるものだった。このため、多くの論評やCDに付記されている解説書にまで別録音のように書かれているのだが、これは如何なものだろう。個人的な結論としては否で、まちがいなくTV放映されたものと同じ録音のものであると考えている。
 この曲のみ他の収録曲と異なり、ジュールズ・ホランド率いるバンドの演奏とクレジットされている。このため中にはジョージの最後の録音曲"Horse To The Water"収録時に録音されたものだろう、と推測した人もいたが、はたして10年以上隔たりがある演奏で、まったく同じアレンジで演奏をすることがあるのだろうか。

 TV放映されたものと、アルバムに収録されたものの違いを比べてみると、まず冒頭は、TV録音はギター2本とドラムスで前奏が行われるのに対し、アルバムのものはジョージのカウントとウクレレだけで始まっている。それ以降はリードギターとドラムスを除けば、まったく同じと聴くことが出来る。
 それでは、ジェフ・リンとダニーが後にオーバーダビングを施したと考えるのが普通だが、そういうクレジットはない。そこで、TV放映された映像は、前もって録音しておいたトラックに合わせて行った演奏風景だという事がわかっているので、前奏やほかの相違点は、そのときにかぶせられたと考えるのが妥当であろう。そういえば前奏部分だけ演奏風景ではない別の映像が使用されている。
 つまりは、アルバムに収録されたのは、オーバーダビング前のトラックであろうと結論付けたい。唯一引っかかるのは、ジョージが曲の出だしでカウント・ダウンをしていることだ。1・2,1・2・3といってひとりだけで演奏するのはあまりに不自然な気がする。この部分だけはジェフ・リンによってほかのトラックがミュートしてあるのではないかと考える。


 このほか、アルバム"Brainwashed"が発売されてす数ヶ月が経過し、それまで謎であったアルバム収録時期がおおよそではあるがわかってきている。
 ジョージ自身がニューアルバムについて最初に言及したのは99年6月にビートルズの"Yellow Submarine Songtrack"に関するインタビューの中で"The Portrait Of The Leg End"(という人をおちょくったような名前の)アルバムを製作中だと語ったときだろう。
 その後も僅かずつながらニューアルバムの情報が流れ、80年代からの書き溜めておいた未発表曲から曲を取捨選択していること、ジム・ケルトナーを呼んでそれらの曲を仕上げにかかっていることなどが伝えられていた。
 しかし正直なところ、なかなか具体的な噂すら出ないこのアルバムに、これらの話をどこまで信用していいのか疑っていた部分もある。ニューアルバムのほかにも、未発表曲を集めたジョージ版アンソロジー、トラヴェリング・ウィルベリーズの新曲、ジョージのアルバムのリマスター版などの噂があがっていたためだ。
 2001年になってようやく"All Things Must Pass"リマスター盤が発売され、11月に新曲"Horse To The Water"発表、そして"Concert For Bangla Desh"のリマスター盤がアナウンスされ、ようやく始まった精力的な活動の矢先に訃報が飛び込んできたのだった。

 その後遺作がアナウンスされたものの、発売が延びに延び、実際は完成には程遠く、完成に四苦八苦しているのではという憶測が流れる中、ようやく発売された"Brainwashed"に収録されている音は何の遜色もない仕上がりで、さらに謎を深めた感があったが、ジェフ・リンがようやく重い口をあけ「ジム・ケルトナーのパートは9割9分完成していた」と発言したことで、ジョージ生前のジム・ケルトナーの発言と合致し、ジョージが生前すでにほとんどの録音を終了していたことがわかってきた。
 発売が遅れたのは、ジェフ・リンの過剰リミックスが一度ボツになったのではないだろうかと個人的に推測する。とても1年かけた仕上げと思えないほどシンプルな仕上がりに、試行錯誤のあとをみるのは勘ぐりすぎだろうか。
 全体的にほぼ同じくらいの時期、おそらく襲撃事件以降に製作されたと思われる曲がほとんどだが、"Run So Far"と前述の"Between The Devil And The Deep Blue Sea"はだいぶさかのぼった時期の録音だと思われる。"Run So Far"は明らかに声が若い。おそらくはエリック・クラプトンに曲を提供したのと同時期の89年頃の録音ではないだろうか。



 とりともめなくいくつか書かせてもらったが、ジョージやジム・ケルトナー、ジェフ・リンが語ったところによるとまだこのセッションでの録音が残っていると思われる。ジョージがに人に"Valentine"という曲のデモ・テープを聴かせていたという具体的な証言もあることを付け加えておく。
 それにしても、アルバム1枚以上残った曲は今後どのように扱われるのだろうか。ジェフ・リンいわく「未完成なトラック」は、今後ウィルベリーズが完成させてくれることをひそかに願っている。