「次は、○○駅〜○○駅〜。御降りのさいはお忘れ物のないようにご注意ください」     
      うたた寝をしていた私の耳に地下鉄の車内アナウンスが目覚まし代わりに飛び込んできた。
      外を見てみると、そこは自分の降りる駅のひと駅前。
     「うーん…今日は、仕事も早く終わったし何もすることないから少し歩いて帰ろうかな?」
      少し悩んだあと、なつみは荷物棚にあるかばんを取って電車を降りた。
      地下鉄の階段をゆっくり上っていくと夏の日差しがなつみの体を優しく包んだ。
     「う〜ん、気持ちぃ」
      眠気を覚まそうと、なつみは大きく背伸びをした。
      すると、背骨のあたりで"パキン"と音をたてた。
     「痛った〜。今のは、ちょっと痛かったな」
      自分のちょっとした行動に苦笑しつつ、なつみはゆっくりと歩き出した。

     「ここを歩くのも久しぶりだなぁ、ちょっと見ない間にいろいろ変わっちゃってるなぁ」
      辺りを見渡しながら、なつみはどこからか何ともいえない寂しさを感じた。
      そんなことを考えながら歩いていると、前方に長い髪をゆらしながら歩く
      見覚えのある後ろ姿を見つけおもわず声をかけた。
     「あれ?もしかして、香織?香織なの?」
      すると、呼びかけられた女性は立ち止まってゆっくりとふり返った。
     「あれ?なっちじゃない!なんでこんなとこになっちがいるの?」
     「それはこっちの台詞だべさ!なんで、香織がこんなとこにいるのさ?」
      なつみは、興奮のあまりいつもの訛りが出てしまっていることにも気づかず
      香織を問いただしていた。
     「ちょっとなっち、落ち着いてよ。訛ってるって。これ以上、続けると…かおり笑っちゃ
      ……ぷっ!はははっ、ははは。お願い止めて〜!このままだと、
      かおり笑い死んじゃう。はははは、苦しい〜」
      笑いをこらえきれなくなった香織は、おなかを押さえながら笑い出した。
      そんな香織を見てなつみは、「なによ〜!」と言わんばかりに口を膨らませて、
      怒ったような顔して見せた。

     「ところで、話は戻るけどなんでここに香織がいるの?」
      なつみは、香織が落ち着いた様子をみると改めて質問してみた。
     「はぁはぁ…はぁ〜あ、おかしい。なんでここにいるかって?あのね、
      今日仕事がかなり早く終わったじゃない、だから「さんぽでもしようかなぁ」って思って
      ぶらぶらしてたわけ。なっちは?」
     「なっちは?って、何言ってるのよ。なっちの家がこの先だからに決まってるじゃない。
      何がさんぽよ、本当はいつもの『交信』しながら歩いてたから
      どこ歩いてたのかもわからないんじゃないの?」
     「なっちすごい!なんでわかんの?」
      香織は、大きな瞳をさらに大きく見開いて驚いた。なつみは、呆れた顔して、
     「はぁ…」とため息をついた。

      2人で歩きながら話していると香織がふと、
     「あのね、なっち。香織さぁ、さっき歩きながらいろいろなこと考えてたんだ」
      と話し始めた。
     「はいはい、そうでしょうね自分が何処にいるかもわからないくらい考えてたんだから
      そうとう大変なことなんでしょうね」
      なつみは、意地悪そうに笑いながら答えた。
     「もう、ちゃかさないでよ!!」
      香織は、照れくさそうに顔をかきながら話を続けた。
     「あのね、最近自分が大人になったなぁ、って思うんだ。
      周りの風景が変わったりしてるの見て寂しく思えたり、
      なんか深く考えるようになったんだ。いろんなこと……うまく言えないけどなんか大人
      になったって感じたことがうれしい反面少し寂しいんだ」
      香織は、いつもの笑顔を浮かべながらもどこか寂しげに町並みを見ながら歩いた。
     「実はね、なっちもそういうことあるんだ……」
      なつみは、前を見ながら答えた。
     「香織と同じでさぁ、いろいろ考えちゃうんだ。
      今までそんなことなかったのに、とか思ったりしてたんだけどね。
      そっか……そうかもしれないね。私達、いつのまにか大人になっちゃったのかもしれないね」
      そう言いながら、なつみは香織に笑顔をむけた。
     「そうだよね。なっちも香織も大人になったんだよね。よし!これからがんばるぞ!」
      香織はガッツポーズをなつみに向けて微笑んだ。すると……
     「グゥ〜〜。ありぁ、気合入れたらおなかすいちゃった。
      ねぇ、なっちどっかでご飯食べようよ」
     「はぁ…さっきまでの、大人な香織はどこいったのよ!
      でも、実はなっちもおなかペコペコなんだよね。どっか食べにいこうか。
      でも、ワリカンだからね」
     「もう、わかってるって。早く行こうよ」
      2人は楽しそうに夕暮れが包む町へ向かって歩き出した。

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