「明日は『Push!アイドル』の取材。V6と対談だって。剛君はカミセンとだよ。その後2時にHTV入りして『歌謡
HAPPY&HAPPY』の収録。10時に迎えに来るから。・・・・?剛君?どうかしたの?さっきから黙ったままで。
剛君?」
車の運転席から不思議そうに剛の顔をのぞき込むマネージャー。いつの間にか剛の乗った車はマンションの
前に止まっていた。
「あ・・・、いや、どうもせんよ。少し疲れてるみたいやから。明日10時ね。遅れないようにするから。
それじゃ。」
車から降り部屋に入るなり、剛はすぐにバイクのメットを持って部屋を飛び出た。
午前12時過ぎ。呼び鈴が乱雑になった。溜息を吐き、玄関に向かう光一。
「剛・・・?どないしてんこんな時間に。」
「・・光一・・・。」
光一が玄関のドアを開けると、ずぶぬれの剛が光一を見て立っていた。その表情はどことなく怒っている。
突然降り出した雨にびしょびしょになった剛は何のとまどいもなく光一の部屋の上がり込んだ。奥から持って
きたタオルを剛に渡すと光一はソファに座った。
「なんか話があるんやろ?おまえいつもそうやな。なんかあるとすぐにこうやって来る。電話で話したらすむこと
なのに。」
苦笑いする光一に剛は何の反応も示さなかった。剛は渡されたタオルで体を拭かずに立ったまま、まっすぐ
光一を見て言った。
「どうして俺に隠してたん?舞樺のこと。俺達がつきあってることは知ってたはずやろ?どうして言わへん
かった?」
雨の音だけが二人の耳の入る。しばらく黙っていた光一は表情一つ変えずに言った。
「言ったら・・・・剛に話してたらなんか変わったんか?どっちみち剛はあの女に利用されて傷つけられてた
んや。必要ないとおもったから言わへんかった。それだけや。俺が言わへんでも遅かれ早かれ知ることに
なったんや。」
「なんでやねん。なんで舞樺を捨てた。」
「捨ててなんかない。ただ連絡をとらなくなっただけや。仕事が忙しくなって会わなくなって・・。ただの自然消滅
や。それをあいつが捨てられただの裏切られただのって。束縛されて、お互いか向上しあえない恋愛なんて
俺には意味がないんや。お前のドラマの撮影が始まってしばらくたってから、舞樺から一方的に電話がくる
ようになった。剛に言わなかったのは舞樺とドラマで競演するお前に支障をきたさないようにって。俺と舞樺の
こと知ったら、ドラマに集中できなくなることぐらい目に見えてた。だから黙ってた。」
「全部俺のためやった・・?誰がそんなん頼んだ?光一は何も俺に言わへんやないか。身体の調子が悪いとき
やって、今回みたいな時やって。俺は・・・たとえ俺が傷ついたとしても話してほしかった。」
「剛のためなんかやない。剛に話して解決しないと思うからいわへんかった。お前は何もかも、知ってさえ
いればどんなことでも解決出来ると思いこんでる。」
そうはっきり言った光一にタオルを投げつけると剛は何も言わずに光一の部屋を飛び出した。剛の出ていった
部屋でソファに座ったままで床に出来た水たまりを見つめていた光一は、大きく溜息をついて天井を見上げた。
午前9時30分過ぎ。剛はソファの上で目を覚ました。光一のマンションから帰ってきて濡れた服のままで眠って
しまったのだ。雨の音が聞こえない。どうやら雨は上がったらしかった。剛は起き上がって濡れた服を洗濯機に
入れるとその辺にあった服にきがえた。カーテンを開けて部屋を見回してみる。昨日の今頃、剛は舞樺とここに
いた。幸せだった。彼女がいてくれただけで。剛は未だに舞樺の言葉を信じることが出来なかった。
「初めから、あなたなんか好きじゃなかった。」
舞樺のその一言が剛の耳に残って消えなかった。
「ぉはようございまぁす。」
剛が雑誌のロケ現場につくとカミセンは既にメイクに入っていた。ロケ現場は剛達がいつか使った土手沿いの
広場だった。ロケバスに乗り込んでカミセンと顔をあわせる。
「おはよぉっす。」
「遅っせぇよ。寝坊したんだろ?」
三宅がメイクをしながらティッシュを丸めふざけて剛に投げる。他の二人はメイクを終え、森田は剛を隣に
座らせて持っていた雑誌を渡し岡田は自分の鞄を探っていた。
「剛君、宿題終わった?俺全然終わらんわ。手伝ってーな。」
「はぁ?なんやねん。お前が手分けしてやろうって言い出したんやろ?それに俺かてまだ自分の分終わらして
ないねん。」
生物のテキストを持って剛に泣きつく岡田に、メイクを終えた三宅が差し入れのお菓子を手に取りながら
言った。
「なんだ二人でやることにしたんだ。まぁそれが一番手っ取り早いよな。岡田ぁ、言っとくけど俺らは
手伝わねぇよ。」
「なぁ?聞いたやろ?V6なんてこんなもんやねん。そこいくとKinkiは光一くんええよなぁ。俺も頼もう
かなぁ。」
光一の名前を耳にした剛は岡田から視線を逸らした。他の3人が黙り込んだ剛を見て顔を見合わせる。
「剛くんどないしてん?」
「えっあっ、いや、なんでも。」
雑誌の取材を終え、V6もHTVでのレギュラークイズ番組の収録があるとのことで4人は一緒にテレビ局に
向かった。光一とトニセンは都内のスタジオでの撮影のため、4人より先に局入りしていた。剛達がV6の
楽屋をのぞいたがトニセンの姿は見あたらない。
「きっとKinkiんとこにいるんだろ。」
剛達が楽屋に向かうと案の定光一とトニセンはそこで話し込んでいた。
「おぉ、やっと来たか。つよしにこの間約束した指輪。作っといた。」
自分でアクセサリーを作るのを趣味としている井ノ原は、以前から剛に何か作ってくれと頼まれていたのだ。
井ノ原は自分の指にはめていた中から一つをはずすと、剛に向かって軽く投げた。
「さっきスタッフが来て、すぐにカメリハ入るって。」
長野が井ノ原の横でコーヒーを飲みながら言う。
「さて、俺らもそろそろ戻ろうか。」
坂本がそういって立ち上がるとゆっくりと歩き出した。井ノ原から貰った指輪をはめて顔を上げた剛は、
光一と目があって慌てて視線を逸らした。自分の楽屋に入るのをためらっている剛に気づいたのか、井ノ原
が剛の背中をそっと押した。
「指輪大事に使えよ。」
「あっ、ありがと。」
V6のメンバーが出ていってからしばらくの沈黙の後、スタッフが二人を迎えに来た。
「Kinkiさんカメリハお願いします。」
光一にどう接するか迷っていた剛は、タイミング良く来たスタッフに内心感謝していた。その日剛は、光一と
一言も会話せずに仕事を終え帰宅した。
明日はドラマの撮影があるし、明後日は夏のコンサートツアーの最終日。どっちにしても光一や舞樺と顔を
合わせなければならない。剛はどうしたらいいのかわからず、ベッドに横になったまま考え込んでいた。
「剛、起きてるか?」
ドタドタと岡田が上がり込んできて、剛は起きあがった。
「なんやねん。どうかしたんかい。」
「どうかしてんのはそっちやろ?イノッチには二人の問題やねんから口出すな言われたけど、黙ってられ
へん。率直に聞くけど光一君と何があってん?」
「何って別に・・。」
「嘘やろ。俺分かんねん。水くさいやん、俺ら親友やろ?なんでも言うてーな。」
ベッドの前で正座する岡田を見て、剛は溜息を一つ吐くと岡田に全てを話した。
「剛くんとつきあってたんがあの桂木舞樺だったとはなぁ。まぁ確かに剛君の気持ちも分かるで。でも光一
くんの言うことも正しいんちゃう?」
腕を組んで考え込んでる岡田にあきれた剛は、冷蔵庫に飲み物を取りに行こうと立ち上がったが、足下が
ふらついてその場に座り込んでしまった。
「なにしてんねん。」
岡田は立たせようとして剛の腕を掴んだが、何かに気づいて剛の額に手をあてた。
「剛君、熱ある。風邪ひいた?なんか風邪ひくようなことしたん?」
「・・・・昨日濡れた服のまま寝た。」
「アホかっ。なにしてんねん、この忙しいときに。とにかく寝ろや。」
ベッドに無理矢理寝かされて剛はぼんやりと天井をみつめた。いつの間にか頭痛が波のように襲ってきて、
一向に治る気配を見せない。それまで黙り込んでベッドに寄りかかっていた岡田が口を開いた。
「なぁ俺考えたんやけど、剛君は光一君が何も話してくれなかったことに対して腹を立ててるんやろ?」
「・・・確かに舞樺に利用されてたのはショックやった。けどそれ以上に光一が俺に何も話してくれ
なかったのが嫌やったのかもしれん。」
「だったら今そんなに急いで光一君を理解しようとか考えんと、向こうから話してくれるの待ったらええん
ちゃうん?」
「4年も一緒にやってて話してくれへんねんで。きっとこれからだって話したりせぇへんやろ。」
「そんなんわからんやろ?いつその時がくるかなんて。」
「そうかぁ?」
「そうやて。だから元気だせや。・・・そうや、光一君に電話してみ。仲直りしたらええやん。」
テーブルの上に置かれていた剛の携帯を手にとって短縮ボタンを押すと、岡田は剛の耳に無理矢理携帯を
押しつけた。
「ばっ、余計なことすんなや・・、あ、・・・あの・・俺、剛やけど・・・・あの・・。」
なかなか話そうとしない剛に岡田は小声で用件を言うように促した。そんな岡田に背を向けた剛は頭をかく。
「・・・・昨日は悪かったなって思て・・それで、その・・・・俺、光一が話してくれるの待つから。
今回のことに限らず、いろんなこと俺に話してくれるの待ってるわ。・・・うん。・・・。」
「どやった?」
携帯のスイッチを切ると剛は笑顔で岡田にうなずいた。
「光一な、別に俺のこと信用してない訳やないって。3つも年下の俺に相談や悩みなんて打ち明けられへん
し、舞樺とのこともそれで言い出せへんかったって。」
必要以上に喜ぶ剛に呆気にとられながら岡田はうなずいた。
「よかった、よかった。これで問題は宿題だけやな。なぁ?っておいもう寝てるんかい。」
鼻をくすぐる匂いに剛は目を覚ました。誰かがキッチンに立っているのがぼんやり見える。
「舞樺・・・・。」
思わずその名を口にした剛はそこにいるのが誰なのか確認しようと慌てて目を擦った。視界がはっきりせずに
いる剛に、キッチンに立っていた人影が振り返った。
「剛・・・?起きたんだ。」
「実央?」
声を聞いてようやくそれが誰なのか分かった剛は、ベッドからゆっくり立ち上がった。頭痛はなんとか
治まったがまだ足下がふらつく。
「なんでここにおんねん?社長んとこ行ったんとちゃうんか?」
「昨日岡田君から剛が熱だしたって連絡もらって。心配だから来てあげたんじゃないよ。なのになんで
あたしのこと彼女と間違えるの。失礼なかんじ。」
器にお粥を盛りながら実央は頬を膨らました。実央の隣に立って水を飲もうとコップに手を出した剛は、
その言葉を聞いて驚いた表情で実央の顔をのぞき込んだ。それに気づいた実央は、テーブルの上にお粥を
おくとポケットから一枚の紙切れを出し、剛に渡した。
「ごめん。この間洗濯物のポケットの中に入ってて。」
剛はコップを流しにおいて実央からメモを受け取ると、それを丸めてゴミ箱に投げ入れた。
「剛・・・?」
「別れたんだ。・・・別れたって言うんかなぁ?ようわからへんけど、もう二人きりでは会わへんねん。
・・・気ぃ使わせてた?」
黙って首を大きく左右に振る実央。剛は上着を脱ぎ捨ててTシャツに袖を通すとソファに身を沈めた。
「具合はもういいの?仕事して平気なの?」
TVのリモコンでチャンネルを変える剛に、洗濯物を奥に片づけながら実央がたずねた。
「少し怠いけど大丈夫やろ。ちょっと具合が悪いって休める仕事じゃないしな。こんなん慣れてる。」
「いつもは朝食食べないって言ってたけど、今日は食べて貰うよ。体もたないからね。」
「はいはい。」
面倒くさそうに返事をしてテーブルの前に座ると、剛はお粥を口に入れ始めた。
「うまいやん。これ。うまいよ。」
おいしそうに頬張る剛の後ろ姿を見つめながら、実央は自分に言い聞かせるようにして何度かうなずくと、
剛の前に座った。
「ねぇ、・・アタシ・・・・剛のこと・・」
「そうだ、明日コンサートの最終日なんや。横浜で。実央見に来るんやろ?何時に来る?俺ら9時には会場
入りしてリハとかやるから、一緒に会場入りしよか。」
「え・・・うん。そうだね。あ・・お茶いれるね。」
実央は慌ててうなずき席を立った。剛には絶対に知られてはならない、気持ちを伝えてはならない、そう
決心したはずなのに思わず口に出してしまいそうになった実央。
「今なんか言おうとしてたやろ?なに?」
器を持ちながらキッチンへ立った実央に体を向け、ソファーに座り直しながら剛が尋ねる。実央はカップを
用意しながら振り向かずに答えた。
「別になんでもないよ。それより時間。いいの?遅れるよ。」
「ヤバッ。実央後よろしく。行って来ます。」
お粥を素早く流し込み素早く着替えを済ませた剛は、鞄をとって部屋を飛び出していった。
剛がドラマの撮影のために楽屋入りしてしばらく時間が経った。一応台本を広げてはいたが、剛の頭に台詞
は入っていなかった。マネージャーが楽屋からでていって、一人きりになった剛は台本を床においくと
向かいの楽屋の前で何度か深呼吸し、ドアをノックした。中にいた人物はドアを開けるなりその表情を
こわばらせた。
「これ返す。」
そういってポケットの中から鍵を出すと剛は舞樺の手のひらに鍵を落とした。
「・・剛・・・。」
「まんまとあんたに騙された。舞樺のことは今でも好きだけど、俺は光一の方を選ぶよ。友達になんか
戻れっこないし、友達としてつきあっていくつもりもない。でもいつか、舞樺が本当に俺のことを好きに
なる日が来るなら、友達じゃなくその前から始めよう。」
剛は泣き出しそうな舞樺に笑顔を見せると、舞樺の楽屋から出ていった。
「ごめんなさい・・。」
そう謝る舞樺を背中に感じながら、剛は振り返ることなく自分の楽屋に入ってドアを閉めた。ドアに寄り
かかりながらしゃがみ込み膝を抱える。下唇をかみしめ顔を伏せると剛は大きく溜息をついた。
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