全知全能なるものへの呪咀で終わった、堕天使の花嫁の第一部。
そのセットに黒い翼を模した黒布が広げられる。クライマックスの
音楽が奏でられる中、現われ出たのは黒い羽根をもつ男。
「我が名はメフィストフェレス。堕天使ルシファーとリリスの子。
……今日は、一人の男の生き様をお目にかけよう。
大いに笑うがいい。
真実の愛などとほざいている、一人の男の生き様を!」

そして彼は叫ぶ。「LOVE OR DIE!」

「フィアンセになりたい」で始まるステージ。黒い羽根の帽子を
脱ぎ捨て、妖艶な笑みを浮かべながら。だけど、ベイベー達は
動かない。……動けないのだ。あまり、手を上げる人はいなかった。
多分、気圧されていたのだ。ステージに現われた男に
呑み込まれていたといおうか。堕天使の時とは、明らかに何かが
違っていた。それは、数十分後に明らかになるのだけれど。

そして、「彼と彼女のこと」BLITZ以来のこの曲。なのにまだ、
客席はやや気圧され気味。実際、ステージ上の彼は、ぴんと
張り詰めて いて、痛いくらいに真剣なのだ。曲が進むにつれても、
今までより おとなしめの客席。一体どうしたんだ、堕天使の時には
あんなに あっちこっちでゲラゲラ笑い声が上がったりしてたのに(笑)
「僕のゼリー」は、ちょっと歌詞が変わっていたような気がする。
りえさんの歌は、「愛の救世主にはなれない」というリフレインの
激しいものだった。どこかで、聴いたことがあったのだけど、
この時は思い出せなかった。

そして、「モラリティー」の後で、「あやふやな私」の朗読。
そう、ここまでは何度となく見た光景。だけど。
本を半開きにしたまま、彼は続けたのだ。哀しいまでの、笑顔で。
「だから。……僕はもう怖れません。生も、死も。」
そうしてゆっくりと本を閉じると、彼は階段を昇りはじめた。
何度となく昇ったあの階段を、ゆっくりと踏みしめながら。
昇りつめた先にはいつしかぽつんと椅子が置かれ、ピンスポットが
当たっている。彼はじっとその椅子を見下ろすと、腰を下ろし……
靴を脱ぐと、きちんと爪先を客席に向けて揃えた。
ひとつひとつの所作は、ひどくゆっくりしており……その間ずっと、
胸が痛くなるほど、せつない笑顔のままだったのだ。
彼は再び立ち上がり。椅子を見つめると。ゆっくりと、片足を
かけた。そして椅子の上に乗ると。客席に背を向けて。そして……
一瞬にして、椅子の上から彼の姿が消えた。
客席右手後方から、泣き声が響いてくる。それは一際激しかったけど、
あちこちで泣いている人がいるのがわかる。背後から響いてくる。
目の前からは救急車のサイレン。点滅する赤いライト。

メロディーが流れる中、女性のナレーションが被さる。
「及川光博さま。久しぶりにお手紙書いてます。お身体の調子は
どうですか? あれからもう2年が経って……私の周りのベイベー
たちは、もうみんなみっちーのこと忘れてしまったみたいだけど、
あたしはちゃんと覚えてるよ!でも、忘れてしまった方が、みっちーは
楽になるのかなぁ?……噂ではもうすぐ完全復帰だとか。楽しみに
しています。ぴーえす、仕事、決まったの。ずっとやりたかった仕事
だから、今はもう、空も飛べるくらい、幸せです。」
翼を下さい」のアレンジ。弾いていたのはひろりー。明るい声色の
ナレーションと、このメロディー。だけど、衝撃は消えない。
泣き声も、聞こえてくる。

彼が、現われた。堕天使の時は最後に着ていた、銀色で襟元に
棒タイのついたシャツ。スタンドのマイクを両手で包むようにして、
「心配かけてごめん」
客席からは、「待ってた!」「大丈夫!?」という声があがる。
彼は、微笑んで歌い出した。「ペンフレンド」
いつも思うのだけど、この曲と、今回のメニューにはなかったけれど
「君がいなくても」や「展望デッキ〜夜間飛行」を歌う時の彼は、
とても……見ているこっちが痛くなるくらいの表情だ。マイクは
拾わないけれど、間奏の時に歯を食いしばっていたり、何かを繰り返し
口にしていたり、するのだ。今回も、そう。
そして。
「新曲、聴いてください。……Solution」
本当に、新曲だった。SolutionIllusionのリフレイン。そして、
「崩れてゆく、砂の金字塔」というフレーズも何度か聞き取れた。
ステージ全体が明るく照らし出されるライティングが、とても
綺麗だった。
「……どうもありがとう」
歌い終えた彼はそう口にして。
幕が、降りた。

GO TO HELL?