蘇ったルースターズ伝説ーRock 'N' Roll Gypsies

     
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(注:このコンテンツでは敬称は略させていただいています)
急速な勢いで私を虜にしたルースターズ
 1980年にデビューし88年に解散、解散後も日本のロック・シーンに多大な影響を与え続けている伝説のバンド・ルースターズ。私の地元・北九州出身のバンドであり、60年代のR&B系の鰤ビートを思わせるサウンド、そんな、私にとって身近なはずのバンドだが、彼らに目覚めたのは2003年5月にファーストを買ってから。 しかも本格的に彼らにのめり込んでいったのはベスト盤を購入、バンドのサウンドの劇的な変化、大江の精神性疾患による「迷走」などの衝撃的な事実を知ってしまった同年10月。その辺についてはこちらで詳しく語っているので、一度読んでいただいてから以下お付き合いいただきたいと思う。

  同時に、2003年はルースターズにとっても特別な年であった。ある時は花田裕之のソロ・アルバムのレコーディングのため、またある時は地元で開かれた地方博・北九州博覧祭(2001年開催、大赤字を出して市長は市民の大批判を浴びた)を盛り上げるために、そしてある時はフジ・ロック・フェスティバル出演のためと、時々集まってはレコーディングやライブを行っていた「ルースターズ同窓会」的なバンドがロックン・ロール・ジプシーズ。メンバーは精神性疾患のために1990年以来音楽業界から引退してしまった大江慎也を除くルースターズのオリジナル・メンバー=花田裕之(vo,g)、井上富雄(b)、池畑慎二(d)に、 大江脱退直前&直後の後期ルースターズを支えた名ギタリスト・下山淳の4人。もちろん4人は、それぞれにセッションに、自分のバンドにと活動しているわけで、当初のジプシーズはパーマネントなバンドというわけではなかった。ところが2003年、バンドとして本格的な活動を開始、ファースト・アルバムROCK 'N' ROLL GYPSIES Iを発表したのである。しかも収録曲のうち3曲の作詞が、あの「再起不能」といわれていた大江慎也。 さらに8月に下北沢で行われた「アルバム発表記念ライブ」に、予告もなく大江慎也が登場、しかもちゃんと歌ったというんだから、これがニュースにならないはずもない。その大江も地元・福岡で新バンドを結成してライブ活動を開始。「伝説のロッカー」「幻のロッカー」の13年ぶりの復活。更にジプシーズは、かつてルースターズのライバルであり、友人だった陣内孝則率いるロッカーズのデビューまでの軌跡を追った映画「ザ・ロッカーズ」(陣内孝則監督、中村俊介主演)のサントラも手がけた。・・・というわけで、2003年はルースターズにとっては、なにかと特別な年だったわけである。 しかし「本格的にファンになったのは今年、しかも大江復活後の10月」なんていう、間の抜けた初心者ファンの私には、 そういう実感は薄いわけで・・・。とはいえ、そんなこととは無関係に、私の「ルースターズ熱」は高くなるばかり。10月半ば〜11月頭に3枚目までのアルバムを購入、ルースターズ・サイトの多くで彼らの歴史、ディスコグラフィ、メンバーの変遷、メンバーのプロフィールなどの情報を頭の中へ叩き込んでしまった。何しろ、生まれつき「熱しやすく冷めにくい」上、「一度恋したら一直線で、命懸け、好奇心旺盛」「記憶力、暗記力に自信あり」な私だから。

  そうやってルースターズ・サイトを眺めていた11月初頭、ロックン・ロール・ジプシーズが全国ツアーを行うとの情報が。日程を調べる。福岡公演は11月22日、会場は天神・親富孝通りにある、600人ほどで満員になるライブ・ハウスDRUM-LOGOS。行こうかなぁ。でもなあ、まだルースターズは初心者だしなぁ、ジプシーズのアルバムは買ってないしなあ、同じ月にニール・ヤング(11月12日)に行くしなあ、日本のロックのライブは経験がないしなあ・・・。 ということで、「もっとファン歴が長くなってからでもいいや、今回は見送り」にするはずでいた。ところが、そこに思わぬニュースが。


「大江慎也登場」のニュースに、我を忘れて、しかし当日は・・・
 ニール・ヤングのライブ(11月12日)が近づいたある日、いつものようにルースターズ・サイトを眺めていた私。そのボードに信じられない書き込みが。書き込みの主は福岡在住の方。「昨日行ったあるアーティストのライブ会場でチラシを貰ったんですが、そこに『ジプシーズ福岡公演に大江慎也ゲスト出演決定』って書かれてました」。我が目を疑った。確かに大江は下北沢の「ジプシーズ・デビュー・アルバムお披露目ライブ」に予告もなく飛び入り出演、しかも今は地元・福岡で新しいバンドを率いてライブをやっていると聞いていたから、一時期のような「引退状態」ではないのは分かる。 しかし、実は大江慎也は11月18日に熊本でライブをやる(実際に行われた)という情報も入ってる。13年ぶりに「復活」したばかりの「病み上がり」のアーティストが、こんなに立て続けにステージに立てるとは思えん。ところが、あれこれ調べるうちに、それが本当だということを知り呆然。その瞬間「俺は初心者だから」とかっていう意識はどこかへ吹き飛んだ。大江慎也を単独で見る機会は、彼の活動が軌道に乗ったら今後、増えるだろう。ジプシーズを見る機会も、きっと今後あるだろう。だけど、大江、花田、井上、池畑のオリジナル・ルースターと、後期のキー・パーソン・下山という、ルースターズの「歴代ベスト・メンバー」が同時にステージに上がる、そんな光景を見る機会は二度とない可能性が高い。 「初心者だから」って遠慮してる場合じゃない。・・・そう思いたった私はすぐにネット上でチケットを入手。まだ聴いていなかったジプシーズのアルバムも買って予習せねばと、ニール・ヤングのライブの日に福岡市内のCD店で購入、そして聴きまくった。急に行くことに決めたので、スケジュール調整に手間取ったが、もはや迷いはない。準備は整った。

  とはいえ、当日になると気持ちは揺れはじめた。朝まで仕事、朝の10時頃就寝、昼の2時頃起きて、3時頃家を出て、福岡へと向かう。夕方の4時半頃には福岡・天神に着き、ニール・ヤングの時と同様、CD店などをふらつきながら時間を過ごす。開演は7時、開場は6時である。当サイトの他のライブ・レビューを見ていただければお分かりの通り、私は基本的に開場とほぼ同時に会場入りする癖がある。というか、もともと私生活でも「時間より早め早めの行動」をとりがちな性格。 だけど、なんとなく会場に足が向かない。オール・スタンディングの小さな会場だから、あんまり早く行っても疲れるってのもあったけど、それ以上に「俺は初心者だしなぁ」という気持ちが邪魔した、それが正直なところである。開演30分前になったので会場へ向かって歩き出す。既に会場前には人だかりができていた。しかし、時計を見るとまだ6時40分。うーん、まだ早いかも、「ギリギリに会場入り」でもいいよな。俺は初心者だから前の方に陣どっちゃあいけないしね。というわけで、用もないのに近くのコンビニに入る。 何も買わずに出るのは申し訳なく思ったので、缶コーヒー(ホット、当日は寒かった)を買って店を出る。時計は6時50分。そろそろいいかな、とばかりに会場入りした。

  中へ入る。この規模の会場ははじめて。キンクス(川崎クラブ・チッタ)、ニック・ロウ(渋谷クアトロ)よりも小さい。最後列でもステージははっきり見える。無理に前に行くこともあるまい。とはいえ、想像以上に混んでいる。さすがに「大江慎也登場」を知って急遽駆けつけた人も多いんだろう。関西弁、標準語も入り乱れる。年齢的には20代半ば〜30代後半が大多数。なるほど「もろ世代」な人たちって雰囲気。物静かだけど、でも熱いものを秘めた、そんな人が多いように見える。男性は渋めのファッションの人が多い。 女性は妙にきれいな人が多く、予想していたような「元ヤンキー系」って感じでもない。しかし「大江登場」を知らずに来てる人もいるようで、「ゲストは陣内(孝則)か、中村俊介(映画「ロッカーズ」主演俳優。ジプシーズをバックにサントラで歌ってる)か?」などと言ってる奴もいる。しかし年齢層が高いためか、こういう会場のライブにしては珍しく「おとなしく待ってる」風。私はステージに向かって左サイド、前から数えてちょうど中間あたり、最前列より一段高くなってるあたりに自分の場所を「確保」した。「初心者だから」という遠慮のせいだけでなく、自分の身長(165センチ)も考慮してのこの位置。長身の男性2人の頭の間から、ちょうどステージ全体が見渡せる。 ちょっと「後ろめたい」気持ちを抱きながらも、開演を待った。7時10分を過ぎた頃、In And Out(ルースターズのファースト収録のインスト・ナンバー)のBGMに合わせてメンバー4人が登場、いよいよ開演となった。


                                                        
2003年11月22日DRUM LOGOS(福岡市)公演演奏曲目

1.Frame Up Boogie14.No Time
2.Natural Powered 115.Reliable Man
3.Criminal Rock16.N.W.O.[vocal on 下山]
4.Good Time (To Love You)17.Leather Boots
5.Ho Train Boogie18.Love Hurt
6.Rosie19.Do The Boogie
7.Fool For You20.Lazy Sun
8.どうしようもない恋の唄21.Let's Rock [featuring 大江慎也] (以下、アンコール I)
9.Let 'Em Roll22.C.M.C.[featuring 大江慎也]
10.揺れる陽炎の彼方に [vocal on 井上]23.恋をしようよ[featuring 大江慎也]
11.Old Guitar24.Truckin'(以下、アンコール II)
12.Sad Song25.All Night Long
13.Case Of Insanity26.Bye Bye My Girl
           
メンバー花田裕之(vo,g)
下山淳(g,vo)
井上富雄(b,vo)
池畑潤二(d)
スペシャル・ゲスト大江慎也(vo:21〜23.)

はじめて気がついた、池畑潤二のドラムの凄さ
 特に挨拶するでも手を振るでもなく、いきなり演奏をはじめるジプシーズの4人。立ち位置はステージ向かって左から下山、花田、井上の順。でも、演奏がはじまってすぐに気がついた。そういえば、未だに「動くルースターズ」を見た経験は一度もなかったんだ! 生だけでなく、映像ですら・・・。ビデオは全部廃盤、DVDは出てるけど、うちにはプレイヤーがない。 だから「全盛期のルースターズが動いている絵」は見たことがなく、彼らの姿はルースターズ・サイト、CDのジャケ写、雑誌などで見たのみ。つまり「動いて」はいないわけで。周りは比較的クールに見てる。おそらく、彼らの動く姿は何度も見た人たちだろうから。でも、私にとっては彼らの一挙手一投足、すべてが新鮮。ああ花田って、こんな風にギターを構えるのか、とか、 4人ともステージ上では無表情で、MCもほとんどないんだな、とか。しかし、中でも最も衝撃的だったのは、実は池畑のドラミング。彼のドラミングって、もの凄く重くって、聴いていると腹にズシズシ響いてくる。だからといっても、ジョン・ボーナムのような「肉体派」って感じじゃなく、堅実にリズムをキープするタイプ(チャーリー・ワッツがお気に入りのドラマーらしい)。なのに手数も多く、しかも重いから、決して「地味」ではなく、むしろとても派手派手に聞こえる。池畑って、こんなに個性的で 凄いドラマーだったんだと、はじめて気がついた。もちろん楽器音痴の私といえども、彼のドラムはCDで聴いても「気持ちよく乗れる」ものだけど、パワフルというイメージはなかったので、かなり驚いてしまった。それと、オリジナル・メンバーではない上、山形出身、しかも「ストレートなビート・バンド」に、サイケでエキセントリックなギター(シド・バレットやトッド・ラングレン、フランク・ザッパのファンとして有名)を持ち込んだ下山に対して、「外様」というイメージを持ち続けていて、何となく親しみも持てなかったんだけど、 金髪をなびかせてクールな顔で激しいギターを聴かせる彼は、生で見ると、いかにもロッカーという感じでカッコよく、好感度は大きくアップした。

  会場は決して「凄い盛り上がり」って感じじゃなく、「普通に聴いている」風。観客の年齢層のせいもあるだろうし、「ジプシーズの曲は知らない」人もいるせいかもしれない、だけど、むしろ「クールな盛り上がり」は、彼らの演奏に負うところが大きいだろう。基本的に4人とも、激しくアピールするタイプじゃなく、クールに演奏に打ち込むタイプ。特にフロントに立つ花田のクールさがカッコイイ。だからといって「何となく演奏してる」ってわけじゃなく、セッション・ワークも多くこなすなど、腕は確かなベテランばかりだから「聞かせどころ」も心得てる。 つまり「良質のロックン・ロールを聞かせる、クールなバンド」という佇まい。ベスト盤でしかまだ聴いてないけど、大江慎也脱退後、花田&下山がリーダー・シップをとった後期ルースターズの作品もこういうカラーだし、ジプシーズのファースト・アルバムだって、そういう空気が支配してる。だから決して「観客は盛り上がってない」というわけではないし、「正しい聴き方」をしてるのかもしれない。前半はジプシーズのアルバムからの曲(Criminal Rockは大江脱退後、花田&下山時代のルースターズ・ナンバー)が続く。


花田が引き継いだ「大江の魂」
 しばらくジプシーズのナンバーが続いた後、花田のMC「じゃあ、ここでルースターズの曲を」。さっきまでと一変して沸き返る会場。「ロージー」、「フール・フォー・ユー」、「どうしようもない恋の唄」という、名盤ファーストからのナンバー3連発。会場は大合唱、ようやく盛り上がりはじめる。 それまで普通に立って見ていた私も、リズムに合わせて体を揺らしはじめた。と、ここで、私の前に20代半ばくらい、身長155センチに満たない小柄な女性が割り込んできた。おいおい、と思ったけど「おっと俺は初心者だし」とばかりに、場所を譲ってあげた(笑)。いや、彼女が私の前に立ったとしても、彼女の頭ごしにステージ全体は見渡せたので、別に支障はない。しかしこの女性、周りは私を含めて「怖そうでむさ苦しい男」(笑)ばかりのためか、1人で来ていて終始オドオドしてたのと、 やはり身長が足りずに見えにくそうにしていて、ちょっと可哀相だった。ジプシーズのライブでは、頻繁に大江時代のルースターズのレパートリーが演奏されていることは知っていた。でも、私には「大江の歌ってた歌を花田が歌うのは、なんとなく抵抗があるなあ」という気持ちも少なからずあって・・・。とはいえ、こうやって生で聴くと、やっぱりいい。純粋に「曲がいいから」というのもあるだろう、花田のボーカルで聴いても全然違和感はない。実際、違和感を感じている観客もほとんどいないようで、だからこそ、こうやって盛り上がってるんだろうし。

  ライブはその後も、ジプシーズの曲を数曲続けた後、ルースターズの曲を入れるという構成で進行。MCはほとんどない。とはいえ、ルースターズ・ナンバーのうち、Sad SongとCase Of Insanityでは、思ったほど盛り上がらなかったように思える。というのも、この2曲の歌詞、前者は精神不安定に陥った大江だけが見たであろう「あっちの世界」を歌ったシュールなものだし、後者も大江が自身の心の闇を告白した曲(どちらも初心者の私流の解釈だけど)。 正直「大江以外には歌い得ない」ナンバーともいえるわけで。大阪公演では盛り上がったとの話だけど、福岡には大江が来てたわけだし、そのことを大半の観客は知っていたわけだから、「どうせなら大江の歌で」と思うのは当然。実際私も無意識にそんなことを頭を過ぎったのかもしれない、この2曲は比較的クールに聴いていたように思う。それよりはジプシーズのアルバム収録のインストでReliable Manの池畑の激しい「リード・ドラム」に興奮したこと、 そしてルースターズのアルバム未収録曲ながら人気曲、私は未聴のLeather Bootsを聴けたことの方が嬉しかった。

  そしてライブはジプシーズ・ナンバーLazy Sunで終わり、メンバーは一旦ステージを降りる。


伝説のロッカー、大江慎也降臨
  アンコールの拍手と共に「オオエー」という声があちこちから上がる。やはり大江が登場することを知ってる人は多い。「遂に歴史的瞬間が来るんだ、そうなったらこの会場、どんなパニックが起こるんだろう」と期待と不安の私。もちろん「大江が見れるぞ」って興奮もあったけど、 「ルースターズ脱退直前やソロ時代の大江は抜け殻のようなライブ・パフォーマンスばかりで、熱心なファンであればあるほど、辛くて見てられないものだった」みたいな、リアル・タイム・ファンの声も聞いていたので、「本当に大丈夫なのか?」という不安もあった。そして「こんな歴史的シーンに、自分のような初心者がいていいのか?」って気持ちもあって・・・。

  やがてジプシーズの4人が再登場、花田がマイクに向かってこう紹介する。「今日は近くということもあって、遊びに来てくれました。また一緒にやれて嬉しいです。大江慎也!」。わずか600人程度収容の会場とは思えない、何万人もいるんじゃないかと思えるほどのもの凄い拍手と歓声。開演前に大江が来てることを知らずに「ゲストは陣内か?」などと冗談を言ってた奴は「嘘やろ!」と大声を上げていた。私も思わず身を乗り出す。 と、パジャマの上下のような服に身を包んだ、髪はボサボサ、丸々と太った「怪しいオッサン」が現れた。!!!???・・・。「大江の最近のルックスにかつての面影はない」とは聞いていたが・・・。この人が確かにあの大江慎也なんだぞ、と自分に言い聞かせるもう1人の私。だけど、そんなことを深くは考える暇もなく、花田がギターを一発「ジャ〜ン」と掻き鳴らす。 もう、何の曲が登場するのか、すべての人が分かった。大江が拳を振り上げて歌う。Dan dan dan dan da dan dan。ルースターズの代表曲Let's Rock。この瞬間に、大江登場時に感じた複雑な気持ちは、すべて吹っ飛んだ。登場からこの瞬間まで、ほんの数十秒。その数十秒の間に、私はこれほどまでに気持ちが激しく揺れ動いたというわけ。しかしやはり声も出てない。 ガラガラ声、「歌ってる」というより「がなってる」だけのようなボーカル。シャープなイメージの曲に似合わぬ、「タコ踊り」のような大江の珍妙なダンス。知らない人が見たら「近所の変なオッサンがステージに乱入して暴れてる」としか見えないかもしれない。だけど、そんなことはどうでもいい。伝説のロッカーを中心に、伝説の5人がステージにいて、このジャパニーズ・ロック史に残る名曲を演奏している。しかも真ん中にいるのは「再起不能」とまでいわれた人なんだから。さっき私の前に割り込んできた女性の目が潤んでいる。 大江を優しく、見守るような目、思わず引き込まれそうになった(脇見してる場合か:笑)。リアルタイムではルースターズに女性ファンは少なかったと聞いている。確かに女性受けするタイプのバンドとは思えない。そのわりに今日は女性客が多く目につく。「一体、彼女たちはルースターズのどこに引かれるんだろう?」と疑問だったんだけど、意外と大江のキャラって、母性本能をくすぐるものがあって、その辺に引かれるのかな、という気もした。 観客も拳を振り上げての大合唱。本当に素晴らしい瞬間だ。いや、凄い。とはいえ「パッと出のファンが、こんな瞬間に居合わせていいのか」という後ろめたさが、またも私を襲った。この場に来れなかった「長年のファン」に、申し訳ないことをしてるんじゃないか、と。

  あっという間に1曲歌い終わると、下山が飛行機のジェット音のようなギターを弾く。それに合わせて両手を広げて飛行機が飛ぶような妙な仕草を見せる大江。これまたルースターズの代表曲C.M.C.の登場と、すべての人が分かった。途中でペットボトルのエビアンを飲み、着ていたシャツを脱ぎ捨ててTシャツ1枚になる大江。確かに声は出てない、動きもルックスも「カッコイイ」といえるもんじゃないけど、 調子は凄くいいんだろう、興奮しきってる様子で、本当に元気。とても「病み上がり」とは思えないし、噂に聞いたような「抜け殻のような」という言葉からはかけ離れた、ハイテンションなパフォーマンス。手を挙げて観客を煽ったり、笑顔を見せたり。ジプシーズの4人には申し訳ないけど「役者が違う」という感じがした。それは「ジプシーズの4人が魅力がない」っていうんじゃなく、それほど大江慎也の存在感が凄かったということ。彼が登場して来た途端、花田のクールなカッコよさも、井上の優しげな佇まいも、池畑の激しいドラミングも、下山のロッカー然としたカッコよさも、すべてが霞んでしまった。 確かにルックスは別人のように変わったし、褒められたようなパフォーマンスでもない、でも、確かにこの人には人を引き付ける「何か」がある。登場しただけでその場の空気を一変させて、「自分色に染め上げてしまう」資質がある。往年と同様の「オーラ」が漂っている。そのことははっきりと分かった。逆にこの存在感を思えば、「本当に13年も引退状態だったんだろうか?」とすら思える、それほど大江の存在自体が強烈だ。

  C.M.C.が終わると、また何のMCもなく、3曲目の「恋をしようよ」になだれ込む。「やりたいだけ」と叫びながら拳を振り挙げる。それに合わせて客席も揺れる。公式テイク以上の超アップ・テンポ。体をリズムに合わせて動かすことができないほどの速さ。いや、本当に凄い光景・・・。呆然とする私たちを前にして3曲歌い終わると、笑顔で手を挙げながら、あっという間にステージを去って行った。 一体、今のは何だったんだ? 一瞬にして目の前を嵐が通り過ぎた、そんな感じ。実際、大江とジプシーズの4人がステージを去った後、観客全員が放心状態で、ほんの一瞬だけど静まり返ってしまったのが印象的だった。


嵐の後の・・・
  大江とジプシーズが去った後、再びアンコールの拍手が起こる。「オオエー」という声も相変わらず聞こえる。だけど、ステージに戻って来たのはジプシーズの4人のみ。「大江も音楽活動を再開しました。博多でライブをやる時には、ぜひ見に来てあげて下さい」と花田。うん、絶対行く。心の中でそう答えた。ジプシーズのファーストから1曲、ルースターズのAll Night Long、そしてルースターズのアルバム未収録曲(だけど当時ライブのラスト・ナンバーとして頻繁に演奏されていた曲、私ははじめて聴いた)Bye Bye My Girlを演奏。 さっきの大江のパフォーマンスがあまりにも衝撃的だったためか、異様にクールで淡々とした演奏に聞こえた。「嵐の前の」ならぬ「嵐の後の静けさ」という感じ。だけど、これこそが花田率いるジプシーズの個性であり、魅力。大江が再登場しないことが分かった時点で、会場を後にした人も多かったけど、私は最後まで見届けた。「ジプシーズでした」という簡単な花田の挨拶だけで、さっさとステージを去るジプシーズ。本当に花田ってクールな人だ。 この人の魅力もまた、今回のライブで改めて強く感じた。そういえば井上についてまだコメントしてなかったけど、やっぱり彼のベースは「気持ちいい」し、ちょっと紳士的で優しそうなルックスに変わっていて、40代なんだけど「好青年」という感じに映った。

  アンコールの拍手も虚しく、客電がつくと、なぜかBGMはトラヴェリング・ウイルベリーズのHandle With Care。私は電車のこと気になったのと、「初心者がいつまでもこんなところにいていいのか」との後ろめたさもあって、足早に会場を後にしたけど、他の観客は会場内や会場の前に残って、いつまでも名残惜しそうにしていたのが印象的だった。「演奏が終わっても観客がすぐに帰らない」ライブって、実ははじめて。すぐに会場を後にしたのは意外と私だけだったのかもしれない。

  私の学生時代(バブル時代)には「福岡の六本木」といわれた親富孝通りを足早に通り過ぎ、バス停に向かう私。しかし今はただの「飲み屋街」になってしまったこの通り、ちょっと寂しさが胸を過ぎった。バスに乗り、駅に向かい、電車に乗って帰宅。なんと、帰宅すると、ネット通販で注文していたルースターズ4枚目のアルバムDIS.がちょうど届いていた。 何というタイミングのよさ。その日はそれを聴き、更にファーストから順にアルバムを聴き直して過ごした。果たして私はこれから、このバンドにどれほど深くのめり込んでいくことになるんだろうか。


「新しい時代に向かって、進んでいきたいだけ」
  私はひとつのことに夢中になると「知りたくて仕方ない」「寝ても覚めても」状態になる性格。しかも、大多数の人が「知りたい」だけで終わるのと違い、 本当に必死で情報を集め、「初心者のくせに情報だけはいっぱい」になる男でもある。だから「ファン歴わずか2ヶ月」といっても、そこらの2ヶ月の人よりはルースターズに対する知識も、愛情も勝っているんじゃないかと、勝手に自惚れていたりする(笑)。 とはいえ、所詮初心者は初心者。大江の体調不良に気をもみ、その後のステージ上での奇行にハラハラし、その末の脱退にショックを受け、ソロ活動開始後も何度も「迷走」する大江に複雑な視線を送り、遂に「引退状態」になったことで大ショックを受け、それでも復活を待ち続け、 「駄目だろう」と思いつつも「きっといつかは」というわずかな望みにかけて13年もの日々を過ごした・・・。そんな風にして大江慎也の「迷走」にずっと付き合ってきたであろう、長年のファンのみなさん。そして大江の抜けた後もルースターズを維持した花田たちを支持、でも結局解散・・・その一部始終を見守ってきた長年のファンのみなさん。そんなみなさんが「大江の復活劇」と「花田たちジプシーズとの共演」までに過ごしてきた年月の重さを思う時、やはり私には「こんな初心者の俺が」の気持ちは拭えない。 ある意味、申し訳なくすら思えるほどだ。

  だけど、逆に考えれば「こんな時期にルースターズのファンになったのも、幸せなのかも」という気がしないでもない。私が今年、ルースターズにはまったのは全くの偶然。別に「大江復活のニュースを聞いたから」でも「ジプシーズの活動開始を知ったから」でもなく、偶然「聴きはじめたのが今年だった」というだけ。で、こんな年にファンになったからこそ、 こんな光景を目撃することができたんだと考えることもできる。そして私は、長年地元を離れていたにもかかわらず、これまた偶然にも今、福岡に、しかも北九州にいる。今回の「大江慎也登場」は福岡=地元公演限定なわけで、だとすれば、こんな時にこっちにいたということ、それもまた幸せだったんだと思う。幸いにも今は北九州にいるから、今後もジプシーズのライブ、 さらには大江慎也と新バンドのライブを、身近に見れるチャンスはきっと関東の人よりは多いはずだ。今後もそんなチャンスがあれば、必ず足を運ぶつもりだ。そして今度こそ真ん中で堂々と、長年のファンのみなさんと一緒に盛り上がりたいと思う。とはいえ、ジプシーズ、大江慎也、単独公演を見る機会はともかく、両者の共演を見る機会は、おそらくもうないと考えた方がよいだろう。 それを思えば、やはり私はラッキーだったんだ。今はそう思うことにしている。そしてこの思い出を大事にしつつ、これからもルースターズや、大江慎也、ジプシーズの音楽を聴き続けたいと思う。

  しかし何度も「伝説の」なんて言葉を使ってしまったけど、大江もジプシーズも、決して「過去の栄光」に囚われてるんじゃなく、前向きな気持ちで活動してるんだということがよく分かる。ジプシーズのアルバムに収録された、大江作詞のGood Time (To Love You)の一説に、こんなのがある。「君と一緒に生きていきたい/これが俺の愛の言葉/新しい時代に向かって、進んでいきたいだけ」。デビュー当初から悲観的、自虐的表現の多い大江の詞作、 そんな彼が、こんな前向きな表現を用いるのは異例。そしてその歌詞を歌う花田。この辺にも大江とジプシーズの今の状態が現れてるような気がする。確かに「伝説の」人たちだけど、まだまだ現役、これから先の5人の動向も見守っていきたい。

  Special ThanksWouldn't It Be Nice
kazuyaさんによる、洋楽邦楽織り交ぜて幅広くロックを扱うサイト。このサイト内にある看板コンテンツのひとつ、A Young Person's Guide To The Roosters(z)は、私がルースターズに目覚め、 「もっとルースターズが知りたい」一心で「キーワード検索」をかけた際にヒットしたサイトのひとつです。メンバー紹介から全アルバム解説、全曲解説、ソロ活動など、本当に「ここさえ見ればルースターズのすべてが分かる」といえるほど、情報満載のサイトで、 「知りたくって仕方ない」状態の私の欲求を最高に満たしてくれ、同時に更にルースターズが好きになるきっかけを下さいました。そして、今回の「ジプシーズ福岡公演に大江慎也登場」の情報も、こちらのサイトからいただいたものです。このサイトがなければ、 私があの歴史的瞬間を見ることもなかったわけだし、まさに私の「運命を変えたサイト」といっても過言ではありません。よって、ここに、その感謝の意を込めて、Special Thanksを設けさせていただきました。kazuyaさん、本当に素晴らしいサイトをありがとうございます。(2003年12月8日追記)

                                                                   *:2003年12月4日UP


     
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