「楽しまな!」ー大江慎也(UN)

     
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(注:このコンテンツでは敬称は略させていただいています)
あっという間に最前線に戻った大江慎也
&すっかりルースターズ・ファンが板についた私
 はじめに、このテキストは2003年11月のロックン・ロール・ジプシーズのライブ・レポと続けてお読み下さい。以下はあっちに書いたことに関して特に補足説明せずに述べていきます。

 2003年、ジプシーズへの歌詞提供と2度のライブへの飛び入り出演で、約13年ぶりに奇跡的に表舞台に帰ってきた大江慎也。当初は地元の無名ミュージシャンと共にAlternative Musicなるバンドを結成(ジプシーズのレポの中にある「大江の新バンド」というのはこのバンドのこと)、数回のライブを行った後、すぐに解散。 2003年12月に福岡で行われたシーナ&ザ・ロケッツの25周年記念ライブには元ロッカーズの鶴川仁美(g)、元サンハウスの鬼平(坂田紳一、d)、そして小串謙一(b)というメンバーを従えて登場。この新バンドはUN(「あん」と読む、United Nationの意)と名乗り、 2004年2月には渋谷で開かれた東京スカパラの冷牟田竜之主催のDJイベントにも登場。この頃からようやくルースターズ・ファンだけではなく、多くのロック・ファンの間でも「大江慎也って復活してたんだ!」とひそかに話題になりはじめた。さらにその「復活」を決定付けたのは、3月に幕張と大阪で行われたMAGIC ROCK OUTなるロック・フェスティバルへの出演。 それまでのような仲間内のライブやイベントではなく、再結成ストゥージズ、プライマル・スクリームなど海外の大物も登場する注目度の高い大規模なイベント、一躍「大江慎也復活」は多くの人に知れ渡るに至った。しかも伝えられ方を見ると、昨年11月に私が目撃した頃のような「病み上がりのアーティストの顔見せ」程度のものでは既になくなり、異様にテンションの高い、しかもかつてのどんなロックにも似ていない「最新型のロックン・ロール」(ルースターズ時代からの大江の口癖)をやっているらしい。すっかり「現役アーティスト」らしくなっている様子、 そして新バンドでのこれからの活動に対して異様に前向きな様子がはっきりとうかがえた。

  一方の私の方はというと、ファーストから順に聴き進めていたルースターズ、2004年はじめには大江脱退前最後のアルバムΦ[PHY]まで辿り着いてしまった。次は大江脱退後の花田&下山時代をと思ったんだけど「その前にまだ聴いておかなきゃいけないものがある」と考えて、デビュー以前の音源、さらには大江&池畑潤二がロッカーズの陣内孝則&鶴川仁美と合体したバトルロッカーズの音源の収められた 映画「爆裂都市」のサントラなどのOther Sideを体験。つまり既に私の中で、ルースターズはビートルズ、ストーンズ、ザ・フー、キンクスなどと同等に重要かつ、「自分の中の一部分」のような存在にまでなってしまった。その間、先に述べたような大江の本格復帰などの話題も目にしていたけど、「本当にもう大丈夫なのか?」という不安もあった。なにしろ、11月のライブを見た時点では「とりあえず音楽活動をはじめてくれた、それだけで十分、あとは地道に無理せずマイペースで」くらいにしか思ってなかったのに・・・。 MAGIC ROCK OUTはボウイの来日公演と同じ月なので出費を考えて(ストゥージズも見たかったから、重ならなければ間違いなく行ってた)断念。とはいえ「いつかUN単独でやってくれたらぜひ行きたいなあ」そんなことはいつも考えていた。


ルースターズ再結成に違和感
 2004年2月後半のある日、いつも覗いているルースターズ・サイトのボードをチェックしていると、5月5日に地元・福岡でUN初の単独ライブが行われるとのニュースが。「この日を待っていた」とばかりに即チケット獲得。ONE DAY TOURと題されていたので「全国ツアーかな」と思いきや、 なんと福岡限定ライブ、会場はあのジプシーズ公演が行われたのと同じ福岡のDRUM LOGOS。つまり600人程度収容の小さな会場。MAGIC ROCK OUTに行けず、悔しく思っていた私の気持ちを晴らしてくれるには十分だった。心配されたMAGIC ROCK OUTへの出演も無事こなし、しかも彼らのパフォーマンスは軒並み好評。雑誌などに載っている大江のコメントを読んでも、既にルースターズは「過去のもの」として、とにかく新しいものを生み出したい、そんな前向きな気持ちが伝わるものばかり。とても10年以上も「隠居状態」だった人とは思えない。

  ところが、ライブの数日前、我が目を疑うようなニュースがネット上を駆け巡った。「ルースターズ、フジロック・フェスティヴァルにおいてオリジナル・メンバーで1日限りの再結成決定」。多くのファンは純粋に喜んでいた。でも・・・。このところの大江の発言を見ると「UNとしての新しい活動のことで頭がいっぱいで、過去を振り返る気なんて全くない」といわんばかり。 つまり今の彼にとっては「過去=ルースターズを振り返る」ことなんて興味がないんじゃないか。なのに再結成。ひょっとすると、本人はやりたくないのに、何らかの圧力によって「やらされる」んじゃないか。だとすれば、このことが復帰したばかりの大江にとって余計なプレッシャーにならなければいいが・・・。その心配の方が先に立った。

  ライブ当日の5月5日子供の日、ゴールデン・ウィーク最終日。しかし前日の4日で「博多どんたく」が終わっていた福岡の街は「既に連休は終わった」といわんばかりの空気。おかげで思ったほど街に人出もなく、電車も普段の休日程度の混み方。久々に訪れた福岡市を満喫した。開場5時、開演6時。 ジプシーズの時同様「ギリギリに会場入りでいいや」ということで、5時半頃までタワー・レコードで買い物。ルースターズのデビュー当初のライブ盤などを購入した。5時40分頃になって会場に向かうも、やはり前回と同じく、未だに「俺のような駆け出しのファンが」云々という想いが拭えず、思わず会場を一旦素通り、前回と同じコンビニに入って意味なく缶コーヒーを購入して、店の前で一気に飲み干した(笑)。

  5時55分頃、会場入りする列に加わる。会場内に入ると、雰囲気はジプシーズの時と似通ってる。20代後半〜30代後半の世代中心、キレイなお姉ちゃんが多いとか・・・。とりあえず奥に進む。どの辺で見ようか、と考えた末、私が向かったのは前回のジプシーズを見たのと同じ辺り、ステージに向かって左端の、一段高くなっている、その段のすぐ上。 やはり「後ろめたさ」から前に行けないというのもあるけど、それ以上に自分の身長を考えれば、この「一段高くなっている」辺りの方が見やすいと思ったから。前には20代半ばくらいのバンドマンっぽいルックスの4人組、隣には20代後半くらいのカップル、後ろには小さな子供を連れた母親もいた。その子供は既に物心がついていて、しかも母親からいつもいろいろ聴かされてるんだろう、「もうすぐ大江さんが出てくると?」などと言っており、ちゃんと自分がどういう場所に連れてこられているのか認知、しかもこれから起こることにちゃんと興味を持って来てる様子。 とはいえ、UNはまだデビュー・アルバムすら発表していないバンド、ルースターズとは似ても似つかない「最新型のロックン・ロール」をやってる、歌詞はほとんど英語、 過去3回のライブではルースターズの曲は1、2曲で、ほとんど新曲しかやってない。どんなライブになるのか想像もつかない。そのためか、どこか不安げに固唾を飲んで大江を待っている、そんな緊迫した空気が会場全体に充満していて、普通のライブとは明らかに違った。やがて開演の6時、最初にステージに登場したのは3人の男だった。


前座、そしてオープニングでのハプニング
 登場したのはオープニング・アクトのフェイクブルースなる、地元で活動している無名バンド。普通「前座」なんて観客にあまり相手にされないケース(例:ボウイ大阪公演の清春)が多いけど、このバンド、なかなかよかった。トリオ編成で、服装はスーツ姿、やってる音楽は「いかにも福岡のバンドだなあ」という感じの、 ストレートなビート・ロック。ギタリストはロカビリーっぽいフレーズを連発、ベーシストはジョン・エントウィッスルばりのソロまで決めるテクニシャン、ドラマーは腹に響くドラミングといい、軽く首と肩を揺らしながらドラムを叩く姿といい、池畑潤二を彷彿とさせる。帰宅後に彼らのホーム・ページを見たら、 「めんたいロックをレスペクトしており、憧れはサンハウスとルースターズ」とあり、納得。他の観客も決して退屈そうにはしておらず、それなりに受け入れている様子。2曲終わったところで「こんばんは、前座です」と自虐的に挨拶して笑わせていたのも印象深い。結局彼らは4曲、(6時5分頃〜6時25分頃までの)約20分演奏してあっという間にステージを去っていった。

  一度休憩になり、ステージ上ではセット・チェンジが行われていた。この間、他の観客は談笑したり、飲物を飲んだりしていたけど、ひとりで来てる上、「この場所は(自分の身長を考慮すれば)どうしても確保しておかねば」と思った私は、そこから一歩も動けず(笑)。本当はドリンクを貰いに行きたかったんだけどなあ・・・。仕方なく入り口で貰ったチラシを見て時間を潰していたけど、 この時間がいちばん苦痛だったかもしれない。

  異様に長く感じた休憩時間だけど、セット・チェンジまで15分前後しかかからなかったと思う。BGMがかったるいインストから、突然デヴィッド・ボウイのBlue Jeanに変わり、照明も変わる。開演は近いらしい。さらに同じくボウイのHerosが流れる。続けてシンプルなバンド・サウンドのインスト(デヴィッド・バーンの新作からの曲らしい)にBGMが変わった頃、ステージ後ろのスクリーンにUNの文字。更に続けてRock'n Rollとか、Juke Jointとか、Alcholとかの単語が次々に映し出される。 Sonhouse、Rockers、The Roostersの文字も登場、拍手も起こる。さあ、バンドのメンバーが登場するのか、と思いきや、なかなか登場しない。ようやく鬼平と小串、続けて金髪の鶴川が登場するが、なぜか60年代のライブのように、いきなりチューニングをはじめる。最後にようやく大江の登場、ここで「オオエー」という歓声と拍手、だけど大江もギターを抱え、後ろを向いたままチューニング。しかもかなり時間がかかっている。鶴川も心配そうに様子を窺う。 さらにスタッフまで登場してギターやアンプをいじる。本当は「スクリーンに文字が浮かび上がる中、メンバーが登場してすぐに演奏開始」の予定だったはず。でも、器材に何らかのトラブルがあって、それでこんな妙なオープニングになったんじゃないか。いや、これは私の推測に過ぎないけど、ちょっとこの場面、ステージに緊迫した空気が流れていたから、何もなかったということはないはず。間延びした時間の中、鳴り止まない「オオエー」という歓声に手を挙げて応える。そしてようやく前を向いた大江、無事にライブは始まった。


                                                       
ONE DAY TOUR演奏曲目
(2004年5月5日、福岡市DRUM LOGOS)

1.Theme Of UN12.Rosie
2.None Knows13.Let's Rock
3.Case Of Insanity14.I'm Not Like You
4.Dust In My Head15.Make You Happy
5.Call Me16.C.M.C.
6.曲名不詳17.Cry My Heart
7.Back Home18.Fade Away(以下、アンコール I)
8.曲名不詳19.Fool For You
9.Mona20.Girl Friend(以下、アンコール II)
10. Real Goodtime Together21.Theme Of UN
11.Sitting On The Fence
     
メンバー大江慎也(vo,g)
鶴川仁美(g)
鬼平[坂田紳一](d)
小串謙一(b)

「最新型のロックン・ロール」
 1曲目はTheme Of UNなる新曲。当然未CD化だけど、この曲は地元ラジオ局に大江自身が音源を持ち込んだそうで、この数日、ラジオでよくかかっており、私も1度だけラジオで聴いた。 バックの演奏はピストルズばりのストレート・パンク、それに大江による、「わめき散らす」ような異様なボーカルが乗るという、今まで聴いたこともないような「最新型のロックン・ロール」。とはいえ、風変わりなボーカルを除けばストレートなパンク。だから純粋に入り込める、 しかも自然に乗れる、オープニングにふさわしいナンバーだ。ロッカーズ時代、「(当時としては珍しい)金髪の美男ギタリスト」として女性ファンに絶大な人気を誇ったという鶴川、とても40代とは思えない当時のままのルックスでカッコイイ。大江は黒のスラックスと上着(途中で脱ぎ捨て、赤いTシャツ1枚になった)。ジプシーズのライブの時ほど太ってはいないし、 「病み上がり」っぽさもすっかり消えていた。 声も往年とはすっかり変わってしまったとはいえ、ジプシーズの時と比べればちゃんと出てる。しかもクラプトン風のストラトを抱えてる。ジプシーズの時は手ぶらだったので、ギターを持った大江を生で見るのははじめて。リード・ギターは鶴川に任せるのかと思いきや、自ら弾いている。 弦をかきむしるような、とてもエキセントリックで攻撃的なギター。正直ルースターズにおいては、初期は基本的に花田裕之がリード・ギター、中期以降は大江はギターを弾かなくなり、花田と新加入の下山淳が全ギター・パートを担当していた。だから私の中では、大江が「凄いギタリスト」というイメージはあまりない。 だけど、こうやって聴くと大江、なかなかギターも凄い。まあ、ルースターズ結成前に2歳年下の花田にギターを教えたのは大江だった、なんてエピソードもあるくらいだからギタリストとして劣ってるということはないわけだけど・・・。この曲のラストでは延々ギターを弾き、ステージ上を激しく動きまくる。 ちょっと最初からテンション高すぎると思えるほど激しいパフォーマンスだ。

  とはいえ、3曲目にルースターズの名曲Case Of Insanity(これもアレンジ、ボーカルとも原曲とは全く違う)は登場したものの、以降はしばらく未発表の新曲が続く。ルー・リードが作るような、メロディに抑揚のないバックの音に、ジョン・ライドン風の引きつったようなボーカルが絡む曲があったり、 オルタナ風の演奏に、妙な高音のファルセット・ボーカルが絡む曲が飛び出したりと、噂に聞いていた通り、これまでの大江のイメージとは全く違う、しかもこれまで誰もやってこなかったような作品ばかり。最初は興奮気味だった観客の反応も、 段々「戸惑ってる」風に変わっていった。実際私も、やっていることの斬新さは分かるものの、「好き嫌いの判断にも、評価にも困る」状態。事実、呆気にとられている人も少なからずいたし、曲と曲との間「次は何が飛び出すんだ?」という感じで、一瞬静まり返るシーンも。「最新型のロックン・ロール」を求めるあまり、ルースターズ時代から彼の作風はもの凄い勢いで変化、故に当時のファンは「新作が出るたびに呆気にとられる」という経験をしてきたはずだから、リアル・タイム・ファンの方は別に驚きはなかったかも。 むしろ呆気にとられていたのは、私たち「後追い」のファンの方だったのかもしれない。しかもUNの作品はまだ全く公式発売されてない。もしもアルバム1枚、いやせめてシングル1枚でも発表した後のライブなら、私の印象も、多くの観客の反応も、もっと違っていたかもしれないけど。


「楽しまな!」
 新曲が延々続いた後、鬼平がボ・ディドリー・ビートを刻みはじめる。「また新曲かな?」と思った矢先、大江が歌い出したのはMona。ボ・ディドリーの、というより、ルースターズのファースト・アルバム収録曲。ということで、観客もようやく沸きはじめる。私もそのボ・ディドリー・ビートに身を委ねる。 とはいえ、ボーカルはファーストの時とは全く違う、新曲で聴かせるような「わめき散らす」ような「最新型」のスタイル。つまりルースターズ・バージョンの再演ではなく、UN流の解釈での演奏。いや、ボ・ディドリーの古典を、こんな風に料理するというのは、ある意味斬新。ひょっとすると、この日のベスト・テイクかと思えるほど。とはいえ、2コーラス目はルースターズ・バージョンと同じく、日本語詞だった。

  これで再び沸きはじめた会場、Monaにはじまりルースターズ・ナンバー5連発(といっても、 Real Goodtime Togetherはヴェルベット・アンダーグランドのナンバーで、初期ルースターズのライブの定番レパートリー)。個人的には大好きなSitting On The Fenceが嬉しかったし、超高速スカ・ナンバーRosieではリズムに合わせて乗りまくり。さらにジプシーズのライブへの飛び入りの時にも歌ったLet's Rockと続く。大江のボーカルはやはり、かつてのスタイルとは全然違うけど、最早違和感はない。それよりも今までのUNのライブでは、ほとんどルースターズの曲はやらなかったし、インタビューでも大江は「ルースターズは過去のもの」と片づける発言が目立ったので、 こんなに多くのルースターズ・ナンバーを演奏してくれることが純粋に嬉しかった。一方でこのメンバーでルースターズ・ナンバーを演奏することに若干の違和感も。なにしろ、ギターはルースターズのライバル(周りがそう呼んだだけだけど)だった、ロッカーズの鶴川なわけだし。だけど、映画「ロッカーズ」のサントラでは、花田たちジプシーズがロッカーズの曲を演奏していたわけだし、それを思えば逆に感慨深くもある。ただ、Let's Rockの演奏中、鶴川のギターが激しいノイズを発し、ギターを交換するハプニングもあった(弦が切れたのかもしれない)。 実は今日はオープニングのみならず、器材のトラブルが随所に見られた、そのことが少し残念だ。とはいえ、鶴川のギターのアクシデントに気がついてなかった人も多いよう。というのも、このあたりの大江のパフォーマンスは「ぶち切れている」としか思えないほど激しいもので、みんなそんな大江に釘付けになっていたから。興奮し過ぎたのか、Let's Rockの間奏では勢いあまって大江がよろけるというシーンもあったほど。

  この5連発で盛り上がった後、再び新曲2曲。観客の間では「ちょっと小休止」といった空気が流れはじめる。その2曲を歌い終わった時、大江がマイクに向かってこう言った。「楽しまな!」。標準語にすると「楽しまないと!」という意味。大江がなぜ、こんなことを言ったのか、私には分からない。おそらく、2曲目の新曲の歌詞にBe Happyという言葉が何度も登場したので、単純にこの曲の歌詞に引っかけて言っただけだと思う。だけど一方で「観客が新曲に戸惑っている」ことを察知して言った、という可能性もわずかながらある。 事実私は、この言葉を聞いて「ちょっと戸惑い気味」な自分の気持ちを見透かされたような気分になった。そして自分に言い聞かせるように「そうや、楽しまないけん」(「そうだ、楽しまないといけない」)と心の中で呟いた。音楽なんて頭で考えて聴くものじゃない、感じて、楽しむものなんだよな。どうでもいいことだけど博多の人の「楽しまな」と北九州の人の「楽しまな」は微妙にアクセントが違うんだけど、大江のアクセントは北九州の人のそれ。そのことはちょっと嬉しかった。


まさかのあの曲
  「楽しまな」のMCの後、登場したのはジプシーズのライブへのゲスト参加時も歌ったルースターズの代表曲C.M.C.。オープニングでピート・タウンゼンドばりのジャンプまで飛び出すなど、ここから後の大江パフォーマンスは、それまで以上にテンションの高いものになった。それに引っ張られてか、ようやく会場からも「戸惑い」の色が消えはじめる。 続く新曲のCry My Heartでは、最早「未発表の新曲だから」とか、「それまでの大江の作風と違うから」とか、「あまりにも作風が風変わりだから」とか、私自身も全く気にならないほど彼の強烈なパフォーマンスと存在感に引き付けられたし、多くの観客もそうしたことを気にする素振りもなく、純粋に盛り上がっていた。大江にその意図があったのか、なかったのかは不明だけど、 「楽しまな」が効いたかのようだった。この曲が終わると大江とUNのメンバーは一旦ステージを去る。

  ただ、アンコールの拍手は意外と小さめ。「どうせアンコールはお約束だから、手を叩かなくっても出てくる」くらいにしか思ってなかった人もいたのかも。ルースターズ現役時代には盛り上がり過ぎてステージを壊したり、演奏を中断させるなどの騒動もあったというルースターズ・ファンだけど、今となっては年齢層が高くなったせいか、意外とおとなしいよなあ・・・(ジプシーズのライブの時にも感じた)。 アンコールで演奏されたのは、ルースターズのセカンドa-GOGO収録のR&R、Fade Away、そしてファースト収録のFool For You。さっきは「おとなしい」と書いたばかりだけど、前者ではfade awayの、後者では「何でもお前の意のままに」の大合唱が起こり、手を振り上げて盛り上がっている人も多かった。私は内股で軽くステップ(「ビート・バンドのリズムには内股が一番フィットする」とは陣内孝則の説だけど納得)していた。 そして2曲終えると、あっという間にステージを去っていった。

  今度は純粋にこの2曲で盛り上がった後だったからなのか、「2回目は本気で望まないと応えてくれない」と思ったからなのか定かじゃないけど、今度は大きなアンコールの拍手と大江コールが巻き起こる。しばらくすると鬼平、小串、鶴川の3人が登場、「鬼さーん」の掛け声に立ち上がって応える鬼平、「元祖めんたいロック」のサンハウスのメンバーだったということもあり、最年長で貫禄十分のルックス。と、しばらく間を置いて遠慮気味に「小串さん」の声がかかると、 シャイな小串は苦笑い。これで思わず会場も沸く。そして大江の登場、拍手と「オオエー」の歓声の中、はじまった曲は何とGirl Friend。セカンド・アルバム収録のバラード。ライブ向きの曲ではないし、変質した今の大江の声には合わないし、だからまさかこの曲が飛び出すとは!と、個人的には意外だった。だけど、変わってしまった大江の声でも、ちゃんと歌いこなせていたので安心した。 続いて演奏されたのは、オープニングと同じ、新曲のTheme Of UN。最初のバージョン同様、大江自身がギター・ソロを弾く、しかもステージ上を動き回って・・・。さらにエンディングでは、なんとステージから飛び降り、客席の最前列で、さらにはアンプの上に座り込んだりしながらギターを弾いていた。本当に「楽しまな」のMCの後の大江のパフォーマンスは、それ以前よりも更に激しかった。最後に両手を挙げてThank You、ナントカ(聞き取れず)とか、Peaceナントカとか言って歓声に応える。 そして意外とあっさりステージを去った。ステージを去る時、大江と鶴川は「スウィート・トロント」のプラスティック・オノ・バンドのように、ギターをアンプに立てかけたので、誰もいなくなったステージにはフィードバック音だけが響いていた。この時点では既に会場からは「戸惑い」とか、「固唾を飲んで」とかといった空気は一掃され、大江のもの凄い存在感とパフォーマンスに圧倒されている様子だった。


まだまだ初心者・・・
  客電がつく。出口の方を振り返ってみる。地元有名DJの顔が見えた。標準語や関西弁も聞こえる。どう見てもティーンにしか見えない女性の集団(ミッシェル辺りを経由してのファンか?)もいる。カメラが来てたけど、テレビではなかったよう。JUKE RECORD(鮎川誠ら、地元出身ミュージシャンと太いパイプを持つ、地元の有名レコード店)あたりの関係者か? さすがに復帰後初の単独ライブ、しかも雑誌などでの露出も多かったこともあって、多種多様な人が集まって来ていたんだな。 後ろにいた子連れの母親の姿もはじめて目に入る。あの子供は飽きることなく、ちゃんと最後まで楽しんだようで「大江さんも鶴さんも、もう出てこんと?」などと寂しそうに言っていた。将来が楽しみだ。だけどやはり「俺は初心者だし」という気持ちが邪魔した、だからすぐに出口に向かった。外へ出る。するとそこには人だかり。私はすぐにバス停方面に向かって歩き出す。

  同じ方向に歩いている集団は多い。私の背後にカップル。こんな会話をしていたのが聞こえた。男「新曲、あれ売れるかねえ」、女「全部英語やもんねえ、英語の歌って、普通売れんもんねえ」・・・。 確かにそう思う。でもルースターズって、「売れる」「売れない」とは別次元でやってたバンド、今でこそ「伝説の」なんていわれてるけど、リアル・タイムでは評価は高くとも一般レベルでの認知度は低く、売れなかったわけで・・・。ようするに「やってることが時代の先を行き過ぎていた」わけで、だとすれば今、大江がやろうとしてることもそうなわけで、だったら「売れる」「売れない」なんて論じること自体が無意味だろうよ。と、心の中でその2人に反論してみたりした。 それから、こんな話も。女「音、大き過ぎんかった? 未だに耳がおかしいんやけど」。そういえばジプシーズの時よりもずっと音が大きかった。特に大江のギターが常に爆音のような激しい音を響かせていた。言われてはじめて気がついたけど、確かに耳がキンキンする。やがて2人は私を追い越していった。

  と、気がつけば急に腹が減ってきたので、近所の松屋に入る。明らかに同じ会場から流れてきたと思われる人で溢れていた。実際「鮎川誠もどき」が豚飯食っていた(笑)。そういえば、この近くにJUKE JOINT(JUKE RECORD経営のロック・バー、実は店長は現UNの鬼平こと坂田紳一。アーティストのライブの打ち上げによく使われるスポット)があったはず。きっと、あそこにつめかけてる人も多いんだろうな。 それから福岡市内には、ルースターズ・ファンが店長を務める「ヤキトリ・ルースターズ」なる焼き鳥店があって、ルースターズ・ファンの溜まり場として有名で、なおかつ大江までもが予告なく来店したこともあるとも聞いている。今日はここに集まってる人も多いことだろう。少しばかり興味はあったが、初心者がそんなところに近づいてはいけない。というわけで、食べ終わるとすぐにバス停へ向かい、博多駅へと向かった。

  帰宅後、ライブ前にタワー・レコードで買ったデビュー当初のルースターズのライブ盤を聴いた。ルースターズのライブ音源ってはじめて聴くけど、大江のボーカルが公式テイク以上に「絶叫」調なのにちょっと驚いた。スタジオ盤では「クールにぶち切れた」ボーカルなのに。ということは、今日ライブで聴いた「わめき散らす」ようなスタイルのボーカルって、実はこの頃から変わってなかったんだ。声質は変わったけど。 そのことは新たな発見でもあった。しかし演奏されている曲目が、今日演奏された曲とかなりダブるので、余韻に浸るには最高のアイテムでもあった。


待たれる新譜、ルースターズ再結成への想い、
それとやっぱり「楽しまな」ね
  というわけで、最終的には「よかった」という感想を持ったライブではあるけど、やはり途中まで新曲の斬新さと、そして「まだ公式発売されていない、知らない曲ばかり」という要因が重なって、純粋に心の底から楽しんでいた、とはいえないのも正直なところ。ルースターズ関連のサイトを見ると「素晴らしかった」という声が圧倒的に多いんだけれど、当日の会場は前半は「盛り上がってるのか、盛り上がってないのか、どっちかよく分からない」状態だったのは事実。 それは確かに、既に往年のルースターズ・ファンが「羽目を外して騒ぎまくる」年代ではないこともあるかもしれないけど、やっぱり「公式発売されていない曲、しかもこれまでのイメージとは違う曲」が中心のライブになったこと、そのことが大きな原因ではないかと思う。だけど本当にあの「楽しまな」のひとことから一気に盛り上がっていった、そのことは不思議に思う。確かにあれ以降の大江のパフォーマンスが、よりハイテンションになっていったからということはあるんだけど。 ただ「せめてこのライブがUNのデビュー・アルバム発売後のライブだったら、私も、他の観客も、もっと違った受け止め方をしていたかもしれないな」とは思う。確かにやっていることは「最新型のロックン・ロール」と呼ぶにふさわしい、聴いたこともないようなサウンドだった。今回生で聴いた印象だと「まだ評価も下せないし、『好き』『嫌い』の判断もできない」感じではあったけど、実際にアルバムを買って聴いたらどんな風に聞こえるのか、そして新譜を聴いた後にライブを見たらどんな印象なのか、楽しみではある。(追記:アルバムは同年10月発売、レビューはこちら 2006年3月追記)

  しかし雑誌などのインタビューを読む限り、大江の好調さと前向きな姿勢にはただただ驚かされてきたわけだけど、約半年ぶりに見た彼の姿、パフォーマンスは、あれから半年しか経ってないとは思えないほど凄いものがあった。11月のジプシーズのライブに登場した大江は、存在感とオーラはあったものの、やはり「現役」という感じはせず、せいぜい「顔見せ」レベル。例えれば「利き腕を手術したかつての豪腕エース、数年ぶりの復活マウンド、だけどMAX90キロの山なりのスローボールしか投げられない。それでも観客は感動の拍手」みたいなもの。 「音楽活動を再開した」だけでも奇跡、「あとはせいぜいマイペースでやってくれれば」程度に思っていた。ところが今回は「往年とはタイプが変わったが、たまに登板しては好投」といった状態。つまり「エース」とは呼べないものの、間違いなく「現役」であり、第一線。しかもこれからこの新バンドUNで、新しいことに挑戦しようとしているんだから驚く。

  それと今回のライブ、大江にしては珍しくMCも多く(「大江にしては」レベルの話)、観客の声援に手を挙げたり、笑顔で応えたりするシーンも多かった。「楽しまな」以外にも、間の悪い「オオエー」の声援に「はっ?」なんて反応を返して笑わせたり・・・。ただ、気になったのは曲と曲の間、終始アンプの上に置かれたボンベとマスクで酸素吸入していたこと。そして「すみません、これがないと駄目なもんで」みたいなニュアンスのことも言っていた。ひょっとすると治療のためとか、そんな理由で酸素吸入が必要なのかもしれない。 確かに前向きだし、パフォーマンスも存在感も凄いんだけど、この瞬間だけ、彼の病気と長いブランクの影が垣間見えた。そのことだけが少し心配。もの凄い勢いで突っ走るのもいいけど、無理はしないで欲しいと思う。

  一方で、ライブ直前に入ってきたルースターズ再結成の話。当初否定的だったこと、そして否定的な理由も前に書いた通り。だけど、今回のライブを見て気持ちは変わった。というのも、今回UNではじめてルースターズの曲をいっぱいやったわけだけど、どう見ても、どう聴いても「やりたくないけど、とりあえず」という風には見えなかった。つまり大江自身の意思で歌ったということ。 ということは、今回の再結成も「やらされる」わけではないし、ルースターズの曲も「歌わされる」わけでもない。ならば再結成も大いに結構じゃないか、そういう結論に至った。そう思うと「ザ・フーを見にRock Odesseyに行くし、チケットは馬鹿高いし、フジロックなんて別に全然行きたくないよ」と思っていた私の気持ちは大きく揺らいだ。いや「行けない」ということに変わりはないけど、「見たいけど行けないよなあ、残念」に大きく変わった。 再結成は「1日限り」ということらしいけど、せめて地元でもう1回くらいやってくれればと思うのは、私のワガママだろうか。

  最後に私自身のこと。もう2回もルースターズ関連のライブに行ってることだし、ファーストを購入して1年になったし、そろそろ「初心者だから」って変なコンプレックスを捨て去った方がいいのかな、という気がする。なんか、この変な拘りのせいで、純粋に楽しめてないというか、損をしているような気がする。大江の言う通り、「楽しまな」ね。次はもっと純粋に楽しみたいと思う。

                                                                   *:2004年5月17日UP


     
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