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第4回:汐の声[「私の人形は良い人形」収録]
/山岸凉子(文春文庫ビジュアル版)

 山岸作品を豊富に取り揃えた文春文庫ビジュアル版の中でも
恐怖作品のみから構成される本作品集。中でもこの‘汐の声’
は、山岸凉子の恐怖漫画の中でも群を抜いた傑作。

幼い頃に過剰な注目・脚光を浴びると親も子もろくなことに
ならないものだが(私はマコーレ・カルキンを思い出す)、この
作品の主人公サワもまた、「霊感少女」として世に出た子供で
あった。そして今現在彼女は、17歳という少女としての
過渡期にいる。

 そんな折、サワはテレビ番組と雑誌の企画で幽霊屋敷の泊まりこ
みロケに参加することになる。
母親から言われるまま、自覚せずに霊感少女を続けて来たサワ。
彼女の不安定な心の動きに、次第に屋敷に残る念が
シンクロしてゆく。

 紙包みの薬やベルトなどの小道具の伏線と、数回の肩透かしが
短編の作品に厚みを増して、ページ数で語られる以上の恐怖を
展開させるやり口は、山岸凉子のキャリアがあってこそ。特に、
ベルトの金具が指にぶすり、とささるサワの幻覚のシーンでは
無意識に自分の指を隠してしまう。これは、山岸凉子の直線的で
無機質な画(現代ものは特にそう)だからこその気味悪さ。
 他にも屋敷の‘主’がサワに向かって「わたしは、おまえだ」と
呼びかける3コマ(書いてて思い出した。気持ち悪い。)もそうだが、
これらを犬木加奈子などが書いたら、全く違ったものになるだろう。

サワがオドオドと迷いながらも霊感少女としてズルズル続けている
のも、‘主’が念を残す事になった元凶というのも、母親だ。
作品中に‘母親’という人物はほとんど登場しないが、母親たちは
確実に彼女らを支配している。
 子供にとって母親はどれほどの正義であり、また恐怖であるか
ということを思い知らされた。


*back number*

第3回:不思議の国の千一夜/曽根まさこ(講談社)

第2回:秘密/清水玲子(白泉社)

第1回:脂肪という名の服を着て/安野モヨコ(主婦と生活社)