ラブ・ステージ I

夢にまでみた大紅白歌合戦を担当したディレクターの主人公。しかし、大物演歌歌手が当日、遅刻との報。
ドタバタの舞台裏。彼はふと忙しさのあまり邪険にしていた遠距離恋愛の彼女の顔を思いだす。二人に愛の奇跡は訪れるだろうか
?(作・愛を綴る和彦)

プロローグ

打ち合わせ室の喧騒。神経を逆撫でするような携帯電話の呼び出し音。

村上 「はい。村上」
りかこ 「村上君。私…家に電話したんだけど、ずっと留守電だったから」
村上 「ああ、りかこ、悪いけどさ。ここんところ忙しくて…駄目なんだ」
りかこ 「大晦日の仕事終わったら、帰ってくるの
村上 「予定が立たないんだ。とにかく、紅白が終わんないと…悪い、じゃあ又電話するから。ゴメン」
りかこ独白 「このお正月、今治に帰ってくると約束していた村上君。大紅白のディレクターが決まった秋口から、アパートにもほとんど帰っていない。クリスマスの電話もこんなふうに切られてしまった。もう私達は駄目なのかもしれない。村上君は、音楽番組のディレクターになるのが昔からの夢だった。バンド活動に限界を感じてから、ギターを捨てて、その道一筋。そしてつかんだビッグチャンス。遠距離恋愛になってから3年かあ。みんなこうして駄目になるのかなあ…」

<シーン @

紅白大歌合戦のリハーサル中。音合わせの音が聞こえるステージ舞台裏。

プロデューサー 「おい村上。どうだ準備具合は」
村上 「ああ、プロデューサー。ええ、大問題の甲林幸子さんのリハもオーケーでしたので心配はありません」
プロデューサー 「頼むぞ馬鹿野郎。村上。この成功如何には俺の取締役昇進がかかつているんだからな…おまえの将来も含めてナ」
(村上の耳元でささやくように…)
村上  「はい。僕だってこの仕事がしたくってここに入ったんですから、精一杯やりますよ」 
プロデューサー 「調子いいじゃないか馬鹿野郎」
AD 「村上さーん。2番に外線です」
村上 「はい、村上。」
マネージャー 「あっ、北田三郎のマネージャーをしております成瀬でございます」
村上 「ああ、成さん。どうしたんですか北田先生のリハの時間が迫ってますよ」
マネージャー 「じつは…今、北海道で。こちら大雪で朝一番から飛行機が飛ばないんですよ」
村上 「えっ!?東京じゃないんですか。北、北海道。だったら本番だってヤバイじゃないですか」
マネージャー 「で、ウチの親分。いや、北田が申しますにはこれから電車で向かえば9時には東京につけるので、出番を後ろのほうに変えてもらえればと…」
村上 「そんな馬鹿な、大紅白は出演順だって新聞発表してるんですよ。それにリハーサルなしのぶっつけなんて、危険過ぎます。とと、とにかくあらゆる手段を使って早く東京にむかってください」
マネージャー 「それと、あの弁当ですが…」
村上 「弁当?
マネージャー 「ええ、楽屋の弁当ね。昨日、肉を食べ過ぎたんで、魚がいいと北田が申しておりますので、そっちの方も…よしなに。」

LOGO 場面転換

<シーン A

ミー川憲一 「えっー、なんで私があの演歌じじいと順番変わるのよ。大体、大紅白の前の日に営業入れるなんて、なんて奴なの。自分がいいとこで歌いたいから、狂言じゃないの」
プロデューサー 「ミー川さんのおっしゃる通り。北田のじいさんの我侭には私らも困っております。前代未聞の大事件で…この村上の馬鹿野郎が確認を怠ったばっかりに申し訳ありません。この通りでございます」
ミー川憲一 「やめてくださいよ。土下座だなんて。私はね歌手生命をかけて今年は甲林幸子と勝負するの…マスコミだってそれを期待してるは、冗談じゃないわよ。他、当たってよ」
プロデューサー 「村上。何とかしろ馬鹿野郎。このままじゃおまえは来年、どっかの島の通信局で大紅白をテレビで見る羽目になるからな」


<シーン B>
来島大橋の上。並んだまま歩いている。
M 「パワーオブラブ」 (セリーヌ・ディオン)

村上 「ゴメンな。こんな時間に」
りかこ 「いつも、突然なんだから。お正月の早朝に。このところ携帯もきりっぱなしだったし。見たわよ昨日の大紅白。最後に村上君の名前が最後にスーパーされてた。やったね」
村上 「舞台裏はバタバタさ。泣けてきちゃったよ。終わったとき。俺はこんなことのために学生時代からアレコレやってきたのかなーと思うとさ」
りかこ 「眠そうな顔して…じゃあ大紅白の会場から夜通し飛ばしてきたんだ。危ないじゃない」
村上 「ウン…凄いなこの橋。こうやって歩けるなんて」
りかこ 「長距離恋愛になって3年だけど、こんなふうに東京から、突然逢いたくなったって来てくれたの…初めてだ。なんだか怖いな」
村上 「怖い、怖い。なあ、りかこ。島の生活ってどうだ?」
りかこ 「どうって?」
村上 「怖いかなって」
(二人、微笑む)
りかこ 「怖いよ…突然、恋人が東京から徹夜で帰ってきて、何か辛そうな顔して。別れ話でも切り出すのかなって…怖いよ」(りかこ泣き、笑い)
村上 「馬鹿だな。違うよ。そんなんじゃないよ。りかこさあ、島で生まれて、島で育ってほんでもって結婚して又、島で暮らす羽目になっても平気
りかこ 「島、島ってしつれいねえ。日本だって立派な島なんだからね。変なの。村上君の言っていることがわかんない。ねえねえ、この橋を歩きながらおまじないを言うと、そのカップルは幸せになるって話、知ってる」
村上 「へえ。なんて言うの…」
りかこ 「だいせんじ がけ だらなよさ
村上 「だいせんじ……」
りかこ 「さよならだけが人生だ。の反対」
村上 「だいせんじ がけ だらなよさ」
りかこ 「言った、言った」
(二人、微笑む)

MFI

村上 「なあ、さっきの話だけど」
りかこ 「島で暮らす羽目がなんとか 誰と暮らすの
村上 「俺と」
りかこ 「どうして村上くんと私が島なのよ」
村上 「そんな事があると、どうだかなあって」
りかこ 「変なの。本当に変よ。徹夜して何言ってんだか自分でわからなくなってかでしょ」
村上 「与作は木を切る…へいへいほーってか」
りかこ 「村上君ったら、プロポーズのつもりなんだったら、もうすこしロマンチックな歌にしてよ」()
村上 「いや、結構これがロマンチックなんだって。で、返事は
りかこ 「じゃあ、島暮らしの奥義を伝授してやるかな」
(二人、幸せそうに笑う)

村上、笑いながら「与作」を口ずさむ。りかこの「その歌、やめて」の笑い声が遠くに聞こえながらエンディング。

村上の口ずさむ「与作」がセリーヌ・ディオンの曲とクロスオーバーする。


エピローグ

携帯電話の呼び出し音。

村上 「はい。村上」(ねむそうな声で)
プロデューサー 「おい。村上。どこに正月草々しけこんでんだ。馬鹿野郎」
村上 「はい。あっ、田舎に帰ってんですよ。今治です」
プロデューサー 「じゃあ、田舎もんには大紅白の視聴率がどんなもんだったかなんてニュースは興味なくなったのか馬鹿野郎」
村上 「あっ。でっ、どうだったんですか?」
プロデューサー 「聞いて驚くな馬鹿野郎。75.25パーセント。この数字がどういうことか分かるな。史上,最高だ馬鹿野郎。とくに北田の爺を入れ替えたところが、皮肉にも瞬間最高とってんだよ。村上、怪我の功名ってか馬鹿野郎。島は島でも豊島区のマンション暮らしになったりしてな。どっちにしろ正月明けには「局長表彰」だ。村上ディレクター様様っな。この俺にもできなかっ70パーセントオーバーなんかやっちまつて馬鹿野たて郎。大殊勲じゃねえか」
(電話口で高笑いが続く)
村上独白 「だいせんじ だけ だらなよさ」っか

fin

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