ラブ・ステージ II

45歳の中年男が恋をした。相手は25歳の小学校の先生。男は銀行員を辞めて、マッサージ師として独立を考えている。一度結婚に失敗している男は、自信を持ってプロポーズできない。一方、シャイな彼女は彼女で積極的な態度がとれないまま付き合いを続けていた。どうなるこの恋。(作・愛を綴る和彦)

シーン@

ムーディーでしゃれたレストラン。久美子は親友の香織と食事をしている。

久美子 「おめでとう。香織がこんなに早く結婚決めるなんて思わなかった」
香織 「ずっーと派手に遊んでいると思ってたんでしょ」
久美子 「うーん。香織は綺麗だから、引く手あまたで迷って遅くなると思っていたの。どんな人
香織 「久美子が見たら、びっくりするくらいの地味〜な銀行員」
久美子 「えっ!銀行員」
(びっくりするような大きな声で)
香織 「な、なによ。まさか久美子の彼も銀行員って訳じゃないでしょうね?」
久美子 「彼って訳じゃないけど…知り合いがいるから。その方は銀行辞めようとしてるけど」
香織 「その方怪しいなあ。久美子のファースト・ラブ。シャイな久美子がはじめて口にする男」
久美子 「そんなんじゃないって。ずいぶん年上の人だし」
香織 「いくつ
久美子 45
香織 45!何それ、中年のおじんじゃん。まさかあんた、不倫じゃないでしょうね?」
久美子 「違う。違うって。違う!」
香織 「怪しい。絶対に怪しいな。で、久美子はどうなのよ、そのオジン。」
久美子 「どうって、いい人だけど。私なんか駄目だと思うから」
香織 「じゃあ、気があるんだ久美子。その人、初婚
久美子 「ばつイチ。でもそういうことあんまり話したことないから…」
香織 「駄目よ。きっちりリサーチしとかないと。それと、銀行辞めるなんてなんかトラブル起こしてんじゃない。危ないよ」
久美子 「そんな人じゃないの」
香織 「駄目だ、久美子。いっちゃってるんだ。やくざや殺人犯だって女は惚れるとこうなるのよ」

シーンA
銀行のオフィスの片隅。遠くで忙しく電話が鳴りかう。

亀田健介 「支店長。この間お話したこれ、今日は受け取ってください」
課長 「亀田くん。君ほどの人に辞められたらうちは困るんだ。この辞表は受け取れない。君は幹部候補なんだ、いろいろ家族に不幸があったから同情しないでもないが、これは…仕舞っといてくれ」
亀田健介 「支店長。ずっと昔から、決めていたことなんです。これ以上再出発が遅れると、自分の年も年ですので勘弁してください」
課長 「辞めてどうしようというんだ。」
亀田健介 「フランスに渡ろうと思っています。」
課長 「フランスそんなとこに行って何をしようというんだ。君、こっちの方は」
亀田健介 「外大時代、フランス語を専攻していましたので、思い出し、思い出しなんとか…」
課長 「仕事のあてはあるのかね」
亀田健介 「はい。パリで…マッサージ師をしようと思っています」
課長 「マッサージ師?パリで…」

シーンB

来島の橋の上。小雨が降りしきり、風が流れる。遠くでタンカーの灯がきらめく。

久美子 「本当にお辞めになったんですか?」
健介 「年甲斐もなく無茶をしてしまいました。両親も家族もいなくなるとブレーキをかける人間がいなくて、生まれつきの無鉄砲がでてしまいした。」
久美子 「自由な人を見ていると羨ましくなります。私は勇気がちっともないから」
健介 「二人を足して2で割ると丁度いいですね」
久美子 「えっ
健介 「いや。そんな変な意味ではありません。その…そんなふうにちよっと思っただけで…小学校はどうですか?」
久美子 「楽しいです。憧れていた仕事でしたから。あの、壷井栄の24の瞳ってあるでしょ、あの大石先生にあこがれて。馬鹿でしょ、だから自転車通勤なのはその真似なんです。健介さん…いえ、亀田さんはどうして銀行員に…あっ、もう辞められたんですよね」
健介 「わたしは,特に。外交官試験に落っこちて…銀行だと海外で勤務する機会もあるかなって…世間知らずの思いつきで」
久美子 「お好きな国があるんですか?」
健介 「これもミーハーで。パリです。フランスというよりパリなんです。学生の頃、貧乏旅行であちこち行ったんですが、ここで住みたい、一生いたいとおもったのがパリなんです」
久美子 「いい思い出があおりなんですね」
健介 「いや。街の匂いっていうか、肌に合うんです。この街で死にたいなあーって、そんなふうに。久美子先生はお若いから、そういうふうに考えたことないとおもいますが…この年になると何処で、どうやって、誰と死のうかなあって…爺くさいでしょ」
久美子 「いいえ、ロマンチックですわ。羨ましいです…そんな気持ちになれるって」
健介 「よかったら…・パリに行ってみませんか?」
久美子 「えっ?」
健介 「いや、冗談ですよ。冗談。学校の先生に…すいません。年甲斐もなく、つまんない冗談、言っちゃって」
久美子 「あっ…はい。本気にしかけました,私みたいに外国に行った事もないような田舎者にそんな事おっしゃるから…」
健介 「そういう訳ではないんですが…」
(下手な照れ笑い)   

シーンC

車の中。ゆっくりと走る車の中。ポール・ディビスの「アイゴー・クレイジー」がカー・ラジオから静かに流れている。曲を
BGバックにDJが喋り始める。

DJ 「という訳で、この来島大橋の奇跡っていうのが今,凄い話題なんですねえ。おまじないの元になっているのはカルメン・マキさんの歌。若い人は知らないと思いますが「時には母の子のように」ってヒット曲がありました。で,彼女の歌に「だいせんじ がけ だらなよさ」っていうのがあるんです。「さよならだけが人生だ」を逆さに言った「おまじない」の歌なんですねえ。あなたも一度試してみませんか条件は橋の上。歩いていても、車で走っていてもOK。そしてこれがポイントなんですが、カップル二人ともが言う事。これってフェアーですよね。片思いとか、横恋慕は駄目ってわけです。おまじないをこうして言って、ハッピーになった方はこちらのラジオまで必ず教えてください。勇気をもってあなたもチャレンジしてみては?
(曲カットイン)
聞こえてきました、この歌がカルメン・マキさんです。

カーラジオを食い入るように見つめる二人。気まずい沈黙がつづく。

健介 「面白いですね。この頃のラジオ。僕も高校時代はよく効いたもんです。おまじないかあ。なんて言えっていいましたっけ」
久美子 だいせんじ がけ だらなよさって言ってました」
健介 だいせんじ がけ だらなよさ言っちゃいましたね」

(不器用に微笑みあう二人、沈黙がしばらく続く。カーラジオからはカルメン・マキ)

健介 「さっきの冗談ですけど、冗談じゃなかったらどうしますか?」
久美子 「パリのお話ですか?」
健介 「はい」
久美子 「冗談じゃなかったら…フランス語会話の教室を探します。それでなくてもトロイですから、足でまといになるといけないので…」
健介 「フランス語だったら僕が、個人教授できます」
久美子 「で、パリは旅行ですか?」
健介 「いや、一生住むつもりです。向こうで仕事を始めます」
久美子 「一生 ?…だったら…」
健介 「だったら?
久美子 「だったら…フランス語は個人教授をしてください。お料理の教室とかも通いたいので…」

健介の小さい声で「はい」。とカーラジオの音楽が幸せに溶け合っている。それがジャンボジェットの飛び立つ音(ポール・ヤング「エブリタイム・ユーゴーアウェイ」飛行機バージョン可)にクロスする。

久美子 「えっ。ここでマッサージやさんするの!
(幸せだが、驚きで明るく微笑む)
健介 「ああ。自転車買っといたから、大石先生みたいに毎朝アパルトメントから一緒に通勤だ」
(二人の明るい笑い声がパリの朝に溶けていく)

fin

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