ラブ・ステージ III
高校3年生の運動会から付き合いが始まった二人。10年の歳月が流れ、あの頃の「情熱」を忘れ始めていた。付き合いが永くなってしまった分だけ、お互いの気持ちが「別離」に向かっていることを二人は知っていた。が、あることから「情熱」を思い出す二人。橋にまつわる「おまじない」のせいか?それとも遠くで聞こえるフィルコリンズのせいか? (作・愛を綴る和彦)
<シーン@>
台所で母と娘が夕食を一緒に作りながら語りあっている。近くで、父親がテレビを見ながら新聞を広げ、二人の話を聴くでもなくすごしている。
| 母 | 「玲子、真一君とは最近、どうなの?なんだか電話が最近少ないはねえ」 |
| 玲子 | 「忙しいんじゃないの?私もお友達と外でけっこう約束があったし」 |
| 母 | 「なんだか、古女房みたいな口の聞き方だねえ」 |
| 玲子 | 「10年も付き合ってんだもの、だいたに分かるのよ真ちゃんのこと。明日あたりは会社仲間とゴルフ。今晩はいきつけの店で12時まで雀荘。そんなところかな」 |
| 母 | 「凄いね。凄いけど、なんだかロマンチックじゃないんだね、ねえお父さん」 |
| 父 | 「なんか言ったか」 |
| 母 | 「聞こえてる癖に」 (囁くように) |
| 玲子 | 「お父さん。焼き鳥、塩にする。タレにする?」 |
| 父 | 「タレにしてくれ」 |
| 母 | 「ほらね。聞こえてるでしょ」 (一家の団欒が続く) |
| 玲子独白 | 真ちゃんと私は、高校時代から付き合いはじめてもう10年になる。真ちゃんの好きなこと、いやなこと、癖、何を考えているかまで、なんでも手にとるようにいまでは分かる。母さんの言うように古女房みたいだ。嫌いになった訳じゃないけど、毎日会いたいとか、会っていないと心配だとか、そんな切羽つまった気持ちがなくなってから何年経ったろう。 |
<シーンA>
世話焼きのおばさんから玲子あての電話。
| 叔母ちゃん | 「あら、玲子ちゃん。お天気のいい日曜日に家にいるの。なによいい若いもんが」 |
| 玲子 | 「お母さんとお父さん、買い物にでちゃったんですけど」 |
| 叔母ちゃん | 「いいのよ、あんたに話があったの。機嫌よく聞いてね。縁談なのよ。いいのいいの、知ってるのあんたに彼がいるのはね。知ってて言ってるから誤解しないで。玲子ちゃんね、ずばり言うはね。恋愛と結婚は違うの。野暮を言ってるんじゃないのよ、おばちゃんの性格知ってるから分かるわね。今のままであんた幸せ。高校時代の恋愛をずっと引きずっているなんて、そりゃあ立派よ。おばちゃん、そういうところ玲子ちゃんの好きなところ。でもね、人生には変化が必要なの、進学も結婚も出産もみんな変化なの。人間、それを超えるごとに大きくなるの。本当に生きていることになるの。生きるってことはそういうことなの。このあいだ、駅前であなたのこと見かけたんだけど、なんだか歩き方が死人だった。ちっとも溌剌としてなくてね。声、かけそびれちゃったくらい。それで思ったの、27・8でまだまだ若いあんたが、死人みたいに生きていてそれでいいのかなって。考えて欲しいの。私はそこらのお見合いおばちゃんと違うの知ってるね。一週間あげるから、真剣に答えて。いいはね」 |
| 玲子 | 「……」 |
<シーンB>
1000人規模のウォーク・イベント。参加者のざわめき。マイクで参加者を誘導する係員の声。暑い太陽が照りつける来島大橋の橋の上。
| 真一 | 「久しぶりだよな。出不精の玲子がこういうとこまで来たのは」 |
| 玲子 | 「私、出不精かなあ?」 |
| 真一 | 「出不精だよ。ゴルフ誘ったっていやだって言うし、屋外のデートなんて何年ぶりかだよな」 |
| 玲子 | 「ゴルフのことは覚えてるけど、真ちゃんだってそんなにこういうところに誘わなかったじゃない」 |
| 真一 | 「玲子がどうせ楽しくないだろうなって思ってさ」 |
| 玲子 | 「気を遣ってくれたんだ。別に、こういうとこ好きな女のこと来てもよかったのに」 |
| 真一 | 「なんか今日、機嫌悪いなあ。なんだよ突っかかって」 |
| 玲子 | 「出不精なんて言うからよ」 |
| マイクの係員 | 「今日は風もなく穏やかなウォーク日和りです。今日はご家族づれが多いんですが、カップルの方もいらっしゃいますのて゛ひとつ「しまなみ・奇跡のおまじない」についてご説明申し上げます。あるラジオ局にきたリクエストカードからこの「おまじない」が一般的になりました。それは、橋の上でカップルのふたりがおまじないを二人で言うと、「恋が成就する」というものです。ひとつ試してみてください。おまじないはこうです。「だいせんじ がけ だらなよさ」えー「さよならだけが人生だ」を反対から読んだ言葉です。是非、試してみてください。 |
| 真一 | 「面白そうだな、やってみるか玲子」 |
| 玲子 | 「こどもだましみたい…」 |
| 真一 | 「騙されたら、それはそれで面白いじゃないか。せーの だいせんじ…おいおい、一緒に言おうぜ」 |
| 玲子 | 「一緒に言うの…?」 |
| 真一 | 「そこらのカップルとは歴が違うんだからさ、ここは一丁10年の成果を見せてさあ」 |
| 玲子 | 「嫌だよ、恥ずかしい。近くの人に聞かれちゃうじゃない」 |
| 真一 | 「なんで、そうクールなんだよ玲子は、なあいくぞ」 |
| 玲子 | 「はーーーーーい」 |
| 真一・玲子 | 「せーの だいせんじ がけ だらなよさ」 |
| 真一 | 「なんか、気持ちよくなったなあ」 |
M「ドゥユーリメンバー」(フィル・コリンズ)
| 玲子 | 「10年かあ…何やっていたんだろう私達。ねえ、きっかけって何だったっけ?」 |
| 真一 | 「まじ忘れたの?ひどいなあ、運動会のエプロンを頼んだ時」 |
| 玲子 | 「そうだ、そうだ。作らされた真ちゃんに…青柳だったっけ」 |
| 真一 | 「やっぱり覚えているんだろ。凄い刺繍でさあ、みんなが羨ましがったよな。誰に作ってもらつたんただって聴かれて…玲子だっていったら、3組の玲子かなんて大騒ぎでさ。そうそう、あのクールな玲子によく頼めたよなあおまえって皆に言われてさ、あの頃からあまえずっーとクールだったんだ」 |
| 玲子 | 「そうかなあ?」 |
| 真一 | 「そうそう、体育館の前でいきなり頼んだ時の玲子の反応ったらなかつたよな」 |
| 玲子 | 「なんて言ったの?私」 |
| 真一 | 「二つ返事で、とっても素っ気無く『…いいけど、私でいいの?じゃあ…』この3文字、来た・見た・勝ったっていうシーザーの言葉を世界史で読んだとき思い出してノートに玲子の言葉書いたから今でも覚えているよ。『いいけど、私でいいの?じゃあ』」 |
| 玲子 | 「なにか酷い女みたい。なんで真ちゃんは、そんな奴に頼んだのよ」 |
| 真一 | 「好きだったからさ。入学したときから、一目ぼれだった」 |
| 玲子 | 「声が大きい。…そんな話、初めて聴いた」 |
| 真一 | 「初めて言ったもの。その頃聞いていた深夜放送のDJにこのこと葉書に書いたらさあ…『ロード・ボーイくんねえ」 |
| 玲子 | 「ロード・ボーイ?」 |
| 真一 | 「俺のペンネーム。で、『ロード・ボーイくんねえ、一目ぼれだけが恋愛における唯一の正義なんだよ』って言ってくれてさ」 |
| 玲子 | 「恋愛における唯一の正義っかあ」 |
| 真一 | 「相手のいろんな情報、彼や、彼女がいるとかいないとか、頭がいいとかそんな事何にも知らずに好きになる。本当の正義の恋愛」 |
| 玲子 | 「凄いDJね」 |
| 真一 | 「で、3年の運動会の前まで待っていたんだ。どう感動した?」 |
| 玲子 | 「もっとまじめに言ってよ」 |
| 真一 | 「まじめに言ったら、照れて、冷たい返事しかしないからさ」 |
| 玲子独白 | 体育館の前で、真ちゃんがエプロン頼むって言った時のこと…実はよく覚えている。照れくさくて、素っ気無い受け答えをしたことも実は覚えている。あれが火曜日の午後3時40分だったことも…・実は私も真ちゃんには「一目ぼれ」に近かった。入学してからずっと気になっていた。真ちゃんもそうだったんだ。付き合って10年。そんな事を初めて知った。 |
| 真一 | 「玲子さあ。そろそろ結婚しちまおうか。もう恋人時代も飽きちゃったからさ」 |
| 玲子 | 「私はちっとも飽きていないんだけど…いいよ真ちゃんがそうしたいなら」 (真一、馬鹿笑い) 「なによ!」 |
| 真一 | 「『いいよ。わたしでいいなら。じゃあ』…とあんまり進歩していないからさ、10年前と一緒。愛しているぞ! 玲子!」 |
| 玲子 | 「止めてよ・・真ちゃん」 |
| マイクの係員 | 「こちらのカップル、おまじないが効いたようでーす」 |
fin
BACK