舞台・映画フィルム保存室(room33)



35:害虫(cinema)





先生は私から逃げたかったの?



監督
 塩田明彦 2002年 日本
脚本
 清野弥生
出演
宮崎あおい/田辺誠一/沢木哲/天宮良/石川浩司/蒼井優/伊勢谷友介/りょう



◎総評◎ B
  怖い。昏い。深い。
  安心して眠った記憶がすごくとおくにあるような感触。



 なんだか静かなのに、ひどく怖い映画でした。この映画に深く感銘を受けるのはどの世代の、どの子たちなんだろう、と考えずにいられない。
 ただひとつ思ったのは、こういう「恐るべき少女の無自覚の力」に、監督さんは無意識にしろ意識的にしろ平伏しているのだろうな、ということ。

 主人公のサチ子(宮崎あおい)は中学生。家庭にも、彼女自身にも訳ありのようで、学校にいかずにふらふらと歩いていたりする。友人のひとりが、彼女を学校に誘いにくるけれど、彼女自身の内側に届いている様子は薄い。
 小学校時代の担任と、どうやら文通をしているらしい。画面のなかでほとんど口をきかない彼女の、少女らしい思いが、手紙の文面として、無音でスクリーンに映し出されている。先生(田辺誠一)はどうやら、遠く寒いところで、教師をやめて働いているようだ。

 どうしてか、彼女に害をなす人間をひきつけやすい、少女の素質。そして、彼女自身の凶器になる部分。そのふたつを、矛盾せずに、説明されずに見せ付けられたような気持ちになりました。誰も彼女を守らない。守れていない。とおりすがるサラリーマンや、母親の恋人。彼女の友達顔をしている女の子でさえ、彼女に告白をしてくる同級生でさえ。彼女の味方ではない。そのことをことばではなく察知しているような彼女がとった、最後の行動。
 彼女が”燃やす”家について、納得が出来ない、というような意見を感想としてよんだけれど、わかるような気がする。燃やしたくなる衝動を与えられる相手だったからだと思う。最後に彼女が「彼」を見つけながらその元に戻らなかった、のも、わかるような気がする。遠ざかり侵さぬようにすることは、彼女を「傷つけない」という言い訳のうえになりたつ、彼女から逃げる行為にほかならない。
 ひとをひきつける引力は、素質。引き寄せられた人間によってなされる害は、引き付けられることでなされる利よりも早く、その持ち主を傷つける。
 泣かないで、誰にもすがらないで、ただ乾いていくだけの彼女の姿が、見ているだけの私の内側に食い込んでくる感じがした。

 明確な理由より先に、人に影響する存在としての少女、というもの。
 そんなキーワードに興味を持たれたら、きっと印象が強く残る映画になるでしょう。
 切り付けるような痛みはありませんが、砂漠に立ち尽くすような渇きの印象があり、救いや癒しはありません。


 ところでタイトル『害虫』の意味ってなんだと思いますか?




 さて、テーマソングになっていたナンバーガールの「I don't know」は無茶苦茶よいです。とくに、映画の中、ほとんど音のない世界にいきなりはいるギターにはばりばりしびれました。ずがーんとかずきゅーんという勢いで惚れましたです。映画のDVDにおまけで入っていたビデオクリップもすごく素敵。歌を伴ったものは、まったく別物、として好きになりました。
 どんな風につかわれているのか、是非予備知識なく見ていただきたい。間違いなく一番胸に残る場面になることでしょう。




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