TOP10 HITS OF LAST CENTURY
Presented by meantime

 60年代日本の洋楽チャートを取り上げるにあたって、とりあえず今回の企画意図などを少々(ちょっと長いで す)。当メルマガの元ネタは、いうまでもなくアメリカで発行されている「ビル ボード」誌のヒットチャート。過去のチャートの記録は数種類の本にまとめら れ、これまで「フラッシュバック」で紹介しているように現在でも容易に調べる ことが出来ます。さらに「ビルボード」でヒットチャートが開始する以前につい ても、スティーブ・サリヴァンという奇特な人がアメリカの議会図書館に3年間 通い詰め、レコード産業が誕生してからの記録(1890年から!)をまとめあげた 大作「Pop Memories 1890-1954」という形で一冊の本になっており、今世紀アメ リカのポピュラー音楽の概観が分かるようになっています。

 一方日本の場合はどうでしょうか?我が国で一番メジャーなチャート誌「オリ コン」は1968年の創刊以来毎週ヒット曲のランキングを発表しており、その記録 は一冊の本にまとめられています。しかしそれ以前、音楽的にいえばグループサ ウンズ時代以前のヒット状況についてはちゃんとした記録が残されていません。

 なので我が国の戦後最初の20数年間のポップスが語られる場合は、語り手の “記憶”に基づいて話が展開されることが殆どで(その後についてもそういうこ とが多いんですけど)“記録”による裏づけが希薄な印象があります。勿論“〜 年〜月に〜週間〜位”という記録がその曲の価値を決めるものでないことは明ら かですが、各アーティストの歴史という縦の流れだけでなく、ある時点のヒット チャートという横のつながりの視点で音楽を見直せば、後から見るとまったく別 個に存在しているように見える各作品が、実はお互いに影響を受け合い、それな りの必然性を持ってその曲調、サウンドになっているんだということが理解でき るきっかけにはなります。

 例えば「美空ひばりが如何に人気があったか」とか「橋幸夫が60年代日本の最 大のヒットメーカーだった」なんてことは、その後に生まれた世代にはまったく 実感がわきませんし、興味を持っても文献がないので調べる術もありません。

 そういったこともあって私は数年前から「オリコン創刊以前のヒットチャート って何かあるんだろうか?」と色々と調べ始め、とあるメーリングリストで得た のが「『レコード・マンスリー』という雑誌に随分前からヒットチャートが載っ ているらしい」という情報。このメルマガをご覧の方もご存じかも知れませんが 『レコード・マンスリー』は80年代半ば頃までレコード屋の店頭に置かれていた 月刊のフリーペーパーで、その月の新譜情報を網羅的に掲載している音楽ファン には非常に有り難いものでした。

 この情報を提供して下さった方は親切にも60年代の『〜マンスリー』のヒット チャートのコピーを送って下さり、その紙の束は現在私の貴重な資料になってい ます。で、存在がわかったら今度はその記録をコンプリートに調べてみたくなる のが人情(?)、早速国会図書館に行ってバックナンバーの存在を確認したので すが、当時無料で配られていたのが災いしてか、同館に蔵書として存在する のはかなり飛び飛び、特に初期のものは殆ど置かれていないというのが実情でし た。

 さぁ困った、国会図書館になかったら一体何処にあるの?ということで今回思 い切って公開捜査をやってみることにしました。少なくとも人並み以上に音楽に 興味をお持ちの方が一万人以上講読している当メルマガですから、もしかしたら 情報が得られるかもしれない。「60年代以前の『レコード・マンスリー』どなた か所在をご存じないですか?」キャンペーンを暫くはります。

 ということで当時『レコード・マンスリー』誌で発表されていたヒットチャー トを紹介してみたいと思います。まず一回目は私の手許にあるもっとも古い資 料、1961年の分からいってみます。

■ 洋楽ポピュラーシングルチャート1961年9月度

1.黒い傷あとのブルース/アンリ・ド・パリ楽団(Colpix)
2.カレンダー・ガール/ニール・セダカ(Victor)
3.ボーイ・ハント/コニー・フランシス(MGM)
4.コーヒー・ルンバ/ウーゴー・ブランコ(Polydor)
5.サレンダー/エルヴィス・プレスリー(Victor)
6.アラスカ魂/ジョニー・ホートン(Columbia)
7.峠の幌馬車/ビリー・ヴォーン楽団(Dot)
8.栄光への脱出/パット・ブーン(Dot)
9.欲望のブルース/ベルト・ケンプフェルト楽団(Polydor)
10.栄光への脱出/タイシャー楽団(United Artists)

 邦楽チャートでは橋幸夫の「花の白虎隊」と「南海の美少年」のカップリング が1位だったこの週、ポピュラーチャートのナンバー1はパリ楽団の「黒 い傷あとのブルース」。いきなりアメリカのヒットチャートとは無縁の楽曲にぶ ち当たってしまいました。

 インターネットやら過去の文献やらを色々捜してみたのですが、この「黒い 〜」のヒットのきっかけについて言及されているものは見つかりませんでした。 またサム・テイラーなどによるカバー録音はCD化されているものの、パリ楽団 版は収録されているものが見つからず、結局今回聴くことが出来ませんでした。 新企画開始早々みっともないのですが、どなたかご存じの方がいらっしゃったら 是非教えて下さい。ただ、当時この曲に聞き覚えのある方の大半は、このバージ ョンではなくむしろ小林旭がこのインスト曲に日本語詞をのせたカバー盤に親し んだのではないかと思われます。アキラ版「黒い傷痕のブルース」はこの月邦楽 チャートの6位にランクイン、その後最高3位を記録して年末には彼と吉永小百 合の主演で映画にもなっています。

 で、このアキラ版、実際聴いてみたのですがややラテン調ではあるものの、 堂々たる“アキラ節”で、洋楽カバーという雰囲気は希薄。逆に“何を歌っても アキラはアキラ”という大物ぶりは窺えますが。。凄い歌手です。。。

 続く2〜4位はどれも日本語版がヒットした作品。ニール・セダカの「カレン ダー・ガール(アメリカでは最高4位)」は坂本九がカバー、同じくセダカ作の 「ボーイ・ハント(「Where The Boys Are」米4位)」はコニー・フランシス本 人の日本語版によって日本のオールディーズのスタンダードになりましたし、 「コーヒー・ルンバ」は“昔アラブの偉いお坊さんが〜”で始まる、ツッコミど ころ満載の奇妙な日本語詞で西田佐知子がヒットさせました。

 5位はエルヴィス(米1位)。この曲はイタリアの古いポピュラーソング「帰 れソレントへ」に英詞をつけたもので、これは明らかに前年1位になった「It's Now Or Never(こちらの元歌は「O Sole Mio」)」の路線を踏襲したものでしょ う。しかし“何を歌ってもエルヴィス”という大物ぶりにかけてはアキラにひけ をとらない(?)彼ですから、この曲も彼の代表作の一つとして充分なクオリテ ィを持っています。私も大好きです。

 ジョン・ウェイン主演映画主題歌である6位の「North To Alaska(米4 位)」をヒットさせたジョニー・ホートンは「The Battle Of New Orleans(59 年米1位)」や「Sink The Bismarck(60年米3位)」など史実を題材にした曲 を得意としたカントリーシンガー。ヒット曲連発のさなか彼はこの年の11月に自 動車事故でこの世を去ります。7位は、恐らく世界の何処よりも日本で愛された 洋楽アーティストの一人、ビリー・ヴォーンの「Wheels(米28位)」。アメリカ ではストリング・ア・ロングズ盤が最高3位を記録する大ヒットとなっています が、日本では圧倒的に知名度のあるヴォーンの方がよく聴かれたようです。91年 に亡くなって以降も彼の音楽はビアガーデンやスーパーマーケットなど我が国の 日常生活の様々な場面で耳にしますし、彼の遺志を継いだ“ビリー・ヴォーン楽 団”もしばしば来日して、往年のサウンドを各地で蘇らせています。

 8位と10位はポール・ニューマン主演の映画「Exodus」テーマ曲。アメリカで はピアノデュオ、タイシャー楽団(フェランテとタイシャー)盤が2位で最高記 録、イージーリスニングのマントヴァーニ楽団が31位、ジャズサックスのエデ ィ・ハリスが36位の成績を残しており、唯一のボーカルバージョンであるパッ ト・ブーン盤は最高64位と振いませんでした。が、日本ではやはり知名度がもの をいったのでしょう、パット・ブーンはこの後最高4位を記録しました。

 最後9位はドイツのプロデューサー/コンダクター、ベルト・ケンプフェルト の「欲望のブルース」。「黒い傷あと〜」もそうですが当時は様々な国で発表さ れたインスト曲が日本に紹介され、盛んにラジオで紹介されていたようです。ア メリカでも「星空のブルース(Wonderland By Night)」がこの前年に1位とな っている彼の、トランペットが高らかに鳴り響くサウンドは、その後イタリアか らニニ・ロッソが登場して日本で更にポピュラーなスタイルとなります。なおケ ンプフェルトはこの後「ダンケ・シェーン」「夜のストレンジャー」「スパニッ シュ・アイズ」などの作者としてアメリカでも成功を続けました。そういえば彼 がドイツでビートルズの「My Bonnie」や「Ain't She Sweet」をプロデュースし たのは、ちょうどこの頃のはず。


(2000.9.12)

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