2010年の夏のある日…
男は夏休み最後の休日に、息子にせがまれ道内のとある動物園に来ていた。
「なんてこった!」こんな近くで逢うなんて…
男の視線の先には一人の女性がいた。
周囲には全く気づかれていないに、男には彼女が「瑞穂」だと言うことにすぐに確信を持った。
女性は人目を避けるかのように深く帽子をかぶりサングラスをしていたが、数年に渡り自他ともに認める
瑞穂ヲタだった男にとって彼女「瑞穂」と確信するには、全く時間を要しなかった。
男は瑞穂の視線を追った…
するとその先には、いわゆる「最悪」の結果が…。
そこには、一目で瑞穂の愛娘と解かる、まるでデビュー当時の瑞穂とそっくりな少女が、
瑞穂と親子くらいの歳の差の男性に肩車をされ、戻って来た。
瑞穂が言った
「良かったね〜、パパにアイス買って貰ったの?」
少女はその男性の肩ではしゃいでいた。
「ぱぱ?」男はそう呟き、その男性が「瑞穂」の最愛の彼氏である事に対して、何一つ否定する事が無い事、
少女にとってその男性がかけがえのない唯一の父親だと言う事…
男は微かなめまいを覚え、その場にしゃがみ込んでしまった。
「あいつなのか…」
男は更に呟き、6年前のあの事を思い出していた。
前年から好評で、2回目を迎える握手会のイヴェントの大阪会場での事…
あいつは俺の5人くらい前にいたんだよ確か…で、やつは「まいちん」からの
握手会を3人共スルーして最後の「瑞穂」だけ握手して…
その時に、
「瑞穂さん結婚してください!」
って叫んでたんだ、確か…
で、周りどころかスタッフ、そして瑞穂以外の3人にも失笑されていて、
あぁ、今でも覚えてるよ…
俺もかなり笑ったもんな、あの時。
で、なんで奴が…
サングラス越しだけど、瑞穂の「少女」そして「奴」に対する
笑顔は痛感したし、何より瑞穂が一番嬉しそうに感じた…
絵に描いたような「家族」
「夢乃、良かったね、ママにも少しちょうだいね!」
瑞穂がそう言うと、少女の笑顔は、もう何の疑いも無く「瑞穂」そのもの
だった。
「夢乃って言うのか、まるでヲタだな…」男はそう言うのがやっとで、
もう、さっきまで手を繋いでいた自分の子供の事は全く気に無く、その
自分の子供の言葉さえ全く耳に入っていなかった。
更に男は思い出していた、5年前の事…
MAIKOと瑞穂が卒業の年、2月のとある日、名実ともにアイドルを卒業して
これから真のバンドとして活躍の年、
16枚目のシングルの発表記者会見の時、そこには瑞穂の姿が無かった…
事務所の発表に依ると「健康上の理由」
って事で「無期限休養」との事だったけど、結局その後半年経っても
瑞穂の復帰は無く、あらぬ噂が先行して男にとって辛い日々が続いた。
男は必死になって瑞穂の消息を追ったが、確信な情報を得る事が出来ず
唯一得た情報、それも不確かな物で…
「駆落ち」…
信じたく無い最悪の状況。
事務所の発表はいつまで経っても、お茶を濁すようないい加減んなものばかり。
男はその年の4月になると、遂に住み慣れた東京を離れ瑞穂を探す為に
札幌に移り住んでいた。
1日のかなりの時間を瑞穂の為に費やし、アルバイトの傍ら市内から
道内全土へとその範囲は広がっていった。
そして半年の間に道内全てを廻り、かなりの情報を得る事が出来たのだが…
道内にいると言う情報、そして本当に噂通り「かけおち」して男と暮らしている
と言う情報がかなり有って、既に男は精神的にかなり落ち込んだ状態になっていた。
そして、それから更に半年。
男は瑞穂の幸せを祈り、影ながら応援していこうと思うようになって…
3月のとある日、親戚からの縁談話を積極的に進め、ごく普通な、でも
少しだけ瑞穂似の年上の相手と結婚する事になった。
それから翌年すぐに長男の誕生、今、男の横で何度も「あっちのペンギン見に行こうよ!」
ってせかしている子供がそうなのだが、男には相変わらず聞こえていなかった。
「あのおばちゃん、パパの知り合いなの?」子供がそう言った時
男は、はたと我に返って「ごめん、あっち行こうか。豪…」
「知り合い(笑 みたいなもんかな? でも、おばちゃんは可愛そうだよ」
そう言って、子供の手を取りペンギンのプールのほうへ向かって行った。
男は瑞穂の事を永遠に忘れる事の無いように、子供に豪(GO)という名前
を付けたのだった。
瑞穂達はキリンの前で、相変わらず仲良くはしゃいでいた。
男はそれでも瑞穂達の事が気になって仕方なく、相変わらず
上の空な状態で、何度も振り返っては様子を伺っていた。
そして再度瑞穂達がこっちの方にやってきて、何か話している。
「夢乃、今夜のごはん何食べたい?」突然瑞穂がそう言った。
「ご馳走食べたいよね、パパも」
「何言ってるんだい夢乃、パパにとってご馳走はママの手料理に決まって
いるじゃないか。」
そう言い終わると、瑞穂は照れながらだが、間髪入れず漫才の突っ込みみたく
ベストタイミングで、30cm位身長差の有る奴の頭をジャンプしてポーンと叩いた。
当然少女にはその突っ込みの意味は理解出来ず、
「そうかなぁ、ママの料理…たまにしょっぱい時が有るよね。」
少女がそう言うと、奴は
「愛情があれば、全てがご馳走なんだよ(笑」
意味が解からず、少女はキョトンとしていた。
男は、それから何度か瑞穂達とは一緒になったのだが、とても仲の良い家族で
嫉妬を覚えたものの、瑞穂の幸せを感じ、また今後も心の中で応援していこうと
思ったのだった。
子供は像の仕草を食い入る様に見ている。「そろそろ帰ろうか?」
今度は男が声をかけても全く反応しない。
そして瑞穂の子供が「ぱぱ、おしっこ〜」そう言うと奴は少女を
連れて向こうのトイレのほうへ向かって行った。
像の前には、熱心に見ている男の子供と、瑞穂とそして男の3人だけになった。
すると、突然…
瑞穂はサングラスと帽子を取り、男のほうへ歩み寄って来た。
半ば呆然と立ち尽くす男に向かって、瑞穂は言った。
「ごめんなさい、あの時はファンの皆さんに大変ご迷惑をおかけしました、
でも今日の私たちを見ていてくれて、許してくれますよね?
あれから5年の間ずっと人目を気にして暮らして来たんだけど、すごく嫌で
いつか、皆の前に出て発表したかったんです。
今日あなたがここで見た事をファンだった皆さんに伝えてもらえないでしょうか?
凄く我がままで勝手な事だけど、よろしくお願いしますね。mizuさん!」
(瑞穂は始めから男の事に気づいていて、何度もライヴで応援してくれて
いた男の事をmizuだと思い出していた。)
そう言って深々とおじぎをして、握手の手を差し出した瑞穂の頬に一筋の涙…
「任せといてください、僕は日本一の瑞穂ファンですから!」
そう言って男はくるりと背を向け、子供に向かって
「豪!今夜は牛舌食いに行くぞ〜」
そう叫んで子供の手を取り、出口のほうへ駆けて行ったのだった…
閉園時間が近づき、閑散とした園に夕焼けが迫り、何か物悲しげな雰囲気の中、
瑞穂と夢乃、そして瑞穂の最愛の相手「誰?」の楽しげな声が響き渡っていた…
2010年8月31日
第1部 完。
「誰?」←ここに瑞ヲタって入れてね。(爆