ある夜、食後の一家団欒のひと時…
娘の夢乃は、歌番組のアイドルの踊りに合わせ一生懸命、楽しそうに踊っていた。
「ママも踊れる?」そう娘が言うと…

「そうだね、すこしなら踊れるかなぁ…」
そう言って男のほうをチラっと見た瑞穂だったが、クスクス笑われているのに気付き、ちょっと焦っていた。

2人は娘の夢乃に自分のママが結婚する前まで「ZONE」だったことを知らせていなかった。
過去の事を絶ち、2人きりでこれから生きて行こうと「かけおち」した訳だったから、当然の事と思っていた。


「ママ〜電話鳴ってるョ〜!」娘がそう知らせるよりも、むしろ早くに気付き瑞穂は慌てて受話器を取って
奥の部屋へと走っていった。
男には、その電話の相手、そして内容までほぼ解かっていた。
電話はここ1週間で3回目だった。







動物園でmizu君と再会後、彼は瑞穂との約束どおりその後すぐに、当時ファンサイトでは最大の規模を誇っていた
「狼」のメンバーと連絡を取り、
所属事務所にも何度も足を運び…

そして「狼」数百名のメンバーからの働き掛けで、日本全国より事務所への嘆願が数千にも及んだ。

その後一ヶ月後の10月の半ば、瑞穂は正式な会見の場所にいた。
事務所が重い腰を上げ、瑞穂とも和解して ファンの強い要望に答える為に開いた会見だったが、
あれから5年の歳月にも関わらず、もしや「ZONE復活」という話題にもつられマスコミの数はかなりのものだった。

瑞穂休養発表の後、ZONEは3人で半年程活動を続けていたのだが、その後新たに迎えたドラムスとの
不仲も有って、更に1年後にはそれぞれがソロ活動に専念と言う理由で活動休止となったのだが、実質解散の状態
となってしまっていた。







瑞穂への電話は、事務所からのもので、内容は復帰を熱望するものだった…
電話を終えリビングに戻って来る瑞穂の顔はとても辛そうな、彼女らしくないもので、1週間前の電話から
そう変わってしまっていた。
「ママどうしたの?元気出してョ!」
その姿は、娘にも解かる位のもので、男の気持ちは既に決まっていて

「なぁ、夢乃。」
「ママは本当は踊りが凄く上手なんだョ」
「さっき見てた歌手みたいに、テレビに出て歌ったり踊ったりしてたんだョ、とっても綺麗で可愛かったんだ…」
「ママが上手に歌ったり踊ったりしてるとこ、夢乃も見てみたいだろ?」
そう言った。


ちょっと驚いていた娘だったが、それよりももっと驚いていたのは瑞穂のほうだった。