とりあえず二人の争いが収まるまで、皆は一年昇降口前で時間を潰すことに

した。

「はあぁ、怖かった」

やっと安全な所に避難でき、安心したセナが息をつく。

「どうしてあの二人、あんなに仲悪いんスかね?」

ヒル魔とまもりの凄まじい争いを思い出し、不思議がるモン太。

この質問に、彼らと同じ二年生の栗田と雪光が答えた。

「去年はあそこまで衝突することはなかったけど、やっぱり仲は良くなかったもん

ね」

「二人とも同じように成績はトップクラスなんだけど、性格は正反対だから」

この話から察すると、どうやらあの二人の確執は去年からずっと続いているもの

らしい。

しかも、問題児対風紀委員の仁義なき戦いは、二年生の間ではかなり有名な話

なのだという。

「ヒル魔さんもやっぱり勉強出来るんですか?」

成績はトップクラス、という雪光の言葉に反応したセナが二人に聞いた。

「そりゃあ、姉崎さんといっしょにいつも同点トップだからね」

「すごいですよね……。僕も、あれだけ出来ればなあ」

自らの勉強漬け人生を振り返り、それでも学年トップなどとったことがない自分を

情けなく思う雪光。

「け、ケタが違い過ぎる……」

成績トップへの道がエベレスト頂上への道よりもはるかに遠いモン太が、思わず

天を仰いだ。

「でも、まもり姉ちゃん、美術だけはダメだもんな」

まもりとは幼い頃からの付き合いであるセナが、彼女のただ一つの欠点(?)を

指摘する。

それを聞いた栗田は、面白そうにクスクス笑うとこう言った。

「ヒル魔も美術の成績は良くないよ」

「えっ、そうなんですか?」

栗田は、実はライス君の絵を描いたのがヒル魔だということを皆に話した。

「すみません、ライス君って?」

「そっか。雪光くんは知らないんだっけ」

栗田は適当な棒を拾うと、それで地面にライス君を描いた。

それは実物の絵にそっくりだったが、何せ元絵があまり良ろしくない。

なので、果たして栗田は絵が上手いのか下手なのか、どちらなのかがよくわから

なかった。

「これ、ヒル魔用の練習道具でね。モン太くんが入る前は、ずっとこれでパスの練習

してたんだよ」

「へえ……」

皆で関心しながらライス君の絵を眺めていると、ふいに鼻をすする音が周囲に

響く。

見ると、何故か栗田が涙ぐんでいた。

「ど、どうしたんですか?」

驚いた皆が栗田に尋ねる。

「ご、ごめん。つい去年のことを思い出しちゃって……」

栗田はそう言うと、以前のヒル魔が置かれていた状況はクォーターバックにとって

あまりに残酷なものだったことを、皆に切々と語り出した。

パスを受けられる人が見つからず、こんな道具に頼らなければ練習すらまともに

出来なかったこと。

また、どれだけパスを練習しようとも、それを受けとめてくれる人がいなければ、

実力を発揮する場所そのものが存在しないこと。

そして、どんなに有効な作戦を練ったとしても、それを実行するだけの能力が

メンバーに無ければ、作戦がまったく意味を成さないことを。

「だから僕、皆がアメフト部に入ってくれて本当に嬉しいんだ。やっと、本当にやっと

今、クリスマスボウルに向けてがんばろうって思えるから」

「……大変だったんスね」

もらい泣きで顔をグシャグシャにしながらモン太が言った。

「僕も、去年から入部していれば……」

拳を強く握り締めて雪光が呟いた。

「……戻ろうよ、部室に」

いたたまれなくなったセナが提案した。

そう。

ヒル魔はやることなすことメチャクチャだが、いつだってアメフトで勝つことだけ

には誰よりも真摯に取り組んでいた。

そんな彼が自分達のためにくれた大事な練習時間。

これ以上、ムダになんかしちゃいけない。

「……そうだね。そうしようか」

栗田が答えたのを最後に、皆は無言で一年昇降口を後にした。
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