
| ビートルズの5th・アルバム。'65年8月7日リリース(英)。全14曲中1〜7までが映画「HELP!」のサントラ。この年のビートルズもコンサート、2本目の映画撮影と超多忙、殺人的なスケジュールに追われていた。コンサートにおいては、夏に行われた北米ツアーで、これまでの常識を打ち破る、驚異的な興行記録を打ち立てている。前年のツアーは1ヶ月にも及んだが、今回は15日間に短縮、会場も10ヶ所に限定された。そのため、収益を挙げるために巨大な会場を必要とされ、遂に野球場などの屋外施設を利用する事になる。1965年8月15日ニューヨークはシェア・スタジアムには55,600人の大観衆が押し寄せる。現在のように満足なPA装置もあるはずがなく、観客は音楽を聴くというより、史上最強のアイドルをひと目見ようと押し寄せて来た訳である。ビートルズのメンバーたちはヘリコプターで会場に到着し、絶叫と嬌声の中、わずか30分余りのプレイで会場をあとにした。当日の収益304,000ドル、ビートルズの取り分160,000ドルは、当時の収益、観客動員数の新記録になった。これが伝説のシェア・スタジアムのコンサートである。今回の北米ツアーでのべ18回のコンサートが行われたが、観客動員数は30万人をはるかに超えるものとなった。その後の野外コンサートの盛況も、実はこのようにビートルズが先鞭をつけたのである。 音楽面においても、創作意欲は衰える事を知らず、乾いたスポンジが水を吸収するが如く、ドンドン新生面を切り開いていく。ジョンは、最早アイドルでいる事に辟易し、誌作面で大きな変化を見せ始める。タイトル曲で、初めて私的感情を盛り込んだ「一人称の歌」を発表した。後年、ベスト・ソングの1曲にも選んだこの曲で、彼は、それまでの単純なラヴ・ソングに完全に別れを告げたのである。このアルバムで、最も際立つ躍進ぶりを見せたのがポールである。過去4作は、あらゆる面でジョン主導で制作されてきたのは、疑う余地がない。しかし、本作でのオリジナルはジョン5曲、ポール5曲と初めて同等の立場に位置付けられた。これは、ジョンの才能が衰えたと言う事ではなく、ポールの才能が一気に開花した証である。世紀の大名曲「Yesterday」の発表は20世紀最高のメロディー・メイカー”ポール・マッカートニー”誕生の瞬間でもあった。ジョージは作曲面では、ジョンやポールの影響を受け、少しずつ進歩を遂げていく。またギタリストとして、これまでのチェット・アトキンスやロカビリー・スタイルあるいはスキッフルなど影響から脱却し、叙所に独自のスタイルを築いていくのもこのアルバムからである。リンゴのドラミングは相変わらず正確無比のリズムを刻み続けている。「Ticket To Ride」におけるフィル・インはその後のロック・ドラムに与えた影響は非常に大きなものがある。 映画の方は、前作「A Hard Day`s Night」がドキュメンタリー・タッチの作品であるのに対して、2作目はストーリー性を持たせた。監督は前作同様”リチャード・レスター”。謎の教団が1個の指輪を巡り、ビートルズを巻き込んでのドタバタ喜劇なのだが、全編カラーという事もあり、アルプスやバハマ諸島の美しい風景が今でも鮮明に目に焼きついている。(LDで何十回も見た)取り分け、今回の映画では、リンゴの演技が評判を浴び、その後の映画出演(「キャンディー」「ブラインドマン」「マジック・クリスチャン」など)の呼び水となった作品でもある。 レコーディングは”65年2月12日の「Ticket To Ride」「Yes It Is」から始まり、映画に使用されたアルバム前半の7曲は2月の中旬と海外ロケ後の3月下旬から4月中旬にかけて行われた。それ以外はシングルB面の「I`m Down」や「Bad Boy」と同時期の5月から6月初旬の行われている。このアルバムで、初めて外部ミュージシャンを起用し、またエレクトーンなどのキーボード類を多用している。プロデュースはもちろん”ジョージ・マーティン”。 |
| 一人よがりの曲解説 1、Help ジョンの作品。最初、脚本の段階では「Eight Arms To Hold You」という映画のタイトルが用意されていたが、ジョンとポールはそのイメージに添ったタイトル曲が中々作れず、"64年4月4日にこの曲が完成した時点で「HELP!」に変更された。その時の完成に至るまでの心情を吐露したタイトルが何とも意味深。イントロの「HELP!」というジョンの絶叫と転調してからの鮮やかまでのメロディーとコーラスの掛け合いが実に見事!映画の内容に則した単純な主題のようにも思えるが、その実はジョンのソング・ライティングに対する意識変化が如実に現れた曲として今日では捉えられている。当時のビートルズを取り囲む余りに狂騒的な現状と環境に対する、あからさまな不満と否定の意志が「HELP」という一言に集約されているようにも思われる。 2、The Night Before ポールの作品。映画のための間に合わせ程度に、メンバーが「せ〜の」で1発録りした、シンプルなロックンロール・ナンバー。しかし、私にとってこの曲は実に想い出深いものがある。この曲、日本では5とカップリングでシングル・カットされた。当時の私はソラで歌えるほど、この曲を愛聴していた。私の通っていた学校では、卒業シーズンになると、卒業生による謝恩会という催し物があった。当時は私はチョッピリ、やんちゃ者でいつも20人ほどの仲間を引き連れて、集団の先頭を闊歩していた・・・。その仲間を従えて、ボール紙で作ったギターを抱えこの曲を独唱したのである。カラオケなどあるはずもなく、まさしく演奏なしの独唱である(他の20人はボール紙のギターを抱えて演奏の真似をしているだけ)。そのせいもあってか何だか知らないが、最優秀歌唱賞なるものを頂いて、得意満面になっていたのを思い出す。それ以後、賞というものに全く縁のない私にとって、ある意味で”人生のピーク”を授けてくれたありがたい曲なのである。 3、You`ve Got To Hide Your Love Away ジョンの作品。前作、「No Replay」「I`m A Loser」などによって、内省的な気配を漂わせ始めたジョンだが、この曲で新たにフォーク・ロックという世界を切り開いた。ボブ・ディランからの影響抜きには語れない作品であり、実際ディラン2度目の訪英となった'64年の5月にジョンはディランと初接見を果たしている。アコースティック・ギターによる演奏スタイル、また声もディランを意識したもので、影響の大きさを物語っている。 4、I Need You ジョージの作品。「WITH THE BEATLES」収録の「Don`t Bother Me」以降途絶えていた、久々の作品。ちょっと繊細な曲調は、いかにもジョージらしいが、所々にジョンとポールの影響が伺えられるのは仕方ないところか?ヴォリューム・ペダルを使ったジョージのギターが印象的。 5、Another Girl ポール作のロカビリー・タッチの典型的なポップ・ナンバー。イントロなしで、いきなり歌い始めるのはポールお得意のパターン。'65年2月15日のワン・テイクで即OKのナンバーだが、ダビング用に録られたジョージのギターが気に食わなかったポールが自分でリード・ギターを弾いている。 6、You`re Going To Lose That Girl ジョンの作品。ビートルズならではというより、ビートルズにしか成しえない掛け合いコーラスが見事な名曲。ジョンのリード・ヴォーカルとポール、ジョージによるコーラスのコンビネーションは絶妙で、何度聴いても素晴らしい。ミドルの転調もキマッている。映画の中では、レコーディングのシーンに使用されたが、ポールとジョージが1本のマイクを挟んでコーラスをつける、リンゴはくわえタバコ、ジョンは暗いスタジオにシルエットだけ・・・素晴らしいシーンで本当にカッコイイ!スクリーンに向かって、叫んでいる女の子の姿が目に浮かぶよう・・・。 7、Ticket To Ride(涙の乗車券) ジョンの作品。アルバムに先駆けてシングルでヒットした。全英チャートにおいて'65年4月24日から3週連続、全米で同年5月22日付でそれぞれNo1を獲得。後年ジョンは「最もヘヴィーな曲」と語っている。感情豊かなジョンのヴォーカルとポールのハイトーンなコーラスが絶妙な味を醸し出している。グループのシングルとして、初めてポールがリード・ギターを担当したという事になっている。その特徴的なギターとリンゴの複雑に変化していくドラミングはポールのアイディア。 8、Act Naturally テキサス出身の偉大なカントリー・シンガー”バック・オーエンス”のカバー。彼自身'63年全米カントリー・チャートのNo1に送り込んでいる。カントリー&ウェスタン・フェチのリンゴが歌っている。リンゴはビートルズ時代にも「Don`t Pass Me Bye」「Octopas Garden」などカントリー・タッチの曲を書いたり、解散後はナッシュビル録音のカントリー風のアルバムを発表したりとフェチぶりを発揮している。この曲はその趣味が生かされた最初の曲だろう。ジョージはチューニングを全音さげたギターでリードを弾いている。これはカントリーのギタリストがよく使う技法らしい。なお、後年リンゴは念願叶って、”バック・オーエンス”とデュエットでこの曲を再レコーディングしている。 9、It`s Only Love ジョンの作品。後にジョンは最悪の曲といっている。「歌詞が最悪なんだ!」と・・・その真意はどこに?好きな曲なんだけどなぁ・・・。メロディーも良いし、ヴォリューム・ペダルを使って陰影を添えたジョージのギターも素晴らしいし・・・。 10、You Like Me Too Much ジョージの作品。キーボード主体のアレンジで合計3台のピアノがフューチャーされている。「I Need You」同様ジョージがリード・ヴォーカルを採っている。ここでは更にダブル・トラッキング録音にも挑戦している。イントロと間奏のピアノはポールとジョージ・マーティンが一緒の弾いている。ジョンはエレクトリック・ピアノでリズムを刻んでいる。 11、Tell Me What You See ポールの作品。いかにもポールらしいポップス然とした、親しみ易い小品。ポールとジョンにジョージが加わってのヴォーカルの重なり具合などが絶妙な雰囲気を醸し出している。 12、I`ve Just Seen A Face(夢の人) ポールの作品。カントリー風のフォーク・ナンバー。ベースは挿入されてなく、ポール、ジョン、ジョージの3人がアコースティック・ギターを弾いている。リンゴのブラシを使ったドラムやポール自身によるファルセットのハーモニーなどが素晴らしい。ポールお気に入りの曲らしく、”WINGS”のライヴなどでもよく演奏されている。 13、Yesterday 今更、いうまでもなくポール作の20世紀を代表する名曲中の名曲。確認されているだけで2,500以上のアーティストがカバーしており、ポピュラー史上では文句なしにNo1である。ジョンの「キリストより有名」の発言や反体制的な行動で、世界的にビートルズ・ボイコット運動まで起こっていた'65年当時、この曲1曲で社会的な認知を好転させたとも言われている。レコーディングにはポール一人しか参加しておらず、「一人ビートルズ」あるいは「ポールのソロ・ナンバー」として捉えてもいいかも知れない。当初、ストリングス導入に難色を示していたポールだったが、ジョージ・マーティンの説得によりポールによるアコースティック・ギターに弦楽四重奏を重ねるというアレンジに落ち着いた。ジョージ・マーティンは子どもの頃から、クラシックの作曲家になる夢を描いており、自らのバックグラウンドをビートルズの音楽に刻み付けた初めての作品ともいえる。以後、「エリナー・リグビー」「シーズ・リビング・ホーム」などストリングスを導入した名曲が、数多く誕生する切っ掛けともなる作品でもある。それと同時にビートルズは良識ある大人達にも認識されるようになり、取り分けクラシックの巨匠”レナード・バーンスタイン”に「21世紀に最も演奏されるのはビートルズの曲」とまで云わしめた。 14、Dizzy Miss Lizzy ジョンのお気に入り、「Slow Down」「Bad Boy」で知られる”ラリー・ウィリアムス”のカバー。怒涛のようにシャウトしまくるジョンのヴォーカルが圧巻。とてもヘヴィーな仕上がりで、ここでもオリジナルを完全に凌駕しているといっても良い。この曲を最後に、以後ロックン・ロール・ナンバーのカバーを一切しなくなる。'69年カナダのトロントで開催されたコンサートで”エリック・クラプトン””クラウス・ヴアマン””アラン・ホワイト”をバックにジョンはこの曲を熱唱している。 |