Album Review


No Smoke Without Fire / Wishbone Ash

私とウィッシュボーン・アッシュ」にも書きましたが、1978年発売のこの「No Smoke Without Fire(邦題:因果律)」は、私のウィッシュボーン・アッシュ原体験となった名曲、「You See Red(邦題:怒りの炎)」で始まる、ウィッシュボーン・アッシュ中期の名盤です。全体的に、Laurie Wisefield参加以降アメリカよりになっていた音をブリティッシュに戻したといった印象になっており(実際、このアルバム制作前にバンドメンバーはアメリカからイギリスに移住しています)、かつ、彼らの専売特許である哀愁のツイン・リード・ギターが随所に聞かれ、ファンにはたまらない一枚となっています。

まず1曲めの「You See Red」ですが、単純ながら印象的なリフと、主旋律さえわからないほどの3声のハーモニーヴォーカルがこれまた印象的な曲です。それなりにスピード感もあり(まあ、そうはいってもこの時代の音楽ですからスピード自体は知れていますが・・・)、アルバムのトップを飾るにふさわしい出来の曲です。中間のブレイク後には哀愁のツイン・リード・ギターが炸裂しています。時には完全に「穴」となってしまうLaurie Wisefieldのヴォーカルも、曲調のせいか、音程の不安定さがあまり気にならず、うまくこなしています。

「Baby the Angels are Here」は、Martin Turnerの唄を聴く曲でしょうか。重めのリズムには、ややサザン・ロックの影響っぽいものも見え隠れしているような気がします。この曲もツイン・リードが印象的。

「Ships in the Sky」は、Laurie Wisefieldのヴォーカルによるバラードです。彼の、気の抜けたようなヴォーカルも、静かで幻想的な曲調に妙にマッチしていて、なかなか美しい。イントロ、間奏、エンディングとツイン・リードが聞かれ、これは本当に美しい。美しいツイン・リードとは何かということを見せつけて(聴かせつけて?)くれる曲です。

「Stand and Deliver」は、アナログ盤ではA面最後を飾る曲で、テンションの高い曲調です。スピード自体はそう速い曲ではありませんが、スピード感は十分に感じさせてくれます。個人的には、サビ部分最後の「Stand and Deliver」というフレーズのところで無理矢理転調しているのがどうしてもなじめず、この無理な転調を、最後の1回だけにしていれば、曲全体の調和(コーラス毎にサプライズがあると、サプライズがサプライズにならなくなってしまいます。サプライズは最後の1回だけでいいのでしょうか。)もとれていたのではないかと思います。緊張感のあるいい曲なので、ちょっと残念。

アナログ盤B面1曲目の「Anger in Harmony」は、前作までの「アメリカン・アッシュ」風の曲です。この曲調にしては、妙な湿り気がややアンバランスな気がしています。こういう明るい曲調が好きな人も多いんでしょうが。

「Like a Child」は、一言でいうと、「演歌ロック」といった感じ。もちろん、彼らのことですから、こぶしがきいているというわけではなく、美しいハーモニーを聴かせてくれるのですが、全編を通して要所要所で聴かれるギターソロが泣いていて(あえて例えれば、もんた&ブラザースの「ダンシング・オールナイト」のギターソロに近いか?)、演歌のスピリットに近いものを感じさせます。

ラストの「The Way of the World」は、なかなかの大作です。作者のLaurie Wisefieldによれば、「Phoenix」をコンサート毎に必ず演奏しなければならないのに飽き飽きして、それに替わる曲を書きたくて出来たのがこの曲だそうです。確かに、静かに始まり、徐々にテンションを上げていき、最後は力強くというパターンは全く「Phoenix」のそれと同じです。むしろ曲的にはこの「The Way of the World」の方が、より洗練されて、スピード感も上かもしれません。私としては、どちらかというと、「Argus」に入っている「Sometime World」に近い雰囲気だと思っています。いずれにしても、エンディングの1曲としては合格点以上の出来です。

アルバム全体を通して、いい曲も多く、哀愁もたっぷりで、非常にいいと思うのですが、実際にはセールス面ではあまり振るわなかったようで、この後のバンドは徐々に苦境に立たされていったようです。パンク・ロック全盛の時代には彼らのようなバンドは難しいものがあったのでしょう。ただ一点、難を言えば、初期にはツイン・ギターの合間を縫うように、リード・ベースとも言えるほどの存在感を出していたMARTIN TURNERのベースがあまりにもおとなしいことです。ヴォーカルが事実上の一枚看板となってしまい、あまりベース・プレイに力を入れられなかったのかもしれません。いずれにしても、ファンならば買いの一枚であることにかわりはありません。

私自身は、アナログ盤しか持っていませんので、ぜひCDを買いなおしたいんですが、どこを探しても見つかりません。

ネット上で調べたところ、一度はMCAからCD化されたそうですが、今は廃盤となっているようです。その理由は、「原盤を紛失したから」とか。原盤がなくなっても、CDのデジタルデータ、そのまま使えばいいわけで、単なる言い訳に過ぎないと思います...

なんと、最近やっとこのCDを入手することができました。ウィッシュボーン・アッシュの公式サイトで注文したものが、なんと21世紀最初の日(2001年1月1日)に届きました。ボーナストラックが5曲も入っていて、とってもうれしいです。MCAがやっと重い腰を上げて再プレスしたもののようです。追加プレスの予定はないそうなので、欲しい方は上記サイトで注文されてはいかがでしょうか。


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