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【コラム】「 祈り 」。1996年1月 1995年 12月 渋谷で声をかけられた。 彼女は僕の健康と幸せを祈ってくれると言う。 周囲にはそんな風に声をかける人が四・五人。 話しかけられる方の反応も様々。 眉ひとつ動かさずに無視するOL。 逃げるようにコースを変える女子高生。 二人組の大学生であろうか、片方の一人は睨みつけている。 試しに祈ってもらう。 「光が見えたり、暖かくなる人もいる」らしい・・・。 しかし、僕には風が冷たいだけだった。日頃の行いが悪いせいだろうか。 彼女はT市の国立大学を休学して、東京で布教活動をしている。 T市と言えば学園都市でノイローゼや自殺が多いことで有名なところ。 「周りには何もなかった。独り暮しで、部屋に戻るとテレビを見るだけ」。 「四人兄弟の実家は賑やかだったのに」。 「人間関係とかグチャグチャしちゃったり、色々あって……頼れるものが欲しかった」 友達にはやめるように怒って忠告された、と。 「でも、友達は捨ててきた。やっぱり、友達より神様のほうが大切だから」 彼女は次々と声をかける、道行く人々に。 吐く息が白い。 声をかけた人数は一時間に593人。 けれども祈ってもらう人はいない。 信号の向こうでは、同じような寒風の中、ビラを配る学生達が見える。 仕事が終われば彼らはバイト代をもらうだろう。 彼女は入信の時、4万円払った。 「大学はやめる。来月からは働く」と彼女。 「お金は神様に使っていただく」 渋谷の夜が更けていく。 「何時からやってるの?」。 体は震えているが平気な顔で「今日は朝10時からかな」。 今は夜7時。 「何時までやるつもり?」。 「10時くらいまで」。 耳が真っ赤だ。 「毎日?」。 「そう」。 笑いながら彼女は答えた。 その後も彼女は足早に過ぎ去る人々に声をかけ続ける。 12月下旬のある日のこと。この日の最低気温は1度。1月中旬の気候であった。 |