『JUST FEEL IT』

たまに思いがけない質問を投げかけられることがある。
今回も一言で答えることが出来ないものだった。
「彼女と付き合い始めた頃ってどんな気持ちだった?」
不意に北山に聞かれて僕は驚いた。
「…せんせ〜?」
安岡が眉間にしわを寄せて尋ね返す。
どうやら他のメンバーも同じ心境みたいだ。

何故今、そんなことを……?

「一体全体、どうしたというのだ」
「お前、熱でもあるんじゃねぇか?」
口々に思ったことを言ってはいるものの
ただならぬ状況に皆慌てているのは確かなようで。
そんな中、北山はゆっくりと口を開いた。
「いや、付き合い始めた頃ってそれは非日常なことだったわけじゃない?」
うん、まぁね〜
「それがずっと続いていくと当たり前の日常になるんだよね」
う、うん…そうだねぇ
「日常になっちゃうと気持ちも慣れちゃって、当時は感じていた小さな幸せも忘れがちでしょ」
そうかも、知れないね
「だからたまには思い出さないといけないのかな、って思ったんですよ」
あ、なるほどね〜
「自分でも気が付いていない感情があるかもしれないから皆に尋ねてみてるんだけどね」
そこまで聞いて安岡が口を挟んだ
「ふぅ〜ん……なんだか感傷的な発言だねぇ」
そうは言うものの彼の瞳は結構輝いていたりする。
こういう手の話にはとても興味を示すヤツなんだよねぇ。

でも への気持ちをいろいろと思い出していたら、何も耳に入らなくなっていった。

そんな時間がしばらくあったのかもしれない
「黒沢ぁ」
そんな間の抜けたテツの呼びかけにはっと気が付いて何? と反応する。
「お前、人の話聞いてたか?」
「あ…ご、ごめん」
正直なにを話していたのか、僕には判らなかった。
「思い出話を黒ポンに振ってみたのだが、一向に喋ってくれず」
「こうしてしばらく眺めていたんですけどね」
「で、何考えてたのぉ?」
4人の視線がちょっと怖い……
でも改めて言われるとなかなか難しい質問だよね。
「教えてくれませんか、当時の気持ち」
「う、うん」
僕の場合は ――

「薫〜!」
僕を呼ぶ声に振り返ると が向こうから走ってくるところだった。
「お、おはよ、う」
長かった髪を短く切って、風になびかせながら笑顔で僕に駆け寄った。
その笑顔は確かにいつもの君のはずなのに
だけど、どこか昨日までの君とは違う
「どう? 似合うかな」
その違いを確かめるように思わず髪に触れた僕に質問を投げかける。
「う、うん…」
照れたような笑みを浮かべ僕が答えると君も少しはにかんで。
会うたびに新しい面を見せて、いつも僕を驚かせるから
いつまでも僕は から目を離すことが出来ない。

きっと これからもずっといろんな君を見つけていくんだろうな

だけどこれからの君も好きになる
この優しい気持ちを届けてくれる君への感謝を抱きしめながら。
「今日はホントいいお天気になったよね〜」
そう言って伸びをする の後姿は陽射しに当たって輝いている。
「ね、海 行こうよ」
振り返った君はそう言ってガイドブックを捲りだす。
僕がまだ心を奪われているうちに、どんどんと今日の予定が決まっていく。
……僕の計画は全部キャンセルだな……
苦笑しながらも僕は の提案に答えるため海へ向かう列車に乗り込む。

「それで? これからどうするの?」
の決めた駅で降りて僕は何気なく尋ねた。
「そうね〜」
どうしよっか、と答えた はとりあえず、と僕の手を取った。
「歩こう!」
えっ…
思わず見つめた列車の窓に、映っていた僕達の姿をみて思わず吹き出した。
君も一緒に笑いだす。
―― だって二人ともおしゃれして 長時間歩くには不似合いな格好だったから ――

でもね
きっとこれからもずっと、そんな君を愛しつづける
いつでも僕を引っ張って、強がる君だけど
僕の頬に優しくキスして歩き出す。
そんな を見ているだけで僕は本当に幸せを感じるんだ。

こんなありふれた毎日も君がいるから輝きに変わる。
空の蒼さも 海の青さも 優しく二人を包んでくれるから。
そんな風に僕も君を包み込んであげたい。
だから強がりばかり見せないで……

君の弱さも 君の涙も
これからは僕が受け止めるから
もう迷わない
もう離さない
強がってみせる君の本当の心を感じながら、僕は君と歩いていくよ。

いつまでも元気な君でいて。
いつだって僕の心を明るく照らす太陽でいて。
そう、僕の への気持ちはそんな感じ。