『まちがいさがし』
ちょっと聞いてやってよ。もう俺、嫌んなっちゃうよ。
え? 何がって?
だよ。
もう、本当、自分勝手って言うかさ。俺の迷惑考えちゃくれてないわけよ。
「そんなに言うんだったら別れちゃえばぁ?」
突き放した言い方してくれるよな、お前って奴は。
「じゃ、我慢するんだね」
なぁんか面倒臭そうに聞こえんのよね、その言い方。
「結局はどうしたいんっすか」
はっきりしてくださいよ、って言われても俺だって解んねぇんだよ。
「つまり惚気たいんだよねぇ、テツは」
そんなつもりじゃないんだって。マジ相談してるんだよ、そんな顔で見んなよ。
真面目に取り合ってくれないメンバーに村上は一人奮起していた。
「だって……ねぇ」
「聞いてもつまんないんだもぉん」
「自己完結してるからね」
「もうご馳走様っすよ」
でも今回はホント、マジで悩んでんの。頼むよ、な?
「その言葉を信じて聞いたってねぇ」
「結局相談になってないじゃ〜ん」
「仕事も山ほどあるんだから」
「やめちゃいましょ」
お前ら、冷たいよ。そんな奴らだとは思わなかったよ。
メンバーが呆れるのも当然かもしれない。
それはかれこれ半年前のこと。
「どうしたの? てっちゃん」
自分の担当が一段落して食事をしようとロビーに出てきた北山は
手にしたおにぎりをじっと見つめる村上を見つけた。
「ん? あぁ北山」
まぁ座れよ、とソファの席を譲られ、それじゃと彼の横に座る。
「お前の昼飯、何?」
そう言いながらビニール袋の中身を覗こうとする村上に動揺しつつ
「えっ…サラダとオレンジジュース」
そう答えるとお前さんらしいねぇ、と相づちを打つ。
怪訝な顔をしていると村上がぼそっと呟いた。
「コーラっておにぎり食べる時に飲まねぇよな」
お前は刺激物駄目だから当然だけどさ。一般的に、どうよ。
「……あまり聞かないね」
「だよなぁ」
それがどうかしたの? そう尋ねたのが北山の運の尽きであった。
喧嘩したんだよ
この前の休日、久しぶりに彼女を外へつれて出て浜辺でお弁当を食べたと言うのだ。
「へぇ作ってきてくれたんだ」
いい彼女じゃない。
感心する北山に村上はそうなんだけどな、とため息をつく。
「中身がコーラとおにぎりなわけよ」
もう口の中ぐちゃぐちゃでさ、味も何もないわけ。
味覚おかしいんじゃないの? って思わず言っちまってさ。
「彼女だって一生懸命作ったんだろうし、拙いよね。それは」
……だよなぁ
泣いちゃったもんだから、その後どうしようもなくってそのまま帰ったんだけど。
「まだ謝ってないの?」
駄目だよ、そういうのはきちんとその場で謝らないと
「いや、もう謝って許してくれたんだ」
今朝も仕事前に差し入れてくれてさ、だけどやっぱりコーラとおにぎりなんだって。
「だけど憎めねぇんだよ、これが」
そしてそれから3ヶ月。
宿泊先のホテルについて荷物を解いているときのことだった。
「今日の移動は疲れたねぇ」
この日、同じ部屋に泊まることになった黒沢はてきぱきと自分の荷物を片付けていた。
と、その時。
「あぁぁ〜〜っ!」
村上が急に大声を上げた。
「なになに? テツどうかしたの?」
慌てる黒沢の目に飛び込んだのは鞄を覗き込んでいる村上だった。
「忘れ物?」
僕が貸して上げられるものかなぁ。
黒沢が心配していると言うのに村上は返事もしない。
「ねぇテツぅ〜?」
そう言っておもむろに鞄の中に目をやると
なっ何? これ……
黒沢の見たものはいたるところにこれでもかと貼られているプリクラ。
テツってこんな趣味あったっけ
「なんかこの前ごそごそしてたと思ったのよ」
困るよなぁ
そう言って村上は黒沢に携帯電話を見せた。
「この子、彼女?」
すごく楽しそうに写ってるよね
まぁな、と返事をして村上はため息を漏らした。
「こんなに見られてちゃ仕事中でも
の事忘れられねぇってな」
そしてさらに2ヵ月後のこと。
「てっちゃん、お疲れぇ」
仕事が終わり帰ろうとする安岡の腕を村上が捕まえた。
「えっ僕まだ何か残してたぁ?」
目をしばたかせる安岡に村上は無言で首を横に振る。
「……じゃぁ何ぃ」
僕、急いでるんだけど。
「なぁカラオケ好きか?」
はぁ? 急に何を言い出すのさぁ。
「嫌い、じゃないけど…」
仕事が仕事なだけにあまり行かないかなぁ
その答えが聞きたかったのよ、と村上は顔をほころばせる。
「だから、何なのさぁ」
質問の意味が飲み込めず、ちょっとイライラ。
「この前連れていかれたのよ、カラオケ」
そこでやたらとハモらせようとするわけよ。
てっちゃん、歌うの好きなんでしょ?
さも当然のように言われてさ、どうしようって思ったね。
「ふ〜ん」
興味なさ気な安岡に気がつくわけでもなく、村上は話を続ける。
「仕事とプライベートは分けて考えたくねぇ?」
そりゃぁ、出来れば仕事は忘れていたいけどぉ
「でもアイツに頼まれたらハモリたくねぇなんて言えないんだよな」
そしてつい2週間前にはとうとう酒井がターゲットにされた。
「これからちょっと飲みに行かねぇか?」
そう声をかけられた酒井は冗談でしょ、と笑い返した。
「テツさん、オレがとことん弱いって知ってるじゃないっすか」
ははっそうだった、そうだった
けらけらと笑う村上に酒井は相当飲んでいると気がついた。
「どうしたんすか、そんなになるまで酔っ払って」
大丈夫……ではない、か。
その心配が彼を後々困らせることになるとは予想できなかったわけで。
「がよぉ」
? あぁ彼女さん
「携帯つなげてないんだよ」
はぁ、それはまたいろいろと事情もあるでしょうよ。
「いつでもてっちゃんのこと考えてるからね、な〜んて言っててよぉ」
いや、でも、彼女の生活テツさんオンリーじゃないですからなぁ
「じゃぁナニか? 俺以外にも誰かいるってのかっ!?」
そうは言ってないじゃないっすか……扱いにくいんだから。
でもな
さっきまで怒っていたかと思うともう笑顔になって。
眠そうに目をこすりながら村上は酒井に語りかける。
「その秘密めいたところがなくちゃ駄目なのよ」
そういうもんすかねぇ。
「そうだよ、酒井。おめぇもそこんトコを解らなくちゃぁな」
はぁ。心に留めておきます。
「謎があるから、追いかけたくなる、わけ……よ」
そして今回に至るわけである。
メンバーが嫌がるのも無理はない。
「てっちゃん、あのねぇ〜」
「自分勝手な理想を相手に求めている間は駄目なのですよ」
「そうそうそう」
「相手を信じて、求めて。それはいいけど現実を見つめなくちゃ」
だからってあっちの我侭を我慢しろってか?
「そうじゃなくてぇ」
「嫌な面もあって当然」
「お互いに理想の間違い探しをしてですな」
「それでも好きって言えてればそれでいいじゃない。ね?」
う〜ん、そうなのか。なんか俺、お前らに丸め込まれてない?
「ないないない」
「だぁからっ、てっちゃんの悩みはぜぇんぶ解決ぅ♪」
「最後に恋愛の達人から、一言よろしくお願いしますよ」
「恋っていう状態は情熱で左右されてしまうけど、愛になると覚悟が必要になってくるんだよ」
……やっぱり何かしっくりこねぇのは俺だけか?
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