『砂時計』

季節は巡りゆくもの
それは解っていることなのに。
俺はいつまでもこの時間を留めておきたくて。
だけど心の中の砂時計は 今も静かに流れ落ちていく

「最近ちょっと温かくなってきたよねー」
外を見ながら黒ポンがそう呟く。
「そうですな、もう春が近いという感じで」
「今日はぽかぽか小春日和ぃ♪」
同調して頷く雄二とヤスは穏やかな笑顔で視線を向ける。
「雪解け…そろそろか」
北山の実家の方も
てっちゃんがそう話し掛けてきた。
「もうちょっと、かかると思いますけどね」
うちは冬が長いですから
「やっぱ東北はまだまだ寒いんだねぇ」
うん
まだ、早すぎる。
俺に春が来るのは、もっと ずっと後でいい。
……いや。

ずっと来なければいい

そう願ってしまう俺の心なんて誰も気がついていないから。
いつも笑顔の君でさえも……

ここしばらく俺は眠れない夜を過ごしてる。
それは、君のせい。
「このまま時が止まりそうだよ」
そう呟いた の声が耳から離れない。

君と二人だけのこの時間は
飲み込んだ息の音が聞こえてしまいそうなほど 静かで。
そして 俺たち以外には何も存在しない
―― 真っ白な世界 ――

いつまでも の笑顔を見ていたくて
今が永遠なら……時を砂を止められるのなら……
俺は瞬きもせず、少しでも多くの君を目に焼き付けられるのに。

今すぐ君を抱きしめたい そんな衝動に駆られてしまう。
だけど それは君の笑顔を壊してしまいそうな気がして。
今、目を閉じてしまえば 俺の中の君は幸せなまま。
だけど それは君の笑顔が消えていくことを認める気がして。
最後に君に口付けたなら 君への想いを告げてしまえたら。
それは こんなにも近く、愛しい存在だったと気付かせてしまうだろうか。

だから、せめて二人
この幻の世界で
の春が来るまでは
「俺のそばにいて……」

その願いは白い雪のようにとても儚く消えていってしまうものだけど。
君と俺との関係なんて無意味なものだと思えるほどに
への想いは降り積もってしまっていても
「大切なヒトだから」
声に出してみたとしても、心はどれだけ正確に伝わるのだろう。
君と過ごす季節は 俺の横をすり抜けていく――

「抱きしめたい」
声に出せば その心は 君との関係を壊してしまいそうで
「眠ってしまいたい」
声に出せば その心は 目の前から永遠に君を消してしまいそうで
「口づけたい」
声に出せば その心は 君への愛しさを抑えることが出来なくなりそうで

だから、せめて二人
この白い世界で
この冬が終るまでは
「笑顔の君でいて……」

やがて君にも春が来て、別れの季節がやってくる。
いつか割れてしまう砂時計なら
その時には 俺の心にも春が来て
積もってしまった への想いすべてを溶かして……。

雪が解けて消えてしまうように
なにもなかったように、忘れてしまいたい
誰よりも愛しい
君への気持ちを伝えられないのなら――