『Body Calling』

「おや、着信あり…とな」
誰からだ? こんな時間に。
休憩に入ろうとしたオレは携帯の着信ランプが光っているのに気がついた。
しかし、留守番電話には何も録音されていない。
「誰からです?」
そう尋ねた北さんに
「それが」
どうやら公衆電話らしくてなぁ
一体誰からなのか分らんのだ。

悩むオレに
「ねぇ誰か思い当たる人、いないの?」
黒ポンも気にして声をかけてくれる。
「あ〜っ!」
思い出したっっ
そう叫んだのは、オレではなく、ヤス。
「確かユージさん、この前誕生日どうのこうのって言ってたよねぇ〜?」
言ってた、言ってた
「だけどもう済んだんじゃねぇの、その話はよぉ」
最後に出てきたテツさんも話に入る。
「うん、僕 一緒に買いに行ったもの」
女性用のファッションリング
「く、黒ポンっ」
オレは慌てて口を抑えるが時既に遅し……。
「彼女にリングですか」
喜んだでしょう、と北さんも感心した様子。
「ユージさん、思い切ったことするねぇ」
ニヤニヤと笑うヤスになにか感じるのだが…あえて無視することにした。
「で、渡したのかよソレ」
うっ…痛いところを。
「まだ…っす」

小声で答えるオレに4人は驚きを隠せない。
「なんで、なんでぇ?」
「彼女のバースデーに渡さなかったの?」
怒涛の質問責めにオレはたじろぎながらもヤケになって答えた。
「あ〜っ 彼女の誕生日は今日なんスよっっ」
だから、今日を越えないと渡せないでしょうがぁ〜っ!
「えっ じゃぁ彼女ひとりで誕生日過ごしてるの?」
「可哀想だよぉ〜」
「なんで一緒にいてあげないんですか」
「お前、それならそうと先に言えよっ」
え…し、しかし……
「携帯彼女ですよ、絶対」
「寂しくて声聴きたかったんじゃないのぉ?」
いや、でも…今日は仕事だって言ってあるし。
それに、彼女も笑って許してくれたんですから……
「お前、ほんっとに女心わかんねぇのな」
呆れるね、とばかりにテツさんが両手を上げる。
「わがまま言うと酒井が困るからって彼女の気持ち、解ってあげなよ」
う、黒ポンに諭されるとは。
「行ってあげてください」
は? まだ仕事が
「い〜から、いぃからぁ」
ぽんぽんっと肩を叩くヤスの後ろで頷く3人
それでもためらうオレにテツさんが一言。
「それじゃ、行くな」
えっ…
「引き止める理由は幾らでもあんだぜ」
言っちゃうよ?
不適に笑うその顔に真剣さは感じられず。
「あ、ありがとうございますっ」
オレは深々と頭を下げ、きびすを返して走り出した。
「リングもってんのぉ〜?」
心配する声にヒラヒラと手を振りオレは叫んだ。
「無くさないようにいつも助手席に積んでおるのだっっ」

胸騒ぎがしたのは着信ランプを見た直後のこと。
でも仕事があるから、動揺は見せたくなかった。
の元へ行きたい
そんな気持ちを気付かれては、拙いと思ったから。
オレは、4人に感謝しながら車を走らせる。
あなたの寂しさを拭い去るために
あなたが願う温もりを届けるために ――

ピン、ポーン…
落ち着いて、呼び鈴を鳴らす。
あなたの驚いた顔を見たかったから。
「ゆ、雄二さん?」
嘘でしょ、どうして此処に居るの…?
そう言って目をしばたかせる にオレは微笑みかける。
「仕事が早く終われたのだ」
嘘、だけど。心配させたくないのはオレも同じだから。
「誕生日、おめでとう」
この一言を、今日のうちに伝えたかった。
「ありがとう」
その笑顔を、早く見たかった。
「食事、行けそうなら、いかがかな」
ちょっと会釈して尋ねてみる。
もう、食べてしまっていたか…と心配になりつつ。
「お待ちしておりました」
くすっと笑ってそう答えた彼女にオレが驚いた。
「雄二さんは今日中に来てくれると信じてたもの」
いつでも一つ上を行く らしい、返答。
オレはいつだって敵わない。

「すまん、本当はもっと気の効いた場所ならよかったのだが」
いつもと同じ、小さなフロアで食事を取ることになってしまって。
折角の誕生日だというのに。
「気にしてないよ。雄二さんが選んでくれた場所だもの」
落ち着けてこっちの方がよかったみたい。
微笑んでくれるその優しさがありがたい。
「? どうかした?」
じっと無言で見つめるオレに戸惑いながらあなたは尋ねる。
その瞳には嘘がつけない……

でも、今夜こそ

そんな決意のような思いがオレにはあった。
知り合ってから、もう、長い時間が過ぎてしまっている。
オレの心の中に生まれたこの気持ちを、伝えたい。
……そう、この一瞬のために
それが伝わったのか、あなたは姿勢を正し、何も言わず見つめたまま。

素直な気持ちを
を求める、この想いを

ただ側にいる それだけで
言葉にしなくても、解り合える
あなたとなら

の瞳がふと宙を彷徨う
その一瞬を、秘密の合図をオレは見逃さなかった。
彼女も、待っている……?
そう、受け取ってもかまないのだろうか
恐る恐るオレは腕を伸ばし
机の上で軽く組まれているあなたの指に触れてみる。
少し驚いたものの、にぎり返してくれたから。
聞かせて、あなたの想いを
触れ合う素肌越しに、素顔のあなたの心を……感じさせて。
この一瞬が消えてしまわないように

まだ、足りない
でも、無くさない

永遠よりも長い、一瞬で伝えあう
この途切れの無い想いを ――
しか、もう、オレには見えないから。
その瞳を見つめ続けて
もう 隠せない
「これ以上。寂しさを感じさせたくない」
いつでもオレがあなたを温めてあげるから。
だから
オレはリングを取り出した。
「私……に?」
誕生日プレゼント
だけど本当は、もっと大切な贈り物
「ありがとう、雄二さん」
微笑みながら指にはめる はとても愛しくて。

今夜こそ

伝えたい。感謝の気持ちを。
そして……
今すぐにでも、優しく抱き寄せても構わないだろうか。