平成15年3月1日毎日新聞「余録」から
「○にする」とは、全国のJR部内でよく使われる言葉だ。問題にしない、といった意味。旧国鉄時代は再三、ミスやトラブルを○にしてひんしゅくを買ったので、最近は「○だ」「○でない」と言うように努めているそうだ。▲列車ダイヤの遅延で○となるのは1分以内だ。フランスの鉄道は3分、ドイツは5分で○といわれるから、日本の鉄道がいかに時間に正確であるかの証拠と言っていい。新幹線ではさらに厳しい。時刻表には表示されないが、ダイヤは15秒刻みだ。▲30秒遅れただけで運転士は乗務後に報告を求められ、1分を超した場合はその時点で列車指令室が騒ぎ出す。だから、チェックポイントごとに数秒の誤差で通過するように運転しなければならない。停車駅では1秒たりとも狂わせず、列車を止めるのが運転士の腕とプライドだ。▲運行上はいかにダイヤが過密でも、これほど正確を期すことはないという。だが、秒刻みのダイヤを守れば、油断や慢心が生じる余地がない。とにかく○にしがちな組織体質への自覚もあってか、超高速運転中の不測の事態に備え、あえて必要以上の精密さを自らに課しているらしい。▲「のぞみ」の運転席に試乗させてもらった。想像したより運転士は忙しかった。ATC(自動列車制御装置)は安全のため減速、停止させるだけ。加速は手動で、カーブやこう配では調節が欠かせない。減速もATC任せだとガクントするのでブレーキを掛ける。制限速度が変わるたびにチャイムは鳴るし、司令室からの連絡も多い。▲それでも山陽新幹線の運転士が居眠りしたのは、やはり病気のせいなのだろう。不祥事を○にできないシステムになっているのは救いだが、運転士の健康管理を「○だ」にすることが先決だ。
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