労働者の不安全行為の評価
ゴルフ場でプレーヤーの打球によるキャディの受傷についてはゴルフ場経営会社に安全配慮義務違反があり損害賠償責任がある(
110万円逸失利益、慰謝料等、)が、プレーヤーMについては損害頗償責任がない。」
   山陽カンツリ−倶楽部損害賠償請求事件 平成一一年三月三二日判決 神戸地裁姫路支部

1 請求内容
「原告]は、平成五年二月から被告会社に採用され、キヤディとして勤務していたが、平成六年一二月一四日、被告Mら四名のパーティをキャディとして担当した。アウト二番ホールでMの放った第二打が移動中の]の右足首に当たり骨折の傷害を負った。]は、労災保険給付を受けて通院加療し、後遺症について一四級九号の障害補償一時金を受給した。]は、会社とMに対し、損害賠償を請求した。」

2 判決要旨
「被告会社は、キャディには入社時からマニュアルにしたがって安全教育も含めた教育を行っていること、キャディ読本、ルールブック等を配布していること、キャディの業務に関するビデオテープをキャディ控室に置いていること、キャディとの労働契約書には、遵守事項として『プレーヤーの前方に決して出ない(打者の前に出ることは自殺行為とみなす)』と記載し、Xが右労働契約書に署名、押印していること、また、会社がキャディに対し、『健康で楽しく働く為のお約束事項』と題する書面を交付し、原告Xもそれに署名、押印していること、右書面には、約束事項の第1項として『一、プレーヤーの前方に決して出ない。(打者の前へ出る事は自殺的行為)』と掲げていること等の事実が認められる。 

以上認定事実によれば、会社は、その雇用するキャディに対し、キャディの身体の安全のために、プレーヤーの前方に出ることを禁止し、その点について一応の周知徹底方策を採っていると認められる。

しかしながら、他方(証拠略)によれば、原告は右のごとき被告会社の周知徹底にもかかわらず、キャディ業務に従事する際、本件事故発生時と同様に、プレーヤーの前方に出ることが多々あったことが認められ、(証拠略)によれば、被告会社のキャディを統括するキャディマスター見習いや先輩キャディが、原告の右のような行動について注意、指導していなかったことが認められる。

 もとより、雇用契約上の安全配慮義務に怠りがないと認めるためには、抽象的に危険を告知し、一般的に安全対策を指導するだけでは足りず、具体的な状況において、従業員が安全を損なうような行動に出た場合あるいはその恐れがある場合には、適宜安全のための指導をする必要があることは雇用契約に付随する業務というべきであって、前記認定の事実によると、被告会社は、原告に対し、十分な安全対策の指導を怠ったものといわなければならず、安全配慮義務違反の債務不履行があったと認められる。

ところで、通常ゴルフプレーヤーが球を打つに際しては、前方に同伴競技者等がいないこと、同伴プレーヤー等がいる場合には、その者らに対し、自己がこれから球を打つことについて注意を喚起すべき義務があるものと解されるところ、右義務はキャディに対しても同様であるというべきである。 しかしながら、ゴルフがスポーツであり、スポーツに厳格な注意義務を求めるのは相当ではないこと、同伴プレーヤーらとしても、パーティ全体のプレーの流れや状況等については当然把握しているはずであること等に照らせば、球を打とうとするプレーヤーにおいて、同伴プレーヤー又は自己のパーティを担当するキャディの一切の動静に注意を払い、それらの者の位置関係を完全に把握した上で打球を放つべきところ、前記認定の事実及び通常自己の前方にキャディが移動していることは予想し得ないこと等を総合すると、被告Mにおいて第二打を放つ際に、キャディである原告が前方に移動中であることを予見又は予見し得るとはいえないことに帰する。 そうすると、被告Mにおいて、本件事故発生について過失があったとは認められない

過失相殺
 前示説示のとおり、本件事故は、被告会社の安全配慮義務違反による部分もあるが、被告会社は、抽象的にはプレーヤーの前方に出ないよう相当の注意ないし指導をしており、またプレーヤーの前方に出ないことは、ゴルフ競技に携わる者として基本的な事項であるといえること、換言すれば、プレーヤーの前方に出ることが自己の身体の安全を害する危険性は通常十分認識し得るということからすると、本件事故は、原告が上の諸点に反して安易にプレーヤーの前方に出たことによって生じたといえるのであって、大幅な過失相殺はやむを得ない事実であり、前記説示の諸点からすると、原告に生じた損害の八割を減じるのが相当である。

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