>>>>>>>>>「沖縄の泡瀬干潟を知っていますか?」

  1. はじめに

 昨年5月、沖縄本島南部の那覇市と豊見城村にまたがる漫湖干潟が、ラムサール条約の国内で11番目の登録湿地となったことはまだ記憶に新しい。このほか、南西諸島では、石垣島のアンパルがラムサール条約への登録に向けて作業中と聞く。このような南西諸島での湿地保全の動きはたいへん歓迎されるべきものである。

 その一方で、漫湖の登録に際し、沖縄の地元紙の報道記事には、「さんざん壊すだ

け壊しておいて、いまさら…」、「これ以上開発する必要がないから登録された」などの自然保護関係者の声も紹介されている。

 また、第7回のラムサール条約締約国会議では、漫湖が登録されたと同時に、『干潟に悪影響を与える政策の見直しと、干潟の長期的保全策の導入』を求める決議が採択されている。

 南西諸島では、沖縄本島に大きな規模の干潟が見られ、その多くは中南部に集中していた。しかし、主なもので、これまでに北谷(ちゃたん)干潟(49ha)、川田干潟(390 ha)、糸満干潟(300ha)、宇地泊(うちどまり)干潟(36 ha)、桃原(とうばる)干潟(200ha)、与根干潟(160 ha)、糸満南浜(50 ha)など、合わせて1185haもの干潟がすでに消失してしまった (付図1)

このような状態で、現在計画中の埋め立てが実行されると、沖縄島中南部での干潟は事実上消滅してしまう。残された数少ない干潟をどう保全していくのかが、沖縄の自然環境保全上、最重要課題といえる。

 

 沖縄本島中部の沖縄市東海岸にある泡瀬干潟は、面積200ha以上の干潟で、本島北部の羽地内海の干潟などとならび、今や最大規模の干潟となった。このことは、南西諸島で最も大きな干潟でもあることを示している。

 泡瀬干潟の底質環境は泥質から砂質やサンゴ礫質など多様で、170haに及ぶ海草藻場も見られる。この藻場は沖縄で最大のものと指摘されている。

 底生生物相も豊かで、市民グループによると、貝類だけでも130種が確認されている。その中には『WWFJサイエンスレポート』で、絶滅寸前種(環境庁レッドリスト絶滅危惧種に相当)や危険種(同危急種に相当)などに指定されているもの15種が含まれている。このほか、海草藻場ではジュゴンの食み跡も目撃されているという。ちなみにジュゴンは海草類を食する海洋哺乳類で、ジュゴンの食み跡は蛇行して刈り取ったスジの様に見える。

 また、沖縄県の作成した沖縄県版レッドデータブック(『沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物』)に選定されている、クビレミドロ(藻類,絶滅危惧種)、ホソエガサ(藻類,危急種)、ミナミコメツキガニ(甲殻類,地域個体群)の生息が確認されている。このうちクビレミドロとホソエガサは『日本の希少な野生水生生物に関するデータブック(水産庁編)』でも絶滅危惧種に指定されている。

 渡り鳥については、南西諸島のシギ・チドリ類の生息状況の調査結果、沖縄本島では最大数が1000羽を越す湿地がなくなったこと(かつて漫湖は5000羽以上だった)、そのなかでも、泡瀬干潟地域では877羽確認されていることが1999年の鳥学会で報告されている。現在の沖縄本島では、泡瀬干潟が、シギ・チドリ類の最大の渡来地となったと考えられるのである。

 

 この泡瀬干潟の埋め立て計画は、沖縄市のほか、県や国も事業主体となっており、「沖縄市東部海浜(中城湾港泡瀬地区)開発計画」の名称で、干潟部分を含め187haを埋め立てる。埋め立て面積はほぼ津堅島と等しい(付図1)21世紀を展望する街づくり」を目指し、そこに4つのホテル、コンドミニアム、コテージ、マリーナ、人工ビーチや客船用の埠頭などを建設し、ほかに住宅地も計画されている。総事業費は437億円で、完成後は6000人の雇用も見こまれている。

 しかし、構想が1985年に始まり、バブル期に作られた計画であるため計画通り進むのかという疑問の声もあり、事実、リスクの大きな大規模リゾート開発や国の財政事情から、1998年度の国庫要求は認められなかった。

当初の計画では、国や県は事業主体とはなっていなかったが、隣接する特別自由貿易地域の整備に伴った浚渫土砂の捨て場が必要となり、国が埋め立て計画へ参画し、この事業が一気に現実的になってきた経緯がある。この埋め立て事業によって、(砂礫質)干潟が49ha、藻場が79ha、サンゴ群集分布域が47ha消滅する。

 

4.環境への影響についての、追加評価と追加調査の必要性

泡瀬干潟埋め立てに関する環境影響評価書は323日から424日まで縦覧されている。評価書は、新アセス法の施行により、同法に基づきまとめられている。

 

1)各生態系における注目種選定の妥当性および環境影響評価の妥当性

評価書において行われている環境影響評価及び環境保全措置を論考するに際し、その前提となる摘出された環境要素について、不適切または不充分なものがあり、追加評価及び追加調査を実施することが妥当であると考えられる。以下この点について指摘する。

新アセス法では埋め立てによって影響を受けると考えられる環境要素として、『生物の多様性の確保及び自然環境の多様性の体系的保全』が設定され、その一項目として『生態系』が含まれている。

評価書では埋め立て海域を、其質から干潟・藻場(アマモ場)・サンゴ礁(サンゴ群集)の三つの環境に分類し、これらを、埋め立て海域を特徴付ける生態系としている。

そして各生態系において、上位性・典型性・特殊性の観点から注目種を複数上げている。干潟生態系については、トカゲハゼ(魚類)とムナグロ(鳥類)、藻場生態系については、リュウキュウアマモ・ボウバアマモ等の海草類を代表的な注目種として、これらの種の保全対策をもってして、生物多様性や自然環境の多様性が確保されるとみなしている。しかし以下のような再考すべき問題点があげられる。

 

  1.  トカゲハゼ トカゲハゼは泥質干潟に生息するハゼ科魚類である。評価書では干潟生態系の干潟魚類として抽出している。泡瀬埋め立て予定海域及びその周辺域において、トカゲハゼの分布生息が確認されている泥質干潟は面積が
150200u程度であり、確認個体数は10個体以下となっている。また、埋め立てによって消失する約49haの干潟は、すべて砂質・礫質干潟である。さらに、人工干潟の創出などによって、トカゲハゼの生息環境保全を図るとしている。

 しかし、トカゲハゼの生息する泥質干潟は、埋め立てによって消失しない。さらに埋め立てによって消失する砂礫質干潟の面積の0.0004%にすぎない。面積的に見ても、泥質干潟をもってして、消失する干潟環境を特徴づけることは無理がある(付図2)また、わずか10個体程度が確認されているに過ぎない泥質干潟のトカゲハゼをもってして、(砂礫質)干潟生態系の注目種として選定することも妥当性を欠いている。このように消失する砂礫質干潟とそこで見られる生態系の代替として、トカゲハゼの生息環境の保全は適切なものとはみなせない。

 

 ムナグロはチドリ科の渡り鳥である。評価書では干潟生態系の水鳥類として抽出している。ムナグロは泡瀬海域では最も個体数が多く確認されている鳥類ではある。生態系の注目種として摘出する以上、少なくともその種の当該海域での利用実態のデータを提示する必要がある。しかし、アセス評価書によると鳥類調査は平成8年から9年にかけて、合計8(8)しか行われていない。そのため、ムナグロの季節的な個体数変動が捉えられていない。したがって、埋め立て及びその周辺海域が、ムナグロにとってどのように評価される地域なのか明らかにされていない。

  さらに注目種として、ムナグロへの影響を吟味するには、周年を通し、潮の干満に応じたムナグロの環境利用を明らかにする必要がある。しかしこのような具体的なデータなしに、影響については周辺部の残存干潟への移動、潮汐によって生息場所を移動させているなどの理由から、比較的小さいと結論付けている。具体的なデータを用いて影響評価を行うことが必要である。

  また沖縄本島で、最大のシギ・チドリの渡来地で行われる埋め立て事業であるにもかかわらず、シギ・チドリの最大の渡来地としての評価は行われていない。この点についても追加評価を行うべきである。

 

 

藻場の生態系としての役割は重要であることから、埋め立て工事による消失の影響は大きいものがある。」と述べられている。しかし、このように「藻場」を生態系として捉えるのであれば、そこでの底生生物群集(相)は無視することは出来ないはずである。ところが、リュウキュウアマモ・ボウバアマモ等の海草類が注目種として上げられているのみであり、底生生物は取り上げられていない。これで藻場生態系についての環境影響評価を行うことには無理がある。底生生物群集の中から、注目種を摘出すること、そして底生生物群集を含めた藻場生態系における生物多様性の確保、自然環境の体系的保全を評価することが必要といえる。なお、干潟・海草藻場生態系については3)も参照のこと。

  また、海草類についても、泡瀬海域では7種類の海草が確認されているにもかかわらず、評価書では単に海草類と一括し、被度50%以上と未満のニ区分での分布状況が示されているだけである(付図3)。被度の算出方法も明示されていない。適切な単位面積に基づいた、海草群落内の優占種の把握、またより詳細な段階区分による、分布状況の把握によって、はじめて泡瀬海域の海草藻場の評価を行うことができる。

 

(サンゴ群集) 47haのサンゴ礁域が埋め立てによって消失する。これは干潟域とほぼ同面積である。特徴的な生態系としてサンゴ礁域も区分されているが、注目種が選定されていない。したがって埋め立てによってサンゴ礁生態系が消失するにもかかわらず、その影響評価や保全対策がなされていないことになる。消失面積が干潟生態系と同等であることからだけでも、サンゴ礁(生態系)についても影響評価や保全対策を論じる必要は明らかである。

 

 埋め立てによって海草類の密生・濃生域(生育被度50%以上)25haが消失し、埋め立てによる影響は大きいとされている。そこで代償措置としてリュウキュウアマモとボウバアマモを、海草類の疎生域(生育密度50%以下)に移植させるという(海草類の移植などについての問題点は別稿に譲る)。しかし評価書において、移植種としてリュウキュウアマモとボウバアマモを選定した根拠は、明確にされていない。1)のBで指摘したような、泡瀬海域の藻場の状況把握を実施する必要がある。

 移植予定地は、埋め立て予定地に隣接する海草藻場域である。また、予定地のニ方で航路浚渫が行われる。すなわち移植予定の海草藻場域は三方から人為的改変の影響を受けることになる(付図4)これらの事業による環境影響評価やそれに基づく保全措置を議論し、移植予定地における自然環境の保全が保証されない限りは、移植予定地としての要件を満たさない。しかし、移植予定地についての環境影響評価はなされていらず、追加評価・調査を実施することが必要である。

 

 アセス準備書公告縦覧後、’9912月から’003月にかけて、砂礫質干潟域(一部泥質干潟域・テトラポットを含む)および海草藻場域において底生生物調査が行われている。この調査によって貝類を中心として210種以上の底生生物が確認されている。その中には、WWFJサイエンスレポートで、絶滅のおそれがあるとされている貝類25種も含まれている(付表参照,絶滅寸前1,危険な状態23,希少2)。しかしアセス評価書には、これらの追加調査の結果を踏まえた、底生生物群集に対しての環境影響評価は行われていない。

 (砂礫質)干潟や藻場の生態系における生物多様性の確保、自然環境の体系的保全を評価するには、これらの底生生物リストが欠かせない。追加調査で明らかになった生物相に基づき環境影響評価を行うことが必要である。

 

4)レッドデータ記載種について

 レッドデータ種については、クビレミドロ(沖縄県版レッドデータブック:絶滅危惧)がアセス準備書公告縦覧後、生息が確認され、評価書には移植による代償措置による保全が図られることになっている(クビレミドロの移植などについての問題点は別稿に譲る)。しかし、ミナミコメツキガニ(同:地域個体群)は評価書では、その生息が確認されている旨の記述のみで、影響評価は行われていない。また、ホソエガサ(同:危急種)は3)で述べた追加調査によってはじめて確認されたものである。

 

 以上環境影響評価書における今後の検討課題について、環境要素「生態系」に関わるもの、またレッドデータ記載種にかかわるものを指摘した。

 なお、「生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全」についの、その他の環境要素「植物・動物(海域)」については、トカゲハゼについて具体的な記述がされているほかは、海藻類の移植、埋め立て回避によるサンゴ礁への影響の軽減を図るなど簡略的に述べられているに留まっている。

 しかし、すでに指摘したようにトカゲハゼを代表的な動物種として取り上げることは適切ではない。その他の「植物・動物(海域)」についても、より具体的なデータに基づく影響評価を行う必要がある。また、新たにジュゴンについての調査も必要である。

 追加調査によってホソエガサや210種の底生生物が新たに確認されたことは、基礎的な自然環境の把握が不充分であることを示している。このように、泡瀬干潟埋め立てに関わる環境影響評価書は十分なものとは言えず、その意味において妥当性を欠いている。これらの課題を踏まえ、必要であれば追加的調査の実施等により、より適切な環境影響評価を行うことが必要である。

 

 現在、この埋め立て計画は環境影響評価書の縦覧が終わり埋め立て免許出願に向けた作業が行われている。たしかに、沖縄市は市の面積の36%を米軍基地に取られており、現状では、新たな土地を海に求める事情もわからないわけではない。しかし、リゾート施設中心の187 haもの埋め立てとなると首を傾げざるを得ない。

 今年は沖縄でサミットが開催される。サミットに関連して子供環境サミットなど環境関連の様々な催しも予定されている。また10月には、アジア太平洋湿地保全会議も沖縄で開催され、シギ・チドリ類の保護が中心的な議題となる。開催地である沖縄で、シギ・チドリの重要な渡来地となっている干潟の埋め立てがこのまま進んでよいのだろうか。

 漫湖の辿った経験を生かすためにも、ラムサール条約の干潟保全決議の精神を生かすためにも、ここで一度立ち止まって泡瀬干潟を改めて考えてみることが必要なのでないだろうか。なによりも泡瀬干潟は沖縄の貴重な財産であることは明らかなのだから。

 

付表 環境影響評価における調査及び追加調査で確認された

絶滅のおそれのある生物

 

 

種名

WWFJレポート

県版R.D.B

環境庁版R.R

水産庁版R.D.B

絶滅寸前

(絶滅危惧種)

危険な

状態

(危急種)

希少

(希少種)

絶滅危惧

危急

地域個体群

絶滅危惧1A

絶滅危惧

危急

藻類

クビレミドロ

     

     

 

ホソエガサ

       

   

 

海草類

コアマモ

魚類

トカゲハゼ

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒメウズラタマキビ

 

             

イボウミニナ

 

             

イトカケヘナタリガイ

 

             

ヘナタリガイ

 

             

カワアイガイ

 

             

コゲツノブエ

 

             

カヤノミカニモリガイ

 

             

リスガイ

   

           

ヒメオリイレムシロガイ

 

             

トゲムシロガイ

 

             

カニノテムシロガイ

 

             

ミノムシガイ

 

             

ホソスジヒバリガイ

 

             

ハボウキガイ

 

             

カブラツキガイ

 

             

ユキガイ

 

             

イチョウシラトリガイ

               

ニッコウガイ

 

             

ヒメニッコウガイ

 

             

バラフマテガイ

 

             

タカソデガイモドキ

 

             

シラオガイ

 

             

オミナエシハマグリ

   

           

イオウハマグ

 

             

ハナグモ

 

             

甲殻

ミナミコメツキガニ

         

     

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