
「シカの穴ほり」
(1)「泊まり場」と「穴ほり」
「泊まり場」では、おおくの場合この時期体毛が落ちており、表面は圧迫したように平坦であ
る。「穴ほり」は、ほとんど表面は蹄や鼻づらで掻いた痕があり、デコボコしている。 Cの場
合のみそこに腹を置いたようすが有る。
穴ほりは出灰、空谷、田能南地域でも見られ、信州で哺乳類調査をしている両角源美先生が
「シカの穴ほり」として報告しています。(『日本哺乳類雑記第三集』1974)
「穴ほりのまわりにある木に角を擦ったり、体を擦りつけた跡が見られ、穴にはシカの尿があ
ったり、尿の臭い、シカの臭いが残っているものもありました。」
今回はこのように、類型に分けてみました。他の地域でも同様のサインがあればおもしろい。
Aは表面を履いて表土を回りへよせて、放棄されています。始めは何んのめにしたのか
見当がつきませんでしたが、今回後述のように私達は解釈しました。
A’はアカマツの根付近にあり、ところどころに見られる。これは、谷を越えて東のアカマツ
の林の中にも見られた。
Bも表面の落ち葉をはいで、Aより荒らあらしく表面を堀返しており、根の齧り、木本の幼樹
(ドングリの新芽?)の食痕、足跡、糞がある。離れた場所に、ヤブレガサの大規模な食痕が見
られた。根を齧った痕、歯形、鼻先やひずめで掘じくった痕があったので、土なめを調べました。
ポンポン山の北、原盆地北にあますが、今回は見られませんでした。
反芻獣が腸内細菌の補給などのために、「黒い土の層に鼻ずらを突っこみ、土をなめる。シカ
の好む成分が含まれているらしい」(『アニマ』 '78 No.66 江川正幸)とあり、南アルプスで
も報告例があります。
今回見られたものは、アカマツの根ぎわで、土なめと同じようにキノコ類の菌糸などの摂食が
考えられます。
Cは、その上に、放尿した跡が2箇所で見られた。1つは、ひどく臭いました。尾根で水場が
なく、ヌタ場が形成されない所です。写真のような高さ30cmほどの切り株に体毛が3本収集さ
れた。腹についた尿を切り株にこすりつけ臭いつけをしているようです。
また、地上1mぐらいで、角コスリによる細い枝おれが三ケ所見られシカ道に添うようにあっ
ので同じ個体かもしれません。谷部ではヌタ場も見られました。
<考察>
これらの事象はそれぞれが関連しあい、泊まり場とは、違った形態を示し、今のところ9月ー
11月にかけての繁殖期に多いようです。
Aは、子供に教えているような試し食いのようで、まだ、穴ほりが確立していない。A’のよ
うに秋から冬に向けて子供に採食の学習のために、何箇所か試し掘りを繰り返して教えているよ
うです。以前、原盆地北で直径30cmくらいの木の根本に体をこすったものがありました。シカ
道に添って付けられており、木には明確な臭い付いていませんでしたが、臭いつけは、子供への
知らせでないかと考えるようになりました。
Bは、表面の落ち葉をはいで、根の齧りがあり採食と土なめが見られます。単なる摂食行動で
あるならば、イノシシのように大きく堀返すほうが効率がよいので、このようにほぼ丸く泊まり
場のように作る必要はありません。土なめは、以前から整腸作用と考えているサインです。
Cは、繁殖期の穴ほりで、オスのシカが穴の中に尿を振り撒くような自慰行為と思われます。
したがって、これらはシカの繁殖期の一連行動であると考えられ、子供への学習行動と
オスの繁殖期のフィールドサインであると考えられます。