3月20日〜21日
バスは村役場をいつもとは違う方に折れ、進む。木馬見学にやって来たのは、石山代表、なっちゃん、トーマスさん、僕の4人だった。
羽鳥さんに連れられ山に入っていく。冷たい雨が降っていたが、一斉に芽吹きだした緑が雨に濡れて光っているのが美しく、気にならない。何の樹木か知らないが、木のミニチュアのような芽が可愛らしい。落葉や枯葉がたくさんあって足元はふかふかしている。
高く伸びた木々の間に、木で出来たジェットコースターのレールのような木馬道が続いている様はなんだか幻想的な光景だった。昔は伐り出した木を、木馬道ではそりに載せて曳き、皮をむいた木で作った滑り台のような修羅(しゅら)には直接丸太をすべらせて、運び出していたのだそうだ。羽鳥さんたちはこれらを自分たちだけで作ったのだというから驚いた。人間離れしているかに思えるこうした山仕事の技は、かつては出来て当たり前のものだったという。そのような技がどうして生まれてきたかを考えることが大切なのだ、という羽鳥さんの話が印象に残った。
雨はいつのまにか雪に変わり、顔を上げると高い杉の木立の隙間から白い雪が静かに降りてくる。トーマスさんも雪に見とれている。昔と変わらないであろうこの光景を見つめながら、一時代前の林業に思いを馳せるのだった。
ラーメンを食べて冷えたからだを温め、羽鳥さんにコテージまで送ってもらう。雪は降り続き、辺りをあっという間に雪景色に変えてしまった。木を揺らして、雪を落とさないと木が折れてしまうかもしれない。雪の日は夜中に、木が折れる音が本当に聞こえるのだそうだ。
午後からは散策の予定だったが、雪のため作業を変更し、コテージの大掃除を先にやることになった。みんなそれぞれコテージに散らばっていく。窓の両面を拭き、掃除機をかけ、壁や梁を水拭きする。田辺お掃除奉行の指示の下みんなよく働く。普段お世話になっているコテージの丸太を、一本一本こころを込めて。小百合ちゃんもなっちゃんと楽しそうに働いている。塚本さんは戸外のテーブルになたをずらりと並べて研いでいる。石山さんは歯ブラシでのこぎりの汚れを落とす。大隈さんとベットを持ち上げると、お菓子のくずやら、中身の入ったペットボトルや、カメムシの死骸やらでてくる。掃除機でみんな吸い取る。
ひたすら雑巾がけをしていたので、へとへとになり掃除を終えるカレーを食べ、酒を酌み交わしながらカメムシの話などする。富弥さんがカメムシの大群と遭遇したときの恐怖の思い出を語る。僕もカメムシにはいい思い出がない。しかし、田辺さんはカメムシのことを「カメ」と気安く呼び、僕らがカメムシを非難すると、やけにカメムシをかばうのだった。カメムシに助けられた思い出でもあるのだろうか・・・。
みんな掃除の疲れで眠くなってもうだめという頃に惣次さんがやって来た。惣次さんはこの度、全国林業研究グループ連絡協議会(全林研)の会長に就任されることになった。全国に約3万5千人の会員を持つ大きな組織だ。そしてお誕生日でもあるので、皆でハッピーバースデーを歌い、デコレーションケーキを運ぶ。寄せ書きとプレゼントが贈られる。惣次さんに漆塗りの素敵なお椀のセット、コテージには掃除機だ。惣次さんは日本の林業を良くしたいと意気盛んだ。
翌日は“遊学の森”を散策する。散策とは言っても本当の目的は、森を回って道に危ないところや補修が必要なところがないか点検して、16年度の活動計画を立てることだ。しかし、初めて遊学の森を歩く人のために田辺さんがところどころ解説してくれる。遊学の森には本当に様々な木があり、高樹齢の木の間に若い木が育つ複層林や、わざと人の手を入れないでその経過を見るための森があったり、まさに林業のテーマパークだ。見晴らしの良い尾根道や、小さな滝もあって、変化に富んだ楽しい山道だった。
コテージに戻って、調査のまとめをする。16年度にやるべきことは、説明看板を立て直すこと、樹名板をぶらさげること、遊学の森の地図を作るための測量、そして植生調査もやるのだという。他にも、ベンチを作ったり、土留めをしたり、はしごを直したりするので、とにかく材がたくさん必要だ。まずは林業体験の森の方から間伐材を運んで来なくては、ということになった。人々に森や林業のことを知ってもらうための森づくりに参加できるというのは、実に嬉しく楽しいことだ。自分たちで森を作っていくのだという面白さがある。睡眠不足のせいでミーティング中に何度もコックリコックリしていた僕だったが(すいません)、これからもお手伝いさせてもらいたいなとつくづく思うのだった。
最後に、泊まったコテージを掃除して解散となる。惣次さんの「がんばれよ、若いの。」という言葉を胸に、僕も家路に着く。