不忘山(7月初旬)

実を言うと蔵王連峰はあまり好きなエリアではありません。熊野岳に咲くコマクサ、刈田岳から見るお釜、冬の樹氷等、ビューポイントは多いのですが、何故か好きになれないエリアなんです。観光有料道路によってズタズタにされた刈田岳の山腹、立ち枯れのオオシラビソ、スキー場の造成により切り開かれた森、標高1800mに響く車の爆音と観光客の声、例え、今まで文明の恩恵にあずかって生きてきた者であっても 「これで良いのか!」 と思わざるを得ないような光景が蔵王にはあるのです。

似たような光景は吾妻連峰や裏磐梯にもあるのですが、吾妻にはまだ、人間の愚行を受け容れる容量を蔵王よりは持っています。つまりその山域の奥行きが深いということです。裏磐梯はもう駄目でしょう。もう一度、百数年前のようにすべてを無にする何かが起こらない限り、自然環境の荒廃が進む事でしょう。つまり、裏磐梯に同じく蔵王の自然は「開発」の名のもとによって荒廃の進んだ観光地なってしまっているのです。

そんな状況下にある蔵王連峰でも比較的静かな山旅が楽しめる南蔵王南端の秀峰、不忘山(1705m)に登りました。        登山口は夏草が茂る白石スキー場からですが、白石女子高山岳部の山小屋があるあたりからは静かな樹林帯の中の登高となります。登った日は7月初旬、梅雨の真っ只中であった為か森の中は霧に覆われて幻想的な世界を作り出していました。延々と続く登りですが、樹林帯の背丈が少々低くなり始めた頃からハクサンチドリやトキソウ、コバイケソウなどが見られ始め、目を楽しませてくれます。何よりも中央蔵王と違ってアプローチが少々きついせいか、冷やかし半分物見遊山の観光客や歳ばっかり食ってマナーの悪い「中高年悪魔の登山軍団」がいないのがとても良いです。

標高を上げてガレ場が目立つようになると今まで周囲を覆っていた霧が晴れだし前方に稜線が見え始めました。梅雨前線の雲の上に出た気分です。雲上に咲いていた花はタカネバラ、ミナウスユキソウ等でした。可憐な花たちに見守られながらひと登りすると太平洋戦争当時、この地で遭難したB29搭乗員を奉る「不忘の碑」があります。「不忘の碑」から頂上までは素晴らしい展望の痩せ尾根を15分ほど歩くだけでした。累々と瓦礫の積み重なった山頂からは沸き立つ雲の中、南屏風岳、水引入道がいまだに残雪を残して聳えていました。

天上は夏空が広がって広がっていたのですがあいにく下界の方は梅雨の雲に覆われて何も見えませんでした。でも、その方が頂上に立つ至福を満喫できるかもしれません。澄んだ空気の中、何もかも見てしまって利潤優先の現代文化の愚かしさを感じるよりは見たくもないものは雲に隠してもらって、人造物のまったくない空間だけを見ているのもまた良いものです。                                                  

七ヶ宿から見る不忘山(1998、秋)

梅雨の雲が切れて青空が広がる

山頂付近に群生していたタカネバラ

山の手帳