+mild+

うつせみの 常無き見れば 世の中に
         こころつけずて 思ふ日そ多き

 →  old  cat    


常乙女

 思えば試行錯誤の連続でした。耳慣れない、言い慣れない言葉を使いこなす
ためにわざわざ娘の知恵を拝借したり、奥底にしまっておいた葛藤を呼び起こ
して悶々とするのにも苦労が絶えませんでした。若かれし頃を思い出して当時
のアルバムを傍らに置いたまま、せめてこころだけはと思いながら瑞々しさを
加えるのでした。無理をしているのですから事実が発覚するのも時間の問題だ
と、当初からわかっていました。ただ、私はほんのひとときでも少女に戻りた
かったのです。純粋さを装いながら芽生えてくる混沌とした残虐な発想も、若
さゆえにあらわれる、鼻を折られる前の自尊心の固まりでもって行きついた自
分らしさも、経験よりも知識が勝る机上論だと言えなくもない本当に可愛らし
い策略も、私にとってはとてもとても魅力的な、懐かしいものでした。
 こうしてあなたに心情を語っているあたり、まだ未練があるのかもしれませ
ん。ここでは私が少女であることを許されていたのだから最後まで少女を演じ
きるのが道理だったのかもしれません。でも私にはやりとげられないいささか
個人的な事情がありました。それをここに直接記すことは出来ませんが、私も
出来ることならばずっと続けていきたかったのです。私の気持ちとは反対に障
害が次々と発生し、対処しきれなくなり結果としてこうなってしまったのは私
自身の落ち度であると諌めています。今になっても少女の私と少女ではない私
が混ざり合って、区別がつかないことがあります。短い間ではありましたが、
私にとっては非常に濃ゆいものだったからです。情緒不安定になり、突然涙す
ることなど何十年とありませんでした。つないだ映像によって一喜一憂するの
も久しい体験でした。何もかもが新鮮で、年甲斐もなくはしゃいでしまったの
です。日を経るごとに盲目的になり殻に閉じこもるようになって一つの歯車が
狂いはじめてしまいました。当然、私に止めることなど出来ませんでした。私
は未熟な少女でしたから、知らないことを武器に無邪気に笑っているだけでし
た。真実を言うならば、既知のものに対してセンサーを外してしまったのです。
大人であることは非常に恥ずかしいことである、と当時の私は思っていたので
すから私が大人であってはいけないのです。憎むべきは大人たち。自分をこう
いうふうにしてしまった穢れた大人たち。
 しかしそれでも私は少女になりきれませんでした。大人になってしまったこ
とを呪ってしまっても呪詛として成立しないことを知っていましたし、娘がそ
れを承知してくれませんでした。少女である前に私は母でありましたし、既に
腐れかかった女でありました。己の醜さを誰よりも理解していて、逃避の手段
として少女になろうとしたのかもしれません。私は自分で認めたくはありませ
んから、断定はしません。ここに戻ってきた私は少女であった頃の純潔さも非
情さも幼稚さも、あの頃持ちえていたあらゆるものを無くしてしまいました。
隣に目をやれば丁度、私が少女であった頃と瓜二つな娘がけだるそうにテレビ
を見つめています。私にあったものをあの子はすべて持っていってしまいまし
た。残った私は抜け殻のように後はしなびていくだけです。私にはもう少女に
戻る場所さえありません。ごめんなさい、あなたを産んだことは今でも忘れる
ことが出来ないくらい嬉しい出来事でした。それでも私はあなたを憎んでしま
うのです。
 願わくば、もう一度少女になりたいのです。他に望むことなど何もありませ
ん。たった一つのささやかな願いが届くまでは無理などいくらでもしますし、
苦労など惜しみません。疲れてしまったのも事実です。さりとて望みを叶えて
ほしいのです。強く、強く誰よりも希求し、祈り続けます。あなたが少女であ
ることを放棄するのなら、私はあなたになりたいと願うだけなのです。



ノスタルジア

鈴虫を聞きながら、夏をおくる仕度をする。
蜻蛉を見つめながら秋を迎える準備をする。

月は今日も出ている。


ボーダーライン

 季節の移り変わりをCMから知るようになって数年が過ぎようとしていた。
外の世界がどのようになっているのか彼女には想像すら描くことができなかっ
たし、薄れていく記憶の中から引っ張り出すのも、もはや億劫であった。目的
もなく焦点をあわせないまま、変わらない景色を映しだす窓を眺めながら同じ
く意図もなく考えを巡らせたまま、まとまらない思惑を叩きだす頭を持て余し
ていた。寒さも暑さも感じることはなく、かといって快適さを感じるわけでも
なかった。
 外へ出るのを禁じられていたのか、あるいは自ら禁じていたのかを考えてみ
たこともあったが彼女にとってはかなりどうでも良いことであったので即座に
忘れさられてしまった。ここでの生活において支障をきたすことなど特になか
ったし、疑問を持つ必要もなかったためかもしれない。日常を暮らしていて、
他人と比べる機会などそもそもなかったのだから彼女は彼女の生活が基準であ
って、外からの情報はテレビ、もしくはラジオぐらいでそれらはつくられた世
界だと認知されていたのだ。食物の問題についても彼女が気がついた時にはお
腹がいっぱいになっていたし、食べたいと願った時にはきちんとテーブルに料
理が用意してあるのだった。料理番組を見て、自分もつくろうと思い立った時
にはきっちんに材料が一つのもれもなく揃えられていて、彼女はふんふんと鼻
歌をうたいながら料理に愛情をいれてつくっていた。
 おそらく生まれてこのかた鏡というものを見たことがなかったのかもしれな
い。彼女は自分の容姿に関して他の事物と同じく興味を持たず、体裁を整える
こともしたことがなかった。化粧という行為を画面の中から引き出したことは
あったが、関心を示すことはなくただの道楽の一種だととらえていた。彼女以
外の人物が部屋に存在することなどなかったからもとより気にすることなどな
かったのかもしれない。退屈に染まる程の暇が充満する前に課題が示唆されて、
黙々とそれをこなす。話をしたくなったら電話をかけて誰かと話をする。相手
が実在するのか彼女の幻想の中でのみ生きる人なのか、第三者が存在したのな
ら悩むところだが、あいにく判断する人はいない。とても楽しそうに、時には
苦しそうに彼女は電話を持つのであった。
 慣れというものは時に残酷なものなのだと彼女は悟ったが、それもまた慣れ
のために薄れた感想であった。何百回目かの深呼吸をして、瞬きさえもが感じ
られなくなっていることに気がついて意識的に瞬こうと思い、どうでもいいこ
とだと挫折し、再び無意識に切りかわる。一番最初に意識しなくなったものを
思い出そうとしてもやはり、無理な話であった。ラジオからは事件を伝えるニ
ュースが聞こえてくる。事件もドラマも彼女にとって同等のものでしかない。
どこかで聞いた話だとねっころがって考える。二、三秒後に胸裏は別の方向へ
むかってしまい、それっきり散ってしまう結果に終わる。あくびを大きくしな
がら視線は天井へと泳ぎだす。何度目かの疑問がかすめる。目を開けたり閉じ
たり、暗い世界と明るい世界を行ったり来たりしながら髪の毛をつまんでみた。
色の判断は難しかった。そしてぼんやりとしながら彼女は思ったのだった。あ
あわたしは曖昧という言葉と一体化してしまったのだなあ、と。何の感慨も示
さずに彼女は手を伸ばし、空をつかんだ。過去において抱きしめられた感触を
思いだそうとしたが、部屋がぬくもりを持つことなど決してなかった。


   (18 hours + 1 hour) ÷ 2   

   Let's go to dreaming world.


Do you luv me ?

 とうの昔に捨てた奴のことなど頭の中から追放したつもりであったし、その
反面身近にいるため忘れることなど決して出来ないとわかってもいた。振り返
ることはやめようと誓ったはずの約束を破ろうなどと思ったことはないが、あ
いつの存在を消せるわけではないので無理な話でもあった。目をそむけたとし
ても視界に入ってしまう。どれだけ逃げたとしても時間を経るごとにあいつは
重く、のしかかってくる。私には何も言わずに以前よりもよりしあわせそうに、
身辺に仲間を従えて。
 最終的に他の人へ乗り移った形となってしまったが、あいつを嫌いになった
わけでは正直、なかった。マンネリを覚えて刺激を求めすぎてしまう面もあり、
共にいた時間が長すぎた故なのかもしれない。当時の私にはあいつのことしか
しらなかったし、よそ見をするゆとりもなかった。懸命について行くことだけ
で満足だった。徐々に成長してゆくあいつを見守ることは飼っていた猫の成長
を見るようでくすぐったい嬉しさがあったが、私を追い越してしまうのだろう
という考えが私を包みこみ、昏さを加えるのであった。それがこわかったから
捨てたのかもしれない。代わりに選んだ人は既に遠い人で、危惧する必要など
なかった。きっと過程を見たくなかったのだろう。
 私に芽生えた猜疑心や嫉妬心は醜いもので、あいつの存在が世間に広まるた
びに居たたまれない気分になったものであった。私以外の人があいつのことを
口にするだけでも許せなかった。一人占めしてしまいたいのにそれを表面に出
してしまうのは逡巡を覚えてしまう。言葉には言い表せない程に気持ちが膨ら
みすぎていた。割れる寸前の風船のように。落ち度はすべて私の方にあった。
事実それを証明するかのようにあいつは成長し、認められて帰ってきた。
 思い出の品を捨てることができず、今でも部屋のすみにしまってある。取り
だしては深いため息をつき、またもとに戻す。逢いたかった、なんていう言葉
を言う資格はない。私から切ってしまった関係を今更修復できるわけではない
と知っている。だが、それをあいつは笑って許してくれることも知っている。
せめて言えるのはおかえり、ぐらいで第一逢って何を話すというのか。今の人
はそういうことにとても寛容な人だからきっと行くようにすすめるのだろうが、
一歩を踏み出してしまったらもう戻れないような気がしてどうしてもためらっ
てしまう。最初はどうしてもあいつと比べてしまって共通点を見出そうとした
が、本当に正反対だから比べようもなかった。
 二人を同時に愛せる、なんて陳腐なシチュエーション。ありふれたドラマの
設定だけれどありふれた現実なのだと初めて知った。それは私がとてつもなく
甘いからだと察してもその先を予測することはできない。選ぶことなどできな
いし、いっそのことなら私が捨てられてしまえばいい。自暴自棄になり忘れた
としても瞬時に我へと戻ってしまう。あきれる程に大事だからずっとこのまま
の状態が続いて欲しいと願ってしまう。
 逢わなければよかった。知らなければよかった。仮定が私をくるんでゆく。
見なければよかった。帰ってこなければよかった。もしもの話をしたところで
気持ちが変わるわけでもない。それでも否定してしまうのは想いの裏返しなの
か。だが私はあいつと再び出会ってしまった。あいつをしってしまった。それ
だけはどうしようもない事実。飢餓するようにあいつを求めてしまうようにな
るのは、果たしていつか。時間の問題であるのに、とらわれてしまわぬよう私
は必死で抵抗する。うらはらだと知っていてもあの人を裏切る結果となってし
まっても、私たちは逢ってしまったのだから。




あいつ→ドラクエ


crystal

きれいな淡い緑色の耳垢が出るってどういうことですか。
新種のエメラルドですか。
だとしたら私は真珠の貝のようなものなのですか。
私は貝になりたい。
結論。病院へは行きません。



ゆめのしごと

 ぼくはゆめを売る仕事をしています。一応仕事、と名のつくものですからお
金をもらってゆめを売っています。本来なら無料で売るべきなのでしょうがそ
れではぼくが生きていけません。それなりに見返りは必要なのです。持ちつ持
たれつ、という言葉を知っていますか? 先輩の人がそう言っていました。ぼ
くたちの仕事もそうなのだと。
 それにしてもこれだけの人達がゆめを買いにくるだなんてぼくは自分でも信
じられません。見渡す限り人で、くらくらしそうです。この人達は一体、ゆめ
に何を求めているのでしょうか。売る側であるぼくにはさっぱりわかりません。
この仕事は楽しいし、好きだからやっていますが自分が買う側だったらきっと
ここへは来ないでしょう。あるいは正反対に、嬉々として買いに来るのかもし
れません。ぼくはそういう人ですから。
 ゆめの国。どこかにゆめの島というものがあってそれは名ばかりのゴミ捨て
場だと聞いたことがあったのですが、考えてみればそう大差ないものなのかも
しれませんね。純粋さを装って腹の黒さをおくびにもださないのですから。も
ちろんぼくも同じです。残酷なことを思ってもゆめを買いにくる、商売の面か
らすれば素晴らしき人達の前では笑顔を絶やすことはありませんし、そう教育
されているからです。笑顔の練習をして顔の筋肉が引きつったこともありまし
た。そのかわりに一つ、興味深いことを発見したのですけれど、満面の笑みを
浮かべながら毒を吐くと、なんとその毒が中和されてマイルドになるのですよ。
本当に。嘘だと思うのなら今この場で試してみてください。ほら、ぼくはいつ
だって笑顔です。スマイルはタダですという一昔前のネタのような話はぼくに
はあてはまりません。なにせこの笑顔も仕事の一部で、お金になるのですから。
 決してぼくは腹黒くはありません。金欲しさに法を犯したりなどしませんし、
第一ゆめを売ることがしたくてこの仕事についたのですから他に望むことなど
特にはないのです。満ちていく悪意と善意の微笑みが混ざり合って灰色になる
様は見物ですし、ある人にとっては天国、またある人にとっては地獄となるの
もまた見逃せません。放たれた風船をゆるゆると見上げながら、風船と一体に
なって上から見下ろしてみたい気持ちにもなります。ゆめを求めてくる人々。
それを仕事として演じるぼくら。幼いころはあこがれたりもしましたが、実際
なってみると想像していたよりもありふれているものです。用意された言葉に
少しの感情をいれてやれば完璧で、別にぼく個人は必要とされていない。楽な
のですが、我を強く出す人にはあまり向いていないようです。いつでも第三者
に見られているという意識を持たなければならず、完全に一人になるまでは演
じ続けなければなりません。疲れた顔を見せるなどもってのほか、物腰やわら
かに、ゆめを売るゆめの国の人として接しなければなりません。ここへ来る人
達は疲れた表情の上に期待を塗って来るのですから落胆させてはいけません。
ぼくも楽しそうに、彼らも楽しそうに。魔法がとけるまではかかったふりを続
けなければルール違反です。せっかくお金でゆめを手に入れたのですから損し
ては意味がありません。商売と知りつつもぼくは商売の言葉を発しません。こ
の国では挨拶が基本です。「こんにちは」「行ってらっしゃい」「楽しんで来
てくださいね」何も考えなくても反射神経で口をついてでます。仕事ですから
当然です。
 ぼくはゆめを売っています。そのかわりにぼくのゆめはどこか遠くへ売り飛
ばしてしまいました。行方など気にする必要ありません。ぼくは求める人にゆ
めを与えます。偽りでも一瞬の夢とならない、ゆめを見てもらいます。魔法が
とけるまで、誰も疑う意味を知りません。とてもとても哀しい所です。ところ
で、あなたも買いに来ませんか?



・実情・
某テーマパークに行って来たのですが殺人級の混み具合。ネズミさんよりも悲
壮感さえ漂う家族出血大サービスのお父さんの方が魅力的でした。暑いのにご
苦労様です。ポロリ。

   ポロリで大爆笑。しばらくはこれで生きていけそうです。


創作日記

 毎日が日曜だとはよく言ったものだ。楽しいことが毎日続けばやがて感化さ
れ、楽しくもなくなるとよく言ったものだ。身体をベッドいっぱいに使って大
きな伸びをし、再び眠りに落ちる心地よさも今では億劫であり、時計の針が進
んでくることだけを願うようになった。やることを見つけようとすればおそら
くそれなりに見つかるのだろうが、いかんせんやる気がないものだからどうし
ようもない。ただだらだらと過ごすしかなく、たまっていくのは脂肪と鬱憤と
塵灰ばかり。行動に意味をつけようとしてもそのこと自体何の意味も持たない
のだから杞憂というものであろう。
 堕落した生活はずっと前から続いていたもののようであり、明日になればぱ
たと消えるようでもある。刹那的だと言えなくはないが、要するにかなり適当
だということだ。詭弁をこねくりまわしても仕方が無い。むしろそうしていた
方が時間を潰せるのだがたまには頭も休ませたい所だ。
 終日かけっぱなしのクーラーとコンポは休みなく稼動し、メリットなど一つ
もありはしないのに根気よく働いてくれる。閉めっぱなしのカーテンを少しめ
くることで朝か夜かを判断する。つまらないので起きた時にどちらであるのか
一人で賭けてみたりもした。勝率は半々。罰は禁酒という形で自分に返ってく
る。今日は二日ぶりに勝ったのでようやく例のウィスキーを呑むことができる。
さあ今日は宴会だ。
 部屋には不似合いであるレトロな黒電話をつかみとりダイアルをゆっくりと
まわす。まわし、元の位置に戻るまでの間がたまらなく好きで用もなく電話す
ることが多い。ジーコ、ジーコと奏でる、不器用な旋律とも呼べない音もわざ
わざ鮮明に聞くために、かかっている音楽を停止させて楽しむ。もうこの音は
どこにもなくなってしまった。家を出る時に持ってきたのは正解だったかもし
れない。この電話は自分と共に生きてきたし、あらゆる人を繋いでくれた世話
人でもある。少し重い受話器から聞こえる息遣いは初恋を思い起こさせた。
 会話が途切れ、電話を切る。チンと音が部屋にこもり、そして返ってくる。
しばらく余韻を楽しんだ後、久しぶりに外の空気を吸いに足を動かす。周囲は
暗い藍のコントラストが出来ていて、独特の雰囲気をかもしだしている。鈴虫
か何かの声があちこちから聞こえ、思わず目を閉じて聞き入る。夏も捨てたも
んではないなと思いながら再び歩き出す。
 午前中はくそ暑かったのかもしれないがちょうど今は涼しく、クーラーの入
っていた自分の部屋よりも過ごしやすい温度である。遠くの夕暮れに目を遣り
ながら田舎のことを思い出し多少センチメンタルな気分になるが行き交う車の
音で現実に引き戻される。ゆっくりとした時間がながれ、本当に特別な瞬間が
潜んでいるかのような気さえしてくる。幼い頃はそれを見つけようと駆けずり
まわり、つかんでいたのかもしれないが今はその元気もなく、景色の絵の具も
褪せてしまった。感動するというよりも感動している自分を見て満足してしま
っていると自認してしまう。
 自嘲気味になりながら細い路地へ入り、目を、頭を和ませようとする。部屋
の中は単調で刺激もなく退屈だけが充満していた。夏を嫌っていたので外出す
る回数も当然減り、自ら体感しようなどと考えたこともなかった。いつ頃から
嫌いになったのか全くわからない。けれどいつのまにか嫌いになっていた。こ
うやって感じてみるとまんざらでもない気がするが、夕暮れ時だから思えるこ
となのかもしれない。昼の暑い日差しにさらされたなら、ほらみろということ
になるであろう。
 ヒマワリは真っ直ぐに上を向き、近くに茂っている雑草は先程降ったのか、
雨粒をのせて青々としている。とびきりの感情が胸のどこかで湧きおこってい
るのだが決して表にでることはない。名前をつける寸前のところで消えてしま
う。少し前まではそのつかみ方を知っていたような気がするのだが今となって
はわからない。後悔しても仕方がないし、まあでも時間潰しにはなるから今度
やってみるとするか。
 充実した時を過ごせているのだろうと勝手に仮定し昨日までの生活と比べて
みる。やりたいことを好きなようにやっていたのだから別に不満はない。暇と
いえば暇だが発狂しそうなほど困っているわけではない。たいして変わってい
ない。外にいるか内にいるかの違いだけで肉体派か頭脳派か、というだけだ。
何だそりゃ。
 ポケットをまさぐり持ってきた時計を見る。見ようとする。が、出てきたの
はガムの紙でお気に入りの腕時計はどうやら留守を守ってくれているらしい。
左右を見まわしても時刻表示をするものなどない。空は先程よりすこし暗さを
増していた。時間が凝縮した分だけ濃さを塗りたくっているようである。ふと
その場で理由もなく座りこみ、ぼけっと眺める。目まぐるしく動いていた頭が
ひんやりとした情景に包まれて考えることを拒否するようになっている。出来
ることならばこの瞬間を切り取って額縁にいれてしまいたい。まるで時のジュ
ースがぽたぽたと滴っていくよう。虫の音がただ聞こえるだけでそのまま気持
ち良く寝れるような気がした。秋がすぐそこまで迫ってきているかのように思
えたが、夏休みはまだ終わっちゃいない。どこかで生じた愁いは夏を好きにな
った証拠。
 さあ家へ帰って宴会の用意をしよう。


Summer is ... (all inspiration)

暑い。熱い。汗。臭い。紫外線。美白。靴下焼け。
半袖焼け。露出。太陽。入道雲。雷。通り雨。き
つねの嫁入り。プール。海。青。砂浜。花火。バ
カンス。流星。朝焼け。虫の音。風鈴。蝉。午前
中の鳩。カブト虫。ゴキブリ。クーラー。日焼け
止め。お昼寝。タオルケット。十二時間。扇風機。
そうめん。冷やし中華。逃げ水。網。密着。水風
船。ヨーヨー。ようかん。御神輿。ラムネ。五百
円。旅。麦わらぼうし。蜜。アイス。朝顔。嘘日
記。怪談。肝だめし。暇。ビーチサンダル。水風
呂。蚊取り線香。宿題。避暑地。遊園地。森林。
祭り。空白。高揚感。開放感。非日常。サマーヌ
ード。涼しい。局地的冬。風邪。夕暮れ。切なさ。
目覚め。今。  


prologue 

 例えるのならば滴る雨粒のように、そして手の平から滑り落ちてゆく砂のよ
うに瑣末なものであった。ふと振り返った時には既に消えている蜃気楼。当時
の私には冷静に分析するだけの余裕も器量も持ち合わせていなかったし今とな
っても全くわからないことが多すぎて整理するには相当の根気が必要とされる
だろう。ただ一つ一つの事象を取り上げてみることが私にできる唯一の懺悔だ
と思い、込ませている。自己満足を同時にさせてしまうことでやりきれない感
情の霧を晴らしている。それ程までにあの夏は私の中にしがみつき、離れるこ
とを拒んでいるのだ。終わることは重要ではあるが、それは一瞬の充足感にす
ぎない。大切なのはその続き、なのである。
 誰かの死によって終焉していたならばそれはそれで一つの形となり、美化さ
れたお話となったであろう。誇大演出をし、現実味を剥ぎとってしまえば周囲
に満ち溢れている本となるであろうし、伝えることで自分に酔ってしまえれば
悲劇のヒロインに役を変更することだってできる。しかし現実はそれ程に甘く
ない。記憶から感情のみを拭きとり、甦る都度に姿を変え、私を縛りつける。
その際涙を流すことは愚か、苦しむことさえ許されない。境地は無。私はあの
夏から自らつくりだした闇をあてもなく漂い続けている。ゆらゆらと揺れる水
面と一体化したように。


という書き出しで始まるプロローグなので
誰かあの夏の出来事をつくってください。

完成は四十年後を目安に。


   近況

   遥か遠くの雲を、神鳴りを見て
   流れる星を暗闇の中、ただ一人眺め
   波のリズムと潮のかおりに身を任せ
   端に映る花火を仰ぎ見
   ぶらさげた線香花火へと瞼を落とす。



rhyme 

懐かしさの理由を語るのは
夏らしき杞憂を騙ったゆえ

通り雨に打たれてみたのは
驕り蹉跌を断たれた抗い

拙き自己を晒してみたのは
不可無き思考荒らす笑みに

明日の行方をうらない画き
斯く乞う故は暮れなき沙汰に

希有の出会いを望みし旨と
急くど願いは遠い日暮れと



記し
  
初めての場所への花火大会はなかなか慣れなく、
満員電車よりも濃い人口密度のため
体が水分を欲求し、購入したものの
値段は三百円でしかもそれは苦手な烏龍茶。
当然一気飲みは出来ない話。


another story in his "BOYS BE" life


 言葉でもハンカチでも拭えない、そう彼女は言った。センスのかけらもない
僕は何を言っているのか、何を指してのことなのか全くわからなかったので曖
昧に頷くことが精一杯だった。僕から見れば彼女は詩人のようで、同じ言語を
話しているはずなのに話が噛み合わないことは日常であり、そのことに意味が
あるようにも思えた。僕が、彼女の言っている言葉がわからないから彼女が僕
に話してくれていた部分もあるだろうし、反対に僕は自分の身の回りのことを
告げるのに一生懸命で、それを彼女が口を挟まずに桜のような表情で見守って
いてくれたから、それだけで安らかな気分を持てたのだった。
 彼女は生活感、というものをまるで感じさせない人で家族や友人の話さえ話
題に上ることがなく、それでは何を語っていたのかと言えばほとんどが極めて
抽象的な、ぼんやりとした実体のつかめないものについてであった。僕は自分
なりに理解しようとして噛み砕いてみたりしたけれど身を持って体験したこと
から例を引き出すぐらいで、おそらく僕に欠けていたものは想像力、というも
のではなかっただろうか。タイプで言えば彼女と僕は両極端に位置していて、
きっかけさえなければ一生関わりあいがなかっただろうしお互いに進んで知り
合おうなどとは思わなかったであろう。その点については二人とも感謝の一文
字で表すことができるのだが、他に共通点を見出そうなどというのは無謀な策
であった。
 僕は彼女と付き合うことでそれなりに彼女という人物をわかってきたつもり
であったが、それでも二人の間にある壁が取壊されることは決してなく、やは
り一方通行的会話を繰り広げるのであった。真夏の街路を歩いていると先の方
に逃げ水を発見して僕はアイスをかじりながら朦朧とその水を眺めていたのだ
が、彼女は一旦空を見上げ、陽炎を落とす絹のじゅうたん、と呟いた。思考回
路が一瞬止まり、彼女の言葉が消えてしまわないうちに何度も何度も反芻し、
自分のものにしようと試みる。その僕の様子を彼女は例の、桜の表情で見つめ
ながら気にしないで、と笑った。だからといって放っておくわけにもいかない
性格の僕は一応気にしない素振りを気取ってみるものの頭の中では狂ったよう
にフレーズを繰り返す。それを知ってか知らずか彼女は何気なく喫茶店への誘
いをかける。もちろん僕は断る理由もなく、むしろ嬉々として賛成するのだけ
れどおかげで先程のことはすっかり忘れてしまい、結果的に彼女の勝ちとなっ
てしまうのであった。

 華が欲しいと、確か彼女は言った。いつもの様にぽつりと、誰に聞かせるで
もなくそれでも僕だけには確実に聞こえる様にと。謎かけを含んだその呟きは
僕の中に浸透し、彼女と別れてからも消えることはなかった。おそらくカン、
というものであろう、彼女の言葉にはリズムがあり、それぞれに重みを持って
いたからなのか僕の耳にはしっかりと残っていた。嫌な予感とでも言えばいい
のだろうか、普段は瑞々しい声に陰りを見た気がしたのだ。しかし僕に出来る
ことといえば僕なりの解釈で彼女を元気づけてあげることぐらいしかなく、色
々と、そう言葉通り本当に色々と考えた末に出た結果といえばあまりにも、あ
まりにもなものであった。
 会いに行こうと決心したはいいが連絡してくるのはいつも彼女からで、僕か
ら彼女への繋がりは一つもなかった。電話番号も知らないし、第一彼女が携帯
電話を持つはずがない。どこに住んでいるのか、ということさえ洩らすことの
なかった彼女は探偵さえ軽くかわせそうであった。術がなくなった僕は途方に
暮れるしかなく、たった一人街並みをふらふらとさ迷うことでしか脱力感を消
化することが出来なかった。あれ? 聞きなれた機械音が耳をかすめ、現実に
引き戻される。タイミング良すぎだと思いながら出ると案の定彼女であった。
僕があわてて会いたい旨を伝えると彼女はくすくすと笑って、じゃあいつもの
所でと言った。電話を切った後に彼女の用件を聞いていなかったことに気づく
が、会った時にでも聞けばいいやと思いなおし、荷物を左手に抱えなおした。
 彼女は普段と変わりなく周囲の熱気を感じさせない爽やかさを持ちながら僕
より先に到着していた。僕は彼女に気づかせないようにそっと近づき、左手に
持っていたものを無言で彼女の視界にいれた。え、と驚きながらこっちを向く
彼女に僕ははい、とそれを渡し、幾度もこころの中で練習してきた言葉をよど
みなく言い放った。すると彼女は何がおかしかったのか、腹を折って苦しそう
に笑いだした。僕の中ではかなり真面目であったので戸惑いながらえ、え、と
言うことぐらいしか出来なかった。彼女はごめん、と言いしばらくその場で笑
い崩れた。いつもの桜の表情は明るさを増し、目には涙が浮かんでいた。彼女
を泣かせてしまった理由が笑いというのでは何とも格好悪いのだが、悪い気は
しなかった。しかし、笑いのきっかけとなったものが今一つわからなかった。
それでも大抵彼女との関係はこのようなものであったし、僕が聞いたところで
詳しく説明してくれる彼女でもないので僕は彼女が笑いを控えるまで待つこと
にした。
 あなたで拭えるなんてね、ととても楽しそうに彼女は言った。首を傾げる僕
とは対照的にきりっと顔を上げて歩きだした。あわてて、僕は横に並ぼうと早
足で彼女に追いついた。彼女が何を考えているのか全くわからなかったけれど
笑ってくれただけでこっちも無性に嬉しくなったのだった。

 彼女の右手にはもう一つの手が、左手には僕の精一杯の答えが、そして顔に
は桜の微笑みがそれぞれに重ねられていた。


 花が、揺れていた。


恐怖新聞 + しあわせエッセンス ≒ 未来日記


視線

 あなたに見透かされるのが恐くて、必死になって繕うもののいざあなたの前
に立つとそんなものは何の意味もないものだと知ってしまう。今まで作り上げ
てきたものがわたしにとって何かしら糧になったのならば、わたしはそれだけ
で満足できる。いや、騙すかたちで満足させる。正論を振りまくことに虚脱感
を感じるのならば、それはわたしがお馬鹿になったということだろう。あらゆ
るものに怒りを感じるほどのエネルギーは既に無くし、悟った振りをしてごま
かし続けるには急ぎすぎた。
 こういう風に考えていてもあなたは素っ気無く一言で片付けてしまうのでし
ょうね。わたしがどんなに真剣か、知りもしないという風に。お店へ入ってす
ぐさま注文をとりに来たウエイターへ「アイスティー」と言うのと同じく、潔
く決断して実行してしまうのだろう。その間わたしに許されたことはただ見守
る、というものだけで事の成り行きを他人事みたいにしてしまうしか手だてが
ない。わたし自身関わっていることだとしても、あなたが言えばそれは「あな
たの言葉を壁としてそこから見た世界」となってしまう。魔法にでもかかった
ようにわたしは小さくなって、震えることすらできない。
 ほつれたならほつれたままでいいと悪意のない純粋な笑顔で言ってくれても、
わたしに残るのはすまなさやなさけなさだけで傷ついたと思いこんでいた場所
はあなたによって悔しいことに、塞がれてしまう。わたしは反抗心を持つこと
で自分を保とうとするけれど到底かなうわけがない。そう、自覚してしまって
いるところがおそらくわたしの弱みでもある。自然と口をついてでる言葉は否
定語ばかりになり、どんな優しさに満ち溢れたものでも、「でも、」と続いて
しまう。例えあなたがわたしを受け入れてくれたとしても。
 それでもわたしがあなたの元を去らないのにはこころのどこかで求めている
部分があって、それは嫉妬よりも根強いものなのだろう。見つめられる視線が
痛いのはつま先立ちのわたしではなくその奥にいる、このわたしをあなたの目
にさらしてしまうことが怖いからで、とりあえずは平常心を持ちつづけようと
している。今、現在も。
 その瞳がわたしをとらえてはなさない。お願いだからこっちを見ないで。見
続けられるなら、わたしは決してこの場を動くことができない。一歩たりとも。


 「だーるまさんが、ころんだよ」


愛するあの人への

 違いますこれは真似などではないのです。模倣などというものではないので
す。いわばオマージュというやつです。わかりますか? ヒントを得ただけな
のですよ。要するにインスパイアされたということです。まあワタシは感化さ
れやすい性分なのでね、前のものに影響されやすいですが、それも個性という
やつですよ。あはは、違いますよ。ワタシはただ思ったことを表現したまでで
すよ。人聞きの悪いこと言わないで下さい。ワタシはワタシなんですから。 
 え? 開き直ってますか? まあ、そう取られたなら仕方ありませんね。少
なくともワタシは自分のしたことに責任は持っているつもりですし、それが誰
かを傷つけたというのならばお詫びします。しかしですね、何度も繰り返すよ
うですがワタシは真似などしていませんよ。とある一部分だけを切りとってそ
れがどう、とかそういう問題ではないのです。率直に言いますとワタシはあら
ゆる事象を組み込み、さまざまなことに共通する欠片を表現しているのにすぎ
ないのですから。や、ワタシだって一人の人間です。間違いはあると思います
よ。ただわかっていただきたいのは、ワタシのかわりなんてどこにでもいる、
ということなのですよ。だからワタシ一人を批判したところでどうにかなるわ
けでもないでしょう? 第一ワタシは最初からオマージュ、とおいてから始め
たのですし。理由、なんてそんなもの決まっているじゃないですか。愛情です
よ愛情。それがなければこんなことしませんって。

 という言い訳を先生にしようかと思います。


old  cat