ボダイジュ(菩提樹)

 5月末、泉北ニュータウンにある高倉寺の境内では、ボダイジュの花が咲いていました。 たくさん咲いているのだけれど、どこか淋しそう・・・ ボダイジュはそんな花でした。
 右は7月上旬の写真。 ボダイジュの花は実に変わっていました。 ヘラ状の苞は、花の時とそう変化はありません。 実が熟し、木から離れる時も、苞は実に付いたままです。 種子散布に役立つのでしょう。

 ところで、菩提樹は仏教三聖木(※)のひとつで、お釈迦様がこの木の下で座禅を組み、悟りを開いたとされています。 「菩提」は、「正しい悟りの智」を意味するボーディ(bodhi)という発音に対してつけられた漢字です。 このため、ボダイジュは、よく寺院に植えられています。 しかし、このボダイジュは、暑いインドの菩提樹と同じではありません。
 日本の寺院でよく植えられているボダイジュは、シナノキ科の植物ですが、お釈迦様が悟りを開いた菩提樹はインドボダイジュといい、クワ科の植物で、イチジクの仲間です(インドゴムノキも、この仲間)。 仏教が中国に伝わり、インドボダイジュに似た葉を持つ中国原産のこのシナノキ科の植物を「菩提樹」と呼んだのでしょう。 近年になって、お釈迦様が悟りを開いた菩提樹が日本に導入された時、既にシナノキ科の植物にボダイジュという和名が付けられていたため、この本来の菩提樹の和名は、インドボダイジュになってしまいました。
 このインドボダイジュはヒンドゥー教においても聖なる植物とされ、今でもインドの人々は敬意をもってインドボダイジュに接しています。 ヒンドゥー教は仏教以前からある宗教で、お釈迦様が座禅の場所をこの木の下に定めたのも、そういう背景があってのことだと思います。

 最近、職場の近くで、このインドボダイジュが庭木として植えられているのを見ました(右の写真)。 うまく日本の冬を越してくれるでしょうか。
 それはともかく、この葉の先端は、長く伸びています。 これは気温の高いところの葉によく見られる特徴で、この先端を伝わって雨水が流れ落ちることで、葉の表面が早く乾燥し、カビを防いでいるのだと言われています。

 この菩提樹の他の仏教三聖木を紹介しておきましょう。
沙羅双樹
  お釈迦様はこの木の下で涅槃に入られました。
  平家物語は「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を現す」と始まります。
  「双樹」は「二股の木」の意味ですが、この沙羅の木はフタバガキ科。 お寺などでは、ボダイジュとインドボダイジュ
  の関係のように、植物分類学的には全く違ったツバキ科のナツツバキをシャラの木としてよく植えています。
無憂樹(ムユウジュ:アソカ)
  摩耶夫人はこの木の下でお釈迦様を産まれました。
  この木には似たものが見つからなかったようで、「代役」はありません。

 ボダイジュといえば、
  Am Brunnen vor dem Tore, Da steht ein Lindenbaum;   
  Ich traeumt'in seinem schatten So manchen suessen Traum.
  Ich schnitt in seine Rinde So manches libe Wort;
  Es zog in Freud' und Leide Zu ihm mich immer fort.
    :
  泉に沿いて 繁る菩提樹  慕(した)い行きては 美(うま)し夢見つ
  幹には彫()りぬ ゆかし言葉  嬉し悲しに 訪()いしそのかげ
    :
 という、シューベルトの歌曲集「冬の旅」の第5曲「 Der Lindenbaum 」もよく知られています。 この Der Lindenbaum を「菩提樹」と訳したのは、音楽家 堀内敬三です。 この木の和名はセイヨウシナノキと言い、中国原産のボダイジュと同じシナノキ科の植物で、よく似ているところから、このように訳したのでしょう。 なお、英語では、この Lindenbaum は「 lime tree 」と訳されています。 もちろんお釈迦様とは何の関係もありません。