フクジュソウ

 お正月の寄せ植え用に購入したフクジュソウを庭に植えたところ、もう10年以上も花を咲かせ続けています。 地上のフクジュソウの姿を見ることのできる期間はきわめて短いので、フクジュソウの植えてある場所であることを忘れて掘り起こしてしまわないよう、注意しなければなりません。
 花はやっと春を感じることができる頃、雪の積もるところでは、雪解け直後ということになります。 花粉媒介の昆虫たちは、寒さのために、まだ活発な行動ができません。 パラボラアンテナのようなカーブを描き、光沢のある(=よく光を反射する)フクジュソウの花弁は、光を花の中央に集め、その部分の温度を上げて、虫たちが活発に行動できるようにしています。 フクジュソウの花は蜜を出しませんが、ハナアブなどの花粉を好む虫たちは、せっせと花粉を餌にしながら、フクジュソウの受粉を助けます。
 花の中央部の温度が高くなっているのは、温度計で確認できますが、写真でも、花の中央が明るく写っています。 この明るさの違いは、肉眼よりも、カメラのレンズを通した方が、はっきりと確認できるようです。
H18.3.4. 自宅の庭で撮影     

 でも、なぜこんなに早く、虫たちの行動も十分でない時期に、咲き急ぐのでしょうか。 フクジュソウは日本に野生している植物です。 人間が無理に花の咲く時期を換えた園芸植物でも、外国から導入されて日本の四季に生活のサイクルが合っていない植物でもありません。
 林床に生えるフクジュソウは、冬の寒さは地中で耐え、木々の葉が展開して日陰になる前に、地下部に蓄えておいた栄養分を使って、急いで花を咲かせて生殖活動を行い、葉を広げて来年のための栄養分を稼ぐこともおこなってしまい、後は長い眠りについて翌春を待つという、短期決戦型のライフスタイルを持つ植物なのです。 つまり、フクジュソウは、夏緑広葉樹の林の林床に適応した植物ということができます。
メシベとオシベ
 (上の写真の一部を拡大)
 
フクジュソウはキンポウゲ科に属し、
 多数のメシベを持っている。

フクジュソウの自生地の様子 フクジュソウは石灰岩地帯を好む傾向がある。
 H10.4.11. 鈴鹿山脈の北に位置する藤原岳(三重県と滋賀県の県境)にて撮影

 このような生き方をする植物は、カタクリ、ニリンソウなど、他にもあります。 しかし、日本の多くの夏緑樹林帯の林床には、ササが入り込んでいます。 ササの下では、このような生き方はできません。
 ササの入り込んでいないヨーロッパなどの夏緑樹林では、春、木々の葉が展開する前に林床がたくさんの花で覆われ、木々の葉の展開とともに姿を消してしまう植物たちを見ることのできる場所が、日本よりはるかにたくさんあります。 ヨーロッパの人たちは、この現象を、花たちの儚い命と捉え、スプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼んでいます。 しかし、これらの植物たちは、短い期間の光合成で得た養分をしっかり蓄え、地下で翌年の春を待っているのです。