芽鱗の正体

  −アラカシの冬芽−

 1月、公園を散歩していると、剪定されて地上に捨てられた、たくさんの小枝がありました。 右の写真のアラカシもそのうちの1つ。 枝は水分を失って、少し皺がよっていますが、春に伸びるはずだった芽は、大きくふくらんだままの状態を保っているようです。 もう伸びることのない芽を弔ってやる意味で、家に持ち帰り、観察しました。

 表面には、鱗片が規則正しく、瓦を敷き詰めたように5列に並んでいます。 このため、この芽の断面を見ると、5角形に見えます(右下の写真)。
 この鱗片(芽にある鱗片ですので、「芽鱗」といいます)は何からできているのでしょうか。 「葉に決まっているじゃない!」と言われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。
 芽の断面を見ると、明らかに2種類の構造があります。 幾重にも重なる鱗片に保護されるように、その内側には、毛の生えた柔らかそうな構造が見えます。 この2種類の構造が、どちらも「葉」なのでしょうか? なお、右下の写真の右側の断面には、中心部にもう一つ別の構造が見られますが、これは伸びて新しい枝になる部分でしょう。

 2種類の構造の正体は? この答は、春、芽が伸びるときに明らかになります。 
 アラカシの芽は、大阪付近では4月上旬から伸びだします。 上の写真は、H16.4.18.に撮影したもので、もうかなり伸びています。 写真の左側には、雄花の穂も見えています。
 芽が伸びてこの写真のようになった様子を考えてください。 芽の中心部が伸びて上に向かいます。 つまり、芽の外側は、写真では下の部分で、上に行くほど芽の中心部にあった部分ということになります。 いちばん外側にあった芽鱗は堅く、ほとんど伸びていませんが(写真左下隅)、芽の内側にあった芽鱗ほど、よく伸びています。 芽鱗であったものは、必ず2枚ずつペアになっています。 そして、私たちが普段アラカシの葉として認めているもの(これを仮に“葉の本体”と呼ぶことにします)は、上の方、つまり芽の中心部だったところにしかなく、このペアになったものの間についています! 明らかに芽鱗は、“葉の本体”とは別のものです。

 葉の基部にある、“葉の本体”とは別の葉的器官を、「托葉」と呼んでいます。 植物学的には、葉は、葉身、葉柄、托葉からなります。 ただし托葉を持たない植物もたくさんあります。
 アラカシの芽の鱗片は、托葉からできていたのです。 そして冬芽の外側(=伸びた場合の新しい枝の基部)の葉には、托葉しかできていない、ということになります。 もちろん、芽の断面の中央部に見られた毛がいっぱい生えていたのが、葉身も葉柄もそろった葉の部分だったのです。
 アラカシの場合、芽鱗として内部を保護していた托葉は、葉が展開すると、間もなく落ちてしまいます。 そして葉身に生えていた毛も、葉の裏側には残りますが、表側の毛は落ちてしまいます。