オーク・アップル

 カシの木とナラの木は近い仲間です。英語の「オーク」(oak)が「カシ」と訳されているのを、よくみます。しかしカシは常緑で、ヨーロッパのオークは落葉性ですから、「ナラ」と訳すべきでしょう。

 4月下旬、私たちに身近なナラであるコナラの雄花は、花粉を飛ばし終え(左の写真)、雌花はドングリへと成長を始めていました(右の写真)。
 そんな時、コナラの小枝の先に、小さいリンゴのようなものを発見しました(下の写真)。
 割って中を見ても、見た目はリンゴのよう(右の写真)。これがオーク・アップルです。

 イギリスでは、1660年の王政復古を果たした記念日として、5月29日を Oak Apple Day として祝います。  チャールス2世がクロムウエルに破れた時、Oak の木に隠れて助かったことから、19世紀のイギリスでは、この日は Oak Apple を上着のボタンに刺して国王に忠誠を誓ったそうです。

 オーク・アップルは、ナラメリンゴフシと呼ばれる「虫こぶ」で、ナラメリンゴタマバチというタマバチ(タマ、つまり虫こぶを作るハチ)の一種が作ります。ナラメリンゴタマバチに産卵されたコナラの芽の組織はふくれだし、タマバチの幼虫の住居と食料を提供することになります。

 虫こぶを作る生物は、タマバチ類の他にも、タマバエ類、アブラムシ類、ダニ類など、たくさんいます。またこのような「こぶ」は線虫類や菌類、細菌によっても作られますので、「虫こぶ」と呼ぶのは不適当な場合もあり、まとめて「ゴール」と呼ばれたりします。これらの生物によって作られるゴールの形もさまざまです。注意して探してみれば、身近なところでもいろいろなゴールをみつけることができます。

 代表的なゴールをいくつか紹介しましょう。

 右は、イスノキにアブラムシの一種が作ったゴール、イスノナガタマフシです。
 イスノキの別名をヒョンノキと言いますが、これはこのゴールをヒョウタンのかわりに使ったことから「瓢(ひょう)の木」がなまった名前であるとも、脱出口に口を当て、笛のように吹くとひょうひょうと鳴ることからの名前であるとも言われています。
 ところで、小さなアブラムシが、どのようにしてこのようなきれいな脱出口を作るのか。じつはアブラムシがあけるのではなく、ゴールには最初から肉の薄い円形の部分があり、乾燥収縮時に生じたひずみにより裂開し、孔ができるのだそうです。

 右(9月下旬撮影)はヌルデの葉に生じた五倍子(ごばいし)で、ヌルデシロアブラムシによるものです。 タンニンの含有量が高く、昔から薬用、お歯黒、染料などにさかんに用いられてきました。
 利用のされ方からすると、ゴールの代表的存在で、 「ふし」という語は、現在では「虫こぶ」という意味で用いられていますが、付子(ふし)は元来はこの五倍子のことを指しており、ヌルデの別名をフシノキと言うくらいです。
 そして、下がクリタマバチによるゴールです。 クリの木の新芽を肥大させ、木を弱らせ、クリの収穫量を減らします。 第二次世界大戦後、日本での被害が急激に拡大し、大きな問題になりました。 最近は、クリの木を、クリタマバチに対する抵抗性の強い品種に変えることで、やっと落ち着いてきたようです。