イヌビワ その2 (イヌビワとイヌビワコバチ)
      ※ このページの写真も全て2005年の8月に撮影したものです。

 イヌビワは雌雄異株です。 前のページで紹介した8月頃から見られる黒い花嚢は、じつは雌株のものなのです。 ※ 「花嚢」についての説明は、前のページを参照してください。
   
 雄株は8月頃にはあまり花嚢をつけていません。 夏が一番少ない時です。 でも、一年中花嚢をつけています。 冬、落葉したイヌビワに花嚢がついていたら、それは雄株です。
 雄株の花嚢には、体長1〜2mmのイヌビワコバチという昆虫が生活しています。 下の写真は、夏に少ない雄株の花嚢を探しだし、その断面を写したものです。 あちこちで黒く見えるものがイヌビワコバチ(メス)です。
 話はややこしくなりますが、雄株の花嚢の中には、雄花と雌花が咲きます。 雄花が咲くから雄株という常識は、イヌビワには通用しません。
 イヌビワコバチは、雄株の若い花嚢の頂にある鱗片の間を通って花嚢の中に入りこみ、雌花の柱頭から産卵管を差し、胚珠に産卵します。 卵から孵った幼虫は、イヌビワコバチによって運ばれた花粉で受粉して発達を始めた胚珠を餌にして成長します。 ほとんどの子房は寄生されますから、雄株の花嚢にはほとんど種子はできません。
 成虫になったイヌビワコバチのオスは、メスより一足先に子房から出て、メスのいる子房壁に穴を開け、交尾します。 オスは花嚢から外に出ることはありません。 色は茶色で(下の写真)、下のスケッチのように、花嚢の中を動き回りやすい平たい身体に、子房壁に穴を開ける牙を持ち、腹部の先端は交尾のために細く伸びています。
 交尾を終えたメスは、花嚢の頂から外に出ます。 この時、花嚢の出口付近には雄花が花粉を出しており、この花粉をつけて、若い花嚢を求めて飛び去ります。 
 上は、安全カミソリで断面をつくった花嚢の写真ですが、右は爪で雄株の花嚢を割ってつくった断面です。 イヌビワコバチたちは、まだ子房壁の中にいます。 この写真の上の方には、まだツボミですが、雄花が見えています。
 さて、イヌビワコバチのメスは、身体は黒く、立派な翅を持っています(下の写真)。
 花嚢の中には、イヌビワオナガコバチも住んでいます。 オスはやはり茶色、メスは体色は黒く、長い産卵管を持っています。 イヌビワオナガコバチについては、後で触れましょう。

イヌビワコバチのオスとメス イヌビワコバチのオス イヌビワコバチのメス

イヌビワコバチのメス イヌビワオナガコバチのメス

 イヌビワの雄株の花嚢を出たイヌビワコバチのメスは、卵を産むための花嚢を探します。 雄株の花嚢に入ったイヌビワコバチのメスは卵を産み、孵化した幼虫はそこで育ちます。 イヌビワの雄株の花嚢とイヌビワコバチはこの関係を繰り返します。 つまり、イヌビワの雄株の花嚢は、イヌビワコバチを養うためにあるのです。
 初夏、雌株にも花嚢ができます。 イヌビワコバチは雄株の花嚢にも雌株の花嚢にも侵入を試みます。 この時期は雌株の方が若い花嚢が多いのですが、雌株の花嚢は雌花のみです。 しかもこの雌花の柱頭は、雄株の雌花の柱頭より長く、イヌビワコバチの産卵管は、胚珠に届きません。 つまり、雌株の花嚢に入ったイヌビワコバチのメスは、花粉を運ぶだけで子孫を残すことはできません。 そして、イヌビワの雌株は、イヌビワコバチが運んでくれた花粉で、立派な種子を作ることができます。
    
 下の写真は、似た大きさの雌株の花嚢(左)と雄株の花嚢(右)を並べたものです。 雌株の花嚢では種子ができつつあるのに、雄株の花嚢には種子らしいものは見あたりません。
 ところで、イヌビワオナガコバチのメスは、長い産卵管を使って、花嚢の外側から産卵します。 花粉をつけた身体を花嚢の中に潜り込ませることはしません。 ですから、イヌビワにとっては何のメリットもないことになります。
 しかし、イヌビワとイヌビワコバチとの関係は密接です。 イヌビワはイヌビワコバチがいないと種子が作れません。 イヌビワの花粉を運ぶことができるのは、イヌビワコバチしかいません。 また、イヌビワコバチはイヌビワの雄株の花嚢の中でしか、子孫を残すことができません。 両者は互いにたよりあって生活しています。
 このような関係は、イヌビワとイヌビワコバチの関係に限定されているのでしょうか? 次のページで紹介しましょう。