ムラサキケマン

写真1  撮影:H18.4.22. 大阪府堺市にある泉北ニュータウンの槙塚台公園にて
 ムラサキケマンは、少し木陰になるような所に普通に見られます。 華鬘(けまん)とは、本来は生花を糸でつなぎ、環にして仏前を飾ったものだったのですが、今では生花に代えて、仏具として銅や木などで作られます。
 この花、じっくり見ると、なかなかおもしろいつくりをしています。 まず、外からはメシベもオシベも見ることはできません(写真1、写真4)。
 花のつくりを調べるために、断面を作ってみました(写真2)。 写真3は、写真2の一部の拡大です。
 ガクは非常に小さくなっています。 写真2では、ガクの部分は断面にならないように残し、花と花柄の接するところにちゃんとガクが写っているのですが、分かりますか?
写真2 花の断面
 花弁は合計4枚あります。 上下に1枚ずつ、そしてこの上下の花弁に抱かれるように、その内側に左右の花弁があります(写真4)。 上側の弁が最も大きく、大きく後ろに張り出して距となり、蜜を蓄えます。 写真2では、蜜を作る黄緑色の蜜腺が距の中にあるのが写っています。
 オシベはメシベの上下に1本ずつ、計2本しかありません。
 多くの植物では1本のオシベには2つの葯がありますが、ムラサキケマンの場合、それぞれのオシベには葯が3つずつあります(写真3の下のオシベで、よく分かります)。 たぶん、それぞれのオシベは2本のオシベが融合したもので、合計4個の葯のうちの隣り合った2個の葯が融合したのだと考えられます。
写真3
 これらの葯とメシベの柱頭は、左右の花弁が先端近くで上下にドーム状にふくれて形成されている部屋(写真4の色の濃くなっている部分)にしまわれています(写真2・3では、断面を作る時の操作で、オシベは上下にはみ出しています)。 
 このように、普段はオシベもメシベも外からは見えず、花粉は雨などから守られています。 虫が蜜を求めて上側の花弁と左右の花弁との間から花の内部に入ろうとすると、ピョコンとメシベとオシベが飛び出して、虫の身体に花粉をつけ、虫の身体に付いていた花粉はメシベの柱頭に付くしくみになっています。 このことは、指で虫の代わりをしても確かめられますが、指を引っ込めると、メシベとオシベはまたドームの中にしまわれてしまいます。 写真5は、オシベとメシベが収納されないように細い木切れを花弁の間に挟んで撮ったものです。
写真4 写真5
 なかなか巧妙でおもしろい受粉のしくみを持った花だと思いませんか? でも、おもしろいのはここからなのです。
 もう一度、花の断面の写真3に注目してください。 メシベの柱頭には既に花粉が付いています。 若い花を調べてみても、どうも花のかなり初期に、オシベの花粉は同じ花のメシベに付く、つまり自家受粉しているようなのです。 その結果として、ほとんどの花で子房がふくらんで、種子が生産されます(写真6)。 ムラサキケマンは1年生草本ですから、できるだけ効率よくたくさんの種子を生産しようとしているのは理解できます。 でも、それでは、上で見てきた巧妙な花のつくりは、いったい何のためだったのでしょうか?
写真6
写真7  撮影:H18.5.14. 大阪府堺市にある泉北ニュータウンの槙塚台公園にて
 果実の話に移りましょう。 果実は熟しても緑のままです。 熟した果実に触れると、果皮が勢いよく巻き上がり、その勢いで、果皮そのものも、その中にあった黒い種子も、勢いよく飛ばされます。 飛ぶ様子を写真に撮ろうといろいろ工夫してみましたが、勢いがよすぎて、通常の撮影では無理なようです。
 写真7は、遠くに飛んでしまわないように、果実をそっと握り、手の中ではじけさせて写真に撮ったものです。
 種子をよく見ると、種枕または種冠とよばれている白いものがついています(写真8)。 アリはこの部分を好み、餌として巣に引っ張っていきます。 このことで、種子はさらに広範囲に散らばることができるのです。

 ところで、この植物の茎を少し噛んでみてください。 とても苦い味がします。 ムラサキケマンはケシ科に属し、ケシ科の植物には有毒で苦い成分を持ったものがたくさんあります。
写真8