T. 環境会計の概説その11−内部環境会計A

KPMGセンチュリー審査登録機構

森 哲郎

 

 前回から、環境会計を企業内部の経営管理にどのように効果的に活用するかを解説していますが、今回は、環境会計を投資の意思決定に役立てるための方法を紹介します。

3 投資の意思決定に環境会計を活用する

 企業が、いくつかの投資案を財務分析によって比較する場合、環境にかかわるコスト、コストの節約や収益の多くは考慮しないことが少なくありません。その結果、企業が、汚染予防および環境配慮技術への有利な投資機会があることを見逃す場合もあると考えられます。あるいは、負担増を覚悟で実施したと考えていた環境配慮型の投資が、実はコストダウンに貢献していた可能性もある。こうした点をできるだけ正確に把握して投資の意思決定に役立てるための方法を本節では紹介します。

トータルコストアセスメント(TCA)

環境コストを投資の意思決定に取り入れることについて、多く行われている手法としては、トータルコストアセスメント(TCA、トータルコスト会計とも言われる)がある。これは、環境コストを適正に配賦し、環境貢献型の投資代替案の利点を評価するための応用されたABC(活動基準原価計算)手法です。TCAの特徴としては、通常は、外部への影響(社会的コスト要因)は、マーケティングや売上げに経済的影響を与える場合にのみ計算に組み入れられると定義されています。この定義で考えると、TCAは、通常、私的コストと社会的コストの両方を含めるとされるフルコスト会計(FCA)とは異なっているし、TCAがより現実的な手法であることを示しています。 TCA手法には、例えば、米国のテラス研究所や米国化学技術者協会(AIChE)のものがあり、これらは産業環境管理協会の調査で紹介されており、インターネットでもソフトウエアや情報を入手できます。また、米国環境保護庁(EPA)の環境会計プロジェクト・ホームページでもTCAを導入した企業の事例が多数紹介されています。

AIChEは、TCAにかかわるコストの種類をわかりやすく分類しています。ここでは外部コスト(社会的コスト)も入っていますが、将来にわたっても企業が負担する可能性がない部分については、分析から除外するのが一般的であり得策です。

図表3a 米国化学技術者協会によるTCAで考える環境コストの分類

種別

名称

定義

タイプ1

製造業サイトにおける直接コスト

資本投資、労務費、原材料費、廃棄物処理費などの直接コスト。

タイプ2

企業および製造サイトで隠れている可能性がある間接コスト

製品や工程に直接賦課されないコスト。

タイプ3

将来の及び偶発債務のコスト

法規制違反による罰金、土壌汚染浄化・人的健康被害等による罰金・損害賠償などの環境負債コスト

タイプ4

内部の無形コスト

企業が負担しているが、測定が難しいコスト。消費者・顧客の支持、従業員のモラル・健康、労使関係、企業イメージ、地域住民との関係、および罰金・資本コストなどの回避額の推計

タイプ5

外部コスト

企業が負担せず、社会が負担しているコスト。

出所: American Institute of Chemical EngineersAIChE, Total cost Assessment Methodology: Internal Managerial Decision Making Tool(トータル・コスト・アセスメントの方法論――経営管理における意思決定ツール), 1999, P.1-12。産業環境管理協会の環境会計報告書(2000年)P.54の邦訳も参考にしています。

以下では、AIChEのTCAに関する報告書が掲載しているTCAの仮想的事例について紹介します。目的は、廃棄物削減対策のための研究開発資金を処理コストがより高い廃棄物の対策に配分するためにトータルコストを調査するというものです。これらの2種の廃棄物について、コストが発生するリスクの洗い出しが行われています。例えば、あるシナリオは、新しい規制ができて大気汚染対策設備の改善が必要になり、2年目の終わりに設備投資コストが120万ドルかかることが確実で3年目に試験操業と内部管理コストの増加が確実というものです。また、別のシナリオ2は、大気汚染規制違反と焼却炉に対する新しい規制により、2年目の罰金が15万ドル(確率:20%)、3年目の罰金が15万ドル(確率:5%)、その他顧客評価の低下が見込まれる、といった具合です。さらに、こうした金額と確率を掛け合わせ、さらに12%の割引率によって現在価値に直された表が紹介されています。なお、タイプ5の外部(社会的)コストは、別の表に掲載され、別途3%の割引率を用いてさまざまの環境負荷項目について金額が見積もられていますが、外部コストについては、あまりに金額の幅が大きく、実用上の意味はあまりありません。

投資の意思決定に環境会計を統合するためのポイント

 投資の意思決定に環境会計を統合するためのポイントを、図表3bに示しています。実施を検討している資本投資を評価する際に、環境上のコスト、コスト節約や収益を十分考慮し、汚染予防のための投資をその他の投資代替案と同じ土俵で評価することが重要だ、とEPAのガイドブックは主張しています。

 

  図表3b 投資の意思決定に環境会計を統合するためのポイント

 

1.環境上のコスト(と便益[効果])をリストアップし、金額を把握する(金額把握が難しいものは質的に[記述情報で]評価する)

2.環境上のコスト等と便益(効果)を配賦・計画する

 

3.正味現在価値(NPV)などの適正な財務指標を使う

 

4.長期的な環境上の便益(効果)が補足できるような、妥当な時間的範囲を設定する

5.管理者や与信者が理解でき、有用と思うような書式でデータや情報を準備する

 

 出所:EPA環境会計ガイドブック(1995年、日本公認会計士協会仮訳)に加筆。

 

 

ポイントとしての第1は、環境上のコスト(と便益[効果])をリストアップし、意思決定のプロセスに組み込むことが、環境対応投資が財務的に実現可能であるかどうかを示すために役に立つ点です。汚染予防のための投資がもたらす可能性がある無形の便益[効果]のような、容易に金額が把握できないデータは、無視するのではなく、記述情報で評価します。

第2のポイントは、会計システムまたはマニュアル的方法によって環境に関するデータを集めたり作成した後は、環境上のコスト、コスト削減や潜在的な収益を、資本予算決定の焦点となっている製品、工程、システムや設備に配賦・計画することです。コストや収益を最も推計しやすいものから始めて、だんだんに、偶発的なものや企業イメージのような環境上のコストや収益がより推計しにくいもの広げていくとよいでしょう。

第3のポイントは、正味現在価値や内部収益率などの適正な財務指標を使うことです。正味現在価値とは、来年もらう1ドルよりも、今もらう1ドルのほうが価値が大きいという考え方をもとに、将来発生する金額を現在考える際に、一定の割引率で割り引いたものです。

 第4のポイントは、長期的な環境上の便益や効果が補足できるように、妥当な時間的範囲(年数)を設定した上で、投資案のキャッシュフローや収益性を考える必要があることです。

第5のポイントは、管理者や与信者が理解でき、有用と思うような書式でデータや情報を準備することです。これによって、はじめて、以上の結果が説得力を持つことができます。

業や組織のニーズ、目的に絞って行うべきです。