環境会計の概説その
2――環境会計の16の分類について森 哲郎
「環境会計」については、昨年から今年にかけて、一部大手企業を中心に環境会計情報を環境報告書等で開示するケースが増え、また、今年、環境庁がコスト情報の開示のためのガイドライン案を発表するなど、注目を集めてきています。KPMGセンチュリー審査登録機構では、環境報告書と併せて環境会計に関するサービスも開始しており、来春には環境会計に関するセミナーも開催する予定です。前号より、環境会計についての概説を掲載しています。
前号では、環境会計の定義と併せて、環境会計と言っても、どもまでを対象とするかが重要であることを紹介しました。ここで扱っている環境会計は、マクロ経済レベルの環境会計は含まず、ミクロ経済レベルの企業やその他事業体の活動に係わる環境保全に関する投資及び経費とその効果を適正に把握し伝達するための仕組みですが、環境会計の対象範囲には、少なくとも以下の4つのチェックポイントがあります。
これらを表にすると以下のようになります。
表1.環境会計の分類方法
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集計範囲 |
コスト/効果の分類 |
表示方法 (単位) |
使用目的 |
|
A |
社会的 |
費用 |
貨幣 |
対外公表 |
|
B |
企業内 |
効果 |
非貨幣(物量か記述情報) |
内部管理 |
つまり、AABA、AAAA、BABBなど、基本的にはどんな組み合わせでもあり得ますので、16種類あることになりますが、現在取り組んでいる環境会計が対象としているのは以上のうちのどの項目なのかを考えておくことは、その環境会計の意味・目的を考える上で重要です。これら16種類を並べたのが表2です。
表2.
16の環境会計種別ごとの使用頻度及び算出の容易さ| 番号 |
使用頻度 |
算出の容易さ |
集計範囲 |
コスト/効果の分類 |
表示方法 (単位) |
使用目的 |
コメント |
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1 |
△ |
× |
社会的 |
費用 |
貨幣 |
内部管理 |
算出は難しいがリスク管理に利用できる可能性。 |
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2 |
△ |
× |
社会的 |
費用 |
貨幣 |
対外公表 |
算出は難しいが一部で試みられている。 |
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3 |
○ |
○ |
社会的 |
費用 |
非貨幣 (物量か記述) |
内部管理 |
事業分野ごとの将来の環境リスクを考える上で重要。 |
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4 |
○ |
○ |
社会的 |
費用 |
非貨幣 (物量か記述) |
対外公表 |
汚染物質排出量がこれに相当。 |
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5 |
△ |
× |
社会的 |
効果 |
貨幣 |
内部管理 |
算出は難しく、内部管理目的のみで算出することはまれと考えられる。 |
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6 |
△ |
× |
社会的 |
効果 |
貨幣 |
対外公表 |
算出は難しいものがほとんどだが、一部で試みられている。 |
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7 |
○ |
△ |
社会的 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
内部管理 |
汚染物質排出量削減がこれに相当。 9〜10に対応するもの中でも重要。算出が簡単なようで因果関係の確認は簡単ではない。 |
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8 |
○ |
△ |
社会的 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
対外公表 |
|
|
9 |
○ |
○ |
企業内 |
費用 |
貨幣 |
内部管理 |
環境会計のスタート地点 |
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10 |
○ |
○ |
企業内 |
費用 |
貨幣 |
対外公表 |
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11 |
× |
△ |
企業内 |
費用 |
非貨幣 (物量か記述) |
内部管理 |
あまり使わない |
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12 |
× |
△ |
企業内 |
費用 |
非貨幣 (物量か記述) |
対外公表 |
あまり使わない |
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13 |
△ |
△ |
企業内 |
効果 |
貨幣 |
内部管理 |
通常「みなし効果」を含む。 |
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14 |
△ |
△ |
企業内 |
効果 |
貨幣 |
対外公表 |
「みなし効果」の公表には注意が必要 |
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15 |
○ |
△ |
企業内 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
内部管理 |
9 〜10に対応するものの中でも重要。算出が簡単なようで因果関係の確認は簡単ではない。 |
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16 |
○ |
△ |
企業内 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
対外公表 |
【注】:
最も議論と実践が行われているものが、9〜10の企業内の環境関連費用(貨幣)に関するものでしょう。この分野で、内部管理目的としては、米国環境保護庁(EPA)がガイドブックを発表しており、日本の通産省でも議論が開始されています。また、外部公表目的では、環境庁が、99年3月に「環境保全コストの把握及び公表に関するガイドライン 〜環境会計の確立に向けて〜 (中間取りまとめ)」を公表しました。
さて、重要なのは、費用と効果の両方を考える限り、それぞれの項目は個々に切り分けられるのではなく、関連しあっているということです。【1】もともと企業は事業活動により必ず、何らかの環境負荷による社会的費用を社会に対してかけざるをえませんが、それを、法律の定めまたは自主的努力により9〜12の企業内費用を使って緩和しています。このことで、実際に発生する社会的費用が、1〜4の部分になります。その本来発生させていた環境負荷を減らした部分が、5〜8の社会的な効果であり、その中には、13〜16の企業内の効果も含まれるわけです。考えられるケースはこの他、【2】企業が環境に貢献する商品を開発し、企業収益だけでなく、社会的効果ももたらすといった場合などもあります。
【1】の単純な例を挙げましょう。あるメーカーA社は、法規制による環境負荷削減は行っていますが、自主的な環境負荷削減努力を全く行っていないとします。もし、法規制を全く守らないと、大気汚染物質である硫黄酸化物が、年間50トン大気中に排出されます。しかし、法規制に従って、年間10億円の費用をかけて、排気中の硫黄酸化物濃度を抑制することで、実際に排出しているものは、30トン削減されて、年間20トンとなっています。これをまとめると以下のようになります。
企業内費用: 10億円。
社会的効果: 物量では、硫黄酸化物30トンの排出減少(法規制を守らない場合排出する50トンに比べて)。貨幣換算を試みるとすると、この排出減少により、硫黄酸化物による健康被害のコスト減少や、健康被害を緩和するための政策費用の減少、酸性雨の発生による森林等被害の緩和、などの効果を考慮する必要があります。
企業内効果: 物量では、硫黄酸化物30トンの減少(法規制を守らない場合排出する50トンに比べて)。社会的効果と同一ですが、その効果を貨幣換算するとなると、法規制を守ることによって、法律違反で市場から退出させられるリスク回避といったこ収益への貢献を考慮する必要があります。
社会的費用: 物量では、硫黄酸化物20トンを大気中に排出。貨幣換算を試みるとすると、この排出により、硫黄酸化物による健康被害のコストや、健康被害を緩和するための政策費用、酸性雨の発生による森林等被害の、などの費用を考慮する必要があります。
次回は、企業内部の環境コストについて、環境庁のガイドライン案などを含めて、さらに詳しく解説します。
(
(センチュリー監査法人『環境監査ニュースレター』1999年12月号掲載))