環境会計の概説その4――環境コストに対応する効果(環境効果)について
森 哲郎
KPMGセンチュリー審査登録機構では、環境報告書と併せて環境会計に関するサービスも開始しており、6月には環境会計に関するセミナーでの講演も予定しています。本ニュースレターでは、昨年11月号より、環境会計についての概説を掲載しています。
前号では、環境会計コストについて解説しました。今回は、環境コストに対応する効果について解説します。
費用と効果の関係
費用と効果の両方を考える限り、それぞれの項目は個々に切り分けられるのではなく、関連しあっています。費用と効果の対応を図1で説明します。図1は、ある製品についての環境負荷の削減について示しています。もともと企業が何かの事業活動を行うと、必ず、何らかの環境負荷による社会的費用を社会に対してかけざるをえません。何も環境対策をしないと、Aの環境負荷が出ることになりますが、それを、法律の定めまたは自主的努力により企業内費用(環境コスト)を使ってBの分だけ緩和しています。
昨年12月号で掲載した表「環境会計種別ごとの使用頻度及び算出の容易さ」のうち効果部分を表1に再録していますのでこの表を使ってこの点をさらに説明します。Bが社会的効果(物量)で、表1の7と8にあたります。それが金額で評価できる場合は、5と6になります。Bの社会的効果(物量)と同時に、企業にとってもいろいろなメリットが発生する場合が普通です。それが13〜16の企業内の効果であり、
さて、その製品を買った利用者(ユーザー)も何らかの環境対策費用Cを負担する場合があります(廃製品の処理費用など)が、このCは企業の環境会計の範囲外です。さて、BとCの対策効果によって、実際に発生する社会的費用はD部分になります。
図1 社会的「環境効果」の意味

表1. 環境会計種別ごとの使用頻度及び算出の容易さ(効果部分)
| 番号 |
使用頻度 |
算出の容易さ |
集計範囲 |
コスト/効果の分類 |
表示方法 (単位) |
使用目的 |
コメント |
|
5 |
△ |
× |
社会的 |
効果 |
貨幣 |
内部管理 |
算出は難しく、内部管理目的のみで算出することはまれと考えられる。 |
|
6 |
△ |
× |
社会的 |
効果 |
貨幣 |
対外公表 |
算出は難しいものがほとんどだが、一部で試みられている。 |
|
7 |
○ |
△ |
社会的 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
内部管理 |
汚染物質排出量削減がこれに相当。9〜10(企業内の環境コスト)に対応するもの中でも重要。算出が簡単なようで因果関係の確認は簡単ではない。 |
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8 |
○ |
△ |
社会的 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
対外公表 |
|
|
13 |
△ |
△ |
企業内 |
効果 |
貨幣 |
内部管理 |
通常「みなし効果」を含む。 |
|
14 |
△ |
△ |
企業内 |
効果 |
貨幣 |
対外公表 |
「みなし効果」の公表には注意が必要 |
|
15 |
○ |
△ |
企業内 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
内部管理 |
9〜10に対応するものの中でも重要。算出が簡単なようで因果関係の確認は簡単ではない。 |
|
16 |
○ |
△ |
企業内 |
効果 |
非貨幣 (物量か記述) |
対外公表 |
【注】:
環境効果の内容
環境効果にはどのような内容があるのか表2およびそれ以下に分類しています。注意すべきは、金額
算出が簡単なように見える効果でも、因果関係の確認は簡単ではないことです。「もっともらしいが根拠の薄弱な数字」を計上することのないように気をつける必要があります。表2 環境効果の内容の分類
A 企業(組織)内効果 |
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|
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a. 収益向上・節約効果 |
b. リスク回避効果 |
|
c. 副次的効果 |
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【注】:@は、さまざまなケースでAのa〜cをもたらす。
@ 環境負荷低減効果(直接的には社会的効果)
環境負荷の削減は、以上の図1等で説明したように、公害防止設備のための投資や公害防止設備設備の維持管理によって、直接的には社会的な費用を減らす効果が生まれ、その効果は大気汚染や水質汚濁といった環境負荷の軽減というかたちで現れます。これが本来の効果であり、こうしたものの多くは物量データとして表されます。物量データはその投資や費用支出による環境負荷の軽減量で表わすことが望ましいですが、「法的規制値未満で維持している」「設定した自主基準値を守っている」といった効果のあらわし方もありえます。
貨幣的に表わそうとすれば、環境負荷低減効果は環境負荷に対して社会が負担している費用(社会的費用)を低減させていることになるので、この低減分に見合う社会的費用を何らかのかたちで貨幣的に測定することになります。
重要なのは、企業がコストをかけて@の環境負荷低減効果(社会的効果)を生み出す対策を実施するのは、通常は全くの社会奉仕ではなく、その事業を行うために遵守が不可欠であるためであったり、リスクを回避したりするためです。つまり、@環境負荷低減効果は、通常は、同時にAのa〜cのいずれかをもたらす場合がほとんどです。
A 企業内効果
a. 節約効果
環境効果には上記のような本来の支出目的の実現という効果のほかに、企業にとっての利得をもたらす効果すなわち経済的効果もあります。その直接的効果が節減効果であり、消費エネルギーの節減に伴うエネルギーコストの節減や廃棄物量の低減に伴う廃棄物処理コストの節減などが典型的な例です。算定に当たっては、当年度の投資および費用支出に対応する削減効果に加えて、過年度投資による当年度削減効果も考慮する必要があります。
b. リスク回避効果
これは環境保全のための投資または費用支出を行うことによって、将来起きる環境汚染事故や法令違反等の可能性を低減させる効果です。ある環境コストによってリスクを回避できる効果は基本的には、「回避できる損害額」と「それが発生する確率」との積で表わされると考えられるが、ここには種々の推定計算が必要であり、財務会計制度とは離れた算定方法が用いられることになります。
c. 副次的効果
これは環境保全のための投資または費用支出を行うことで企業イメージの向上をもたらしひいては販売促進につながる、あるいは環境教育により従業員の意識向上につながるといった効果です。例えば、企業が「環境コスト」をかけて環境に貢献する商品を開発し、図1の社会的効果Bをもたらすと同時に、企業内効果(企業収益)をもたらすという場合があります。また生産活動によって生じた付加価値に対する環境コストの貢献といった効果もこの範疇に入ると考えられます。これらの効果の多くは貨幣的に算定するためには財務会計制度のらち外で行われるみなし計算によるということに留意する必要があります。
(センチュリー監査法人『環境監査ニュースレター』2000年2月号掲載)