T. 環境会計の概説その5−環境報告書と環境会計@

KPMGセンチュリー審査登録機構

森 哲郎

 環境会計の算定・集計結果について組織の外へ公表する場合に、環境報告書が1つの重要なツールであることは、すでにここまでで説明してきました。今回は、環境会計をどのように環境報告書のなかで掲載するかなど、環境会計にとっての環境報告書の活用方法を中心に紹介します。

「環境会計」と「環境報告」の意味の近さ

まず、「環境会計」と「環境報告」の意味は非常に近いことを改めて強調しておきたいと思います。すでに触れましたが「環境会計」と言っても、環境庁の環境会計ガイドラインが出される最近まで、まだその言葉の定義すら確立していない段階でした。英語のenvironmental accountingが日本語の「環境会計」と同義であると簡単に考える向きがありますが、environmental accountingaccountingとは、accountability(説明責任)という言葉からもわかるように、「説明する」との意味を持っています。例えば、「Green Accounting」は、特定のデンマーク企業が行う法定環境報告を指します。デンマークでは、環境報告法が1995年に可決された。同国では、1996会計年度から、環境への著しい影響がある企業は法定環境報告書を公表することが義務づけられたが、これがグリーン・アカウントと呼ばれています。

したがって、「環境会計」というものが現行の財務会計の制度と整合しなければならないということはないのである。現行の実務から見ると、環境会計とは、環境保全に関する投資及び経費とその効果を適正に把握し伝達するための仕組みと考えることができる。であるからこそ、組織の環境にかかわる負荷・取り組みの状況を組織外に伝える環境報告、そして、その伝達ための媒体である環境報告書(紙媒体だけでなく、インターネットホームページ上の電子媒体等も含まれる)とは、かなり近い意味を持っていると言えます。

簡単に言えば、環境会計と環境報告書の大きな違いは、環境会計は金額情報を中心とし、物量情報も含み、数値データを中心としているのに対して、環境報告書は、情報の種類を問わず、組織の環境にかかわる負荷・取り組みの状況についての情報を包括的に含むことができるより広い意味を持つものだと言えます。(図1参照)

1 環境報告書と環境会計の関係

 

 

 環境報告書と環境会計=互いに活かし合う関係

もちろん、環境報告書を作らない組織でも、環境会計を公表しているケースもある。ただ、環境会計の算出結果だけが開示されるよりも、環境に対する取り組みのなかでの位置づけがはっきりしてこそ、環境会計の数字の意味が明確に理解・評価できるのは明らでしょう。つまり、環境報告書に掲載することで、環境会計の数字が活きてくるわけであり、また、当然のことながら、信頼性のある環境会計情報を掲載すればで、環境報告書による情報開示の質が向上することは言うまでもありません。

環境会計の環境報告書における開示事例

実際、1999年に発行された主な環境報告書を見ても、3分の1以上が環境コストなどの金額で表される環境会計情報を開示しているとみられます。東洋経済新報社(統計月報2000年4月号)の調査でも、上場・公開企業において今後、導入を検討する企業がかなりの割合にのぼっており、今後環境会計の環境報告書への掲載は加速することはまちがいありません。

 

環境報告書とは何か

近年、環境に係わる方針、取り組み、および実績(パフォーマンス)に関する報告を外部の利害関係者に対して行うこと、また特にこれを環境報告書によって行うこと、に対する企業の関心が高まっています。ここでは、組織内部用ではなく、対外公表用に、組織が作成する環境報告書について説明します。

 環境報告書は、1990年代初頭より主として欧米企業により自主的に発行されてきており、日本においてもここ数年上場企業を中心に環境報告書の発行が急増しています。環境広告で企業の環境対応に対する信頼を高める効果を上げられる時代が終わり、信頼性の無い環境情報は、企業に対するマイナスのイメージをもたらしかねなくなってきました。

外国企業の動き

 近年、環境に係わる方針、行動、および実績に関する報告を行うことに対する企業の関心の高まりがある。利害関係者の圧力と法令による要求がその理由である。

 また、英国、カナダ、オランダおよびデンマークの会計士団体は、毎年、すぐれた環境報告書に対して表彰を行っています。

 米国では、証券取引委員会(SEC)が、すでに財務報告書に記載する環境情報についての要求事項を定めており、また、有害物排出目録(Toxic Release Inventory = TRI)制度が、正社員10人以上のすべての企業に対して、特定の排出物に関するデータの提出を義務づけています。カナダでは、証券委員会が、公開企業に対して年次情報書式(Annual Information Form)において、環境法令の現在と将来の(業績への)影響についての報告を義務づけています。

 欧州でも、 企業の自発的な参加で環境声明書の作成を行うEMAS(EU理事会規則「環境管理・監査スキーム」)が1995年に施行され、各国で環境報告書に対して積極的な取り組みが行われています。

 デンマークでは、環境報告法が1995年に可決された。デンマークは、環境報告書に関する法規制を制定した最初の国である。同国では、1996会計年度から、環境への著しい影響がある企業は、いわゆるgreen account(法定環境報告書)を公表することが義務づけられた。これらの法定環境報告書は、同国の商業・企業庁(Danish Commerce and Companies Agency)に提出される。企業が環境マネジメントシステム(EMS)を導入するという約束するという拘束力のある契約を同庁と締結することを条件に、一時的に環境報告の義務が免除される3年間の移行期間が設けられていた。ただ、この移行期間は、1998年12月に終了し、その結果、法定環境報告書を作成する企業は、1999年初現在の1200からさらに増えると見られています。

 オランダでは、1997年に可決された法律によって、1999会計年度より、環境へ著しい影響を及ぼす可能性があるおよそ330の企業が、環境報告書を公表することが義務づけられています。現実には、これらの企業は、2種類の環境報告書を公表しなければならない。1つは政府向けのもの、もう1つは一般市民向けのものである。一般市民向けの環境報告書への要求事項は比較的緩いものだが、政府向けの環境報告書は、最終的には政府がこれをまとめて現存の規制当局への報告に代わるものと位置づける予定になっているため、要求事項はより厳密に定められています。ただし、この法律は、企業に対して、独自の環境報告のスタイルおよび方法論を開発する機会を与えています。

 ノルウェーでは、1999年以降、すべての企業が財務報告書の中に環境に関する情報を含めなければならなくなった。

今や、環境広告で効果を上げられる時代が終わり、信頼性の無い環境情報は、企業に対するマイナスのイメージをもたらしかねない。

国内の企業等の動き

 日本企業は、80年代から、環境に対する取り組みを紹介する冊子を出しているところは多かったが、毎年発行するまとまった環境報告書を発行するようになったのは1995年頃以降であると考えられる。さらに近年は、環境に係わる方針、行動、および実績に関する報告を行うことに対する日本企業の関心の高まりが加速しています。日本でも1997年から、環境庁がかかわるものとして(社)全国環境保全連合会により環境報告書に対する評価を含む「アクションプラン大賞」が開始され、また、1998年からは環境報告に関する研究団体であるグリーン・レポーティング・フォーラム(GRF)が東洋経済新報社と共催で環境報告書の表彰制度である「グリーン・レポーティング・アウォード」を開始した。また、同じく98年には、企業、自治体、NGO、学者などが集まり「環境報告書ネットワーク」も結成された。2000年現在で環境報告書を発行している会社・組織は、国内では200社以上(生協、地方自治体を含む)に達しているとみられる。

環境報告書に関するKPMGの調査

 すでに過去の本ニュースレターで紹介したように、KPMGは、アムステルダム大学の環境マネジメント研究所(WIMM)の協力により、世界の19カ国のトップ企業について環境報告書(公表されているもの)に関する最も包括的な調査を実施した。これにより、フォーチュン誌による世界のトップ 250社(金融業を除く)の44%が自社の環境パフォーマンスについて年次レポートを出していることがわかりました。また、金融業界(銀行、保険、証券)では、15%が年次の環境報告書を出しています。これは、比較的環境に直接影響を与えない分野である金融業界の動きとしては、驚くべきことだが、金融業界において環境に関する事柄への関心が高まっていることを示しています。 金融機関は、自社のクライアントに圧力をかける事ができるため、企業の環境パフォーマンスを改善するための重要な役目を担っています。負債による金融リスクはそれによって減じられ、その企業は、金融市場において高い評価を得ることができる。しかし企業にとって、環境を強調することの最も重要な利点は、おそらく株主の態度であろう。株主は、企業の財政的なパフォーマンスだけではなく、それ以外のパフォーマンスにも関心を持ち始めています。それ以上に重要なのは、環境パフォーマンスを公に報告することを企業に求める国や団体が増えている点である。

 (次回は、環境会計を環境報告書どのように効果的に開示するか、などについてご紹介します。)

(センチュリー監査法人『環境監査ニュースレター』2000年3月号掲載)