T. 環境会計の概説その8−環境庁ガイドライン2000年版(2)

KPMGセンチュリー審査登録機構

森 哲郎

 今回は、環境庁が20005月に発表した「環境会計システムの導入のためのガイドライン(2000年版)」についての解説を行います。なおガイドライン2000年版は、環境庁のホームページで「環境会計」をクリックすると入手できます。

ガイドライン2000年版についての注意点

本ガイドラインは、環境保全コストの集計について一定の指針を示し、しかも誤った方向性に進まないように、入念に組み立てられているということなど、高く評価できる部分が多いと言えます。ただ、多くの部分について、性急な結論を急がない観点から、今後の課題とされている点も少なくありません。また、用語の理解などで注意を要する点もあります。注意すべき点の中には例えば以下のようなものがあります。

  1. ガイドラインの取扱範囲だけが環境会計というわけではない
  2.  ガイドライン2000年版は、環境保全効果(社会的効果)については物量情報を、である「経済効果」について貨幣単位表示を推奨していますが、それ以外の情報も否定しているわけではありません。「経済効果」は、企業が得る私的効果だけではなく、社会的効果についても、あり得ます。これについては後掲の表を参照ください。

  3. 環境会計結果をどう解釈すべきかには触れていない
  4. ガイドラインベースの公表データを見ると、各々の環境保全コスト分類にもとづく投資額及び費用額が記載されているが、環境会計について知識を持ち合わせていない一般のステークホルダーの目にとまった場合、投資額及び費用額が多額にのぼる会社ほど環境問題に対し、積極的に取り組んでいる会社であると誤認されるおそれがあります。例えば、投資額一つにしても、資金的余裕がなく問題を先送りしているがゆえに投資額が少ないのか、それとも従前から環境問題に積極的に取り組んできているため、新規投資する必要性が乏しいのか、環境保全コストの金額の大小を見ただけでは判断できない。これについては、ガイドライン2000年版の付録の1において、「環境会計で明示された環境保全コストについて、総額の大小や増減を持って企業の取組状況を単純に比較評価するのは不適切であり、環境保全コストはそれぞれの内容や性格をよく吟味すべき」であるとして注意を促していますが、どう解釈すべきかの方向性について明確な記述はありません。報告性環境会計の内容の解釈についての手法の開発が待たれるところである。この点に関しては、本連載で、今後とりあげる予定です。

  5. 事業者の選択の余地は大きく、他社との比較は難しい
  6. いまだ環境会計の実務慣行が十分に形成されていない今日、ガイドライン公表の目的の一つに「環境会計の普及」ということがあるため、比較的各事業者に処理の裁量の余地を与え、普及を図るという意図があります。よって事業者ごとの環境会計の取扱いについて、ガイドライン2000年版はあくまでガイドラインであり、「環境会計基準」といったものではないことを、環境庁も強調しています。また、付加価値への環境コストの貢献効果など議論が多い部分については、結論を避けており、比較可能性の確保という意味で、課題を残しています。今後は、財務会計やにあるような、「重要性の原則」「継続性の原則」などの基本原則を示すことも重要であると考えられます。ちなみに、環境報告書に関する国際的ガイドライン作りを進めているGRIGlobal Reporting Initiative)の持続可能性報告ガイドライン案では、このような基本原則が示されています。

  7. 実際の減価償却期間と効果が発生する期間の不一致をどうするかが不明確

財務会計との関係の中で、例えば財務会計上、支出時の費用処理されてしまっているものでも、環境保全の立場からは将来の効果の発現が見込める支出というものも考えられ、こういった項目をどのように取り扱うかについて、明確には示されていません。

 いずれにしても、ガイドラインは基準とはちがい、拘束力は無い。企業等がガイドラインを参考にそれぞれの独自のやり方を決めれば良い。その際には、そのやり方について十分な方針の開示が必要である。

ガイドライン以外にも環境会計の範囲は広い

上述@で触れた、ガイドライン以外にも環境会計の範囲は広いということを以下の表で説明します。

環境会計の対象範囲には、少なくとも以下の4つのチェックポイントがあります。

  1. 社会的か私的か?――「社会的」とは、費用負担責任や効果享受が企業等ではなく、外の社会におよぶもので、「私的」とは、費用負担責任や効果享受が企業等に直接およぶもの。
  2. コストか効果か?――「社会的な費用」とは企業活動に係わる環境負荷に関連する環境対策・政策費用、個人が受ける健康被害に対する医療費、生態系の破壊なども含む。
  3. 貨幣か非貨幣か?――表示方法の「非貨幣」とは物量(CO2や廃棄物排出量が何トンなど環境負荷物質の数量)だけでなく、それが困難な場合は、件数や時間数などその他数量情報を含む記述情報も含む。
  4. 内部管理用か対外公表用か?――「対外公表」用とは投資家や環境保護団体などを含む環境会計の外部の利害関係者向けに公表するものであり、「内部管理」用とは内部の経営管理のために利用するもの。環境会計システムの導入のためのガイドライン(2000年版)では、「内部機能」と「外部機能」と位置づけています。

(1)〜(4)を表にすると以下の表のようになります。グレーに網をかけている(○がついている)項目が環境庁のガイドライン2000年版が主な対象としているところです。


さまざまの環境会計と環境庁のガイドライン2000年版

番号

環境庁ガイドライン

範 囲

コスト/効果の分類

表示方法

(単位)

使用目的

コメント

1

×

社会的

コスト

貨幣

内部管理

算出は難しいが一部で試みられている。

2

×

社会的

コスト

貨幣

対外公表

3

×

社会的

コスト

物量か記述情報

内部管理

汚染物質排出(量)、資源使用などがこれに相当。事業分野ごとの将来の環境リスクを考える上で重要。

4

×

社会的

コスト

物量か記述情報

対外公表

5

×

社会的

効果

貨幣

内部管理

算出は難しいものがほとんどだが、一部で試みられている。

6

×

社会的

効果

貨幣

対外公表

7

社会的

効果

物量か記述情報

内部管理

「環境保全効果」

汚染物質排出量削減がこれに相当。算出が簡単なようで因果関係の確認は簡単ではない。

8

社会的

効果

物量か記述情報

対外公表

9

私的

コスト

貨幣

内部管理

環境保全のための投資額及び費用額

10

私的

コスト

貨幣

対外公表

11

×

私的

コスト

物量か記述情報

内部管理

あまり使わない

12

×

私的

コスト

物量か記述情報

対外公表

13

私的

効果

貨幣

内部管理

環境保全対策に伴う(企業等にとっての)「経済効果」

14

私的

効果

貨幣

対外公表

15

私的

効果

物量か記述情報

内部管理

ほとんどの場合は金額換算できない効果を記述情報で示すもの。ガイドライン2000年版も貨幣情報が難しい場合は、否定しない。

16

私的

効果

物量か記述情報

対外公表

【注】:「環境庁ガイドライン」の欄は、「環境会計システムの導入のためのガイドライン(2000年版)」において、「○」はガイドラインの対象として提案しているもの、「×」は「今後の課題」とするなどで、対象とはしていないもの。「△」は、一部言及されているもの。

環境庁のガイドライン2000年版では、企業等の収益に直接影響する私的効果(貨幣単位)を「経済効果」と呼んでいるが、社会的効果にも貨幣単位に換算でき「経済効果」が算出できる可能性のあるものもあります(5と6番)。また、金額換算が難しいが企業等にとっての利益となることが明らかなもの(15番、16番)の把握、公表は重要です。