T. 環境会計の概説その9−環境報告書と環境会計B
KPMGセンチュリー審査登録機構
森 哲郎
今回は、環境会計を環境報告書どのように効果的に開示するかを解説します。
GRIのガイドラインを活用する GRIガイドライン国際的には、良い環境報告のやり方に関する標準的な枠組みはできあがってはいません。さまざまの団体が環境報告書に関する作成ガイドライン等を発表してきましたが、1997年秋から、国際的に統一されたガイドライン作りの試みが始まりました。世界の環境報告書等に取り組む団体や個人が集まったGRI(Global Reporting Initiative)が、環境面だけでなく社会・経済面を含めた持続可能性報告書作成のガイドライン作りに着手しました。1999年3月には「持続可能性ガイドライン(公開草案)」を発表し、さらに、2000年6月には正式版が発行されました。今後、GRIガイドラインは、事実上のグローバル・スタンダードとして認知されていく可能性が大きいと考えられます。
環境会計を効果的に開示するためには、環境庁のガイドライン2000年版をベースとするだけではなく、持続可能性報告書のためのGRIのガイドラインに可能な範囲で基づくことが、読み手にとって、違和感のない、見慣れた形の開示方法になり、信頼性を高めるためにも役に立つ可能性があります。
環境庁のガイドラインについては、多くの企業がこれを利用しており、活用することは当然ですが、GRIのガイドライン2000年版も、環境会計の開示にとっては重要な指針となりうる項目を多く含んでいます。環境会計だけでなく経済、環境、社会面を含めた持続可能性報告書に関するガイドラインではありますが、公式の日本語版ガイドラインも発行される予定であり、これからは必読のガイドラインとなるでしょう。そのなかでも重要なものを以下に簡単に紹介します。ちなみに、GRIガイドライン2000年版は、はじめからその対象範囲全項目に準拠した報告書を作ってもらう目的で制定されてはいません。環境部分だけに準拠したり、無理のない利用の対象範囲からはじめてステップ・バイ・ステップで対象を広げていくことが想定されています。
GRIガイドラインが前提とする原則GRIガイドラインが、報告を行う組織に対して前提として求めている大原則は、財務報告書に関するものと類似したものであるため、環境会計にも大いに関係があります。
報告主体の原則: 合弁企業や子会社などをどう扱うかなど、報告を行う組織の境界線を明確に定義されていること。GRIのガイドライン2000年版では、財務報告のような明確な定義は無いので、まずは財務報告と同様にすることも推奨されています。
報告を行う範囲の原則: GRIガイドラインがいう経済・環境・社会のうちどの範囲をカバーしている、また、今後カバーする予定の範囲を明確にすること。
報告期間の原則: 報告可能な影響、出来事や活動は、できるだけそれが発生した報告期間において開示されること。これは、企業会計における発生主義の原則に類似したものと言え、環境会計の開示にあたっても特に検討すべき原則であると言える。
継続企業(ゴーイング・コンサーン)の原則: 報告主体が予測可能な将来にわたって活動を継続するものであること。
保守主義の原則: この原則は企業会計では、費用はできるだけ早めに計上し、収益は確実な段階になってから計上する、という意味を持つが、GRIガイドラインにおいては、より広い意味となる。同ガイドラインは、製品のライフサイクル全体を考えるにあたり、上流・下流の環境対策の成果などを主張する時に、慎重に(保守的)に取り上げるという例が挙げられているが、環境会計において費用や効果の計上を考える上で、重要な原則であります。
重要性の原則: これは、報告を行う組織やその利害関係者にとって重要なものかどうかということであります。経済・環境・社会面についての報告においては、簡単に比率や量などで重要性を判断することが難しいので、財務報告における重要性の原則より複雑なものとなるし、何が重要かについては、いろいろな利害関係者によって意見が分かれる可能性もあります。
GRI報告書の定性的特性GRIガイドライン2000年版は、報告されるデータの信頼性(credibility)を向上させる主な定性的特性(criteria=規準)を示しています。これらは、適合性(利用者層のニーズに合致しているか)、信頼性(reliability)、明瞭性、比較可能性、タイミングの適切性、検証可能性であります。これらも、財務データの信頼性を高めるために必要とされる特性ですが、それらに、GRIが必要な修正を加えたものであり、しっかりとした環境会計を開示するためには、これも無視できない重要性を持っています。
環境効率(eco-efficiency)指標は、@売上高や利益の規模に対して環境負荷が大きくないかを見るために、環境負荷経常利益率(=環境負荷/経常利益)および、環境負荷原単位(=環境負荷量/売上高)などが代表なものです。
GRIガイドライン2000年版は、比率指標についてのガイダンスであるアネックス4の生産性・効率性比率の紹介のなかで、環境効率(eco-efficiency)指標として、以下の2つを紹介しています。
工程における環境効率: これは以上の図表5.6bで紹介したものと同様のものであります。例えば、廃棄物量1単位当たりの生産量、温室効果ガス排出量(CO2換算値)1単位当たりの純売上高
製品やサービスの機能としての環境効率: 例えば洗濯機の水利用効率や自動車の燃費が挙げられる。これも、ラニングコストなどとからめて環境会計と関連してくる場合もあります。
どのように環境会計情報をとりまとめたか、などについての方針の開示は、環境会計を開示するに当たって不可欠の要素であります。これについては、以下の(3)「環境会計の算出・集計方針を明示する」で説明します。
(2)環境会計を報告書の要として位置づけ、他の情報と明確にリンクさせる
環境関連情報の有効な把握・開示のためには、環境会計情報と、環境会計に含まれないデータを含めた環境に関する物量・記述情報の範囲を一致させるとともに、その範囲・対応関係を明確に環境報告書上に示す必要があります。環境コストを構成するデータと環境報告書で記述されるデータが完全に一致する必要はないが、まずデータの収集システムを一致させるとともに、環境会計項目と、その他の環境報告書内の環境負荷等に関する記述との対応関係を明記するとよりわかりやすい環境報告書となる。実際の環境報告書例の中には、かならずしもそうなっていないものが少なくない。例えば、以下の表のような、環境負荷の総量も織り込んだ表形式を使えば、以上のような環境会計項目と、その他の環境報告書内の環境負荷等に関する記述との対応関係は明確になります。

望ましい環境会計計算書の例
環境会計とその他の環境関連データの把握方法・範囲を一致させうる収集体制の整備が進めば対応関係の一層の明確化が可能となる。完全に対応させることが技術的に難しい場合もあると考えられるが、その場合は、完全に一致していない事実を明記すればよい。
環境会計に関する算出・集計の方針(環境会計方針)を、環境報告書上で十分なスペースをとって明記し、環境コストの算定基準や、減価償却費を含むかどうか、など、を明記することが重要であります。なぜなら、こうした、情報が開示されて、はじめて、表示されている数字の根拠が示されて、信頼性が得られるからであります。
GRIガイドライン2000年版は、GRI準拠の報告書が重要な報告・測定の方針の正式な公開を含むことを求めています。報告書において開示が求められるものの中で、としては、例えば、◇?報告書の対象範囲(経済・環境・社会、社会のみ、環境のみ、など)、◇報告を行う組織の構成内容についての、前回の報告書からの重要な変更、◇経済・環境及び社会についての情報に適用される測定方法の、過去からの重要な変更、などがあります。環境会計についても、◇経済面、環境面および社会面のコストと便益についての会計があれば、そこで使われている規準および定義を、公開するように求めています。さらに、?環境会計に関連した開示項目としては◇組織の構成内容についての重要な変更、規準年・期間の変更、事業の性質の変更、測定方法の改善や修正のような、以前に報告された情報の修正の性質と効果およびそのような修正の理由や、◇質量、体積、エネルギーや通貨についての換算のベース、◇データの集計に使われるアプローチ(直接および間接の効果についてのアプローチを含む)、◇重要性の原則が、何を報告し何を報告しないかについて、どのように適用されたか、といったものがあります。
環境報告書のデータの信頼性などを第三者機関にチェックしてもらい、第三者機関による検証意見書(verification statement)といったものを掲載する動きが増えてきています。ただ、環境報告書に対して第三者意見書を提示するための監査規準に関しては、従来、決まった監査規準が無く、意見書の持つ意味・役割も非常にあいまいであり、読者に対する説明もほとんど無い場合が多い。こうした第三者意見書の必要性については、主要企業の意見も分かれています。同業他社が環境報告書に第三者意見書を掲載しているからといって、自社でも掲載することを簡単に決断することは得策ではありません。
ただ、最近では、欧州や日本において第三者の検証意見を出すための監査のやり方を定める基準作りも進んでおり、前述の環境報告書の世界統一をめざすGRIも、持続可能性(環境)報告書への第三者意見のあり方に関する規準に関する討議を重ねています。
環境会計およびそれを含む環境報告書の信頼性を向上させるために、今後、監査のより方について認知された基準作りが進み、第三者意見書の意味・役割について利害関係者の認識も高まれば、こうした第三者の検証制度を活用する意義も大きくなると考えられます。