西表島リゾート開発差止訴
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西表リゾート開発等差止訴訟の訴状について

弁護士  岡 島  実(第九法律事務所・沖縄弁護士会)

1 請求の趣旨

被告らは、別紙物件目録記載1ないし17の土地上(開発計画土地)において、樹木の伐採若しくは宅地の造成、又はホテル、コテージ、店舗、建物その他の建築物の建築等の開発行為を行ってはならない。

2 当事者

原告:?西表島住民38名 ?その他沖縄県住民36名、?その他地域住民216名(外国居住の外国人2名含む)合計290名

被告:(株)ユニマット不動産、(株)タイム・アンド・タイド

3 請求の根拠の基本的な考え方

人格権・入会権・環境権に基づく妨害排除請求権による、権利侵害行為の差止め

(1)仮処分段階との相違

(ア)差止請求を基礎付ける権利侵害(被侵害利益)を広く捉える。

仮処分での被侵害利益は、住民の生活上の利益を中心に、副次的に自然環境破壊を主張するものであったが、本訴では、自然環境の破壊を出発点として、島の自然環境・文化環境・社会環境及び住民の生活環境が広く破壊されることによる、日常生活上の諸利益、入会権、宗教的人格権、環境享受権、学問的活動領域保持の利益、環境権等、極めて多様な権利侵害が発生することを主張する。

(イ)権利侵害を主張する人的範囲を拡張する。

西表島住民の生活上の諸利益を中心とする、同島住民に対する権利侵害が、本訴でも主張の中心となることには変わりないが、精神的人格権としての環境享受権(正確には、自然的・文化的環境を保持する利益)、学問的活動領域保持の利益、環境権を媒介として、地理的限界をなくし、このような人格権・環境権の侵害を主張するすべての個人に原告となる権利があることを主張する。

 なお、環境享受権と環境権は実質的には同種の権利だが、個人の人格にかかわる利益として捉えるか(環境享受権)、一定の集団に帰属する利益と捉えるか(環境権)という理論的な相違がある。

(2)請求を基礎付ける、西表島の特殊性

(1)のような被侵害利益及び権利主張者の人的範囲の拡張が可能となるのは、その基礎に、西表島の環境の特殊性に対する、次のような理解がある。

(ア)自然環境の特異性ないし固有性

 西表島は、極めて多数の固有種、絶滅危惧種、希少種である動植物が生息、植生する、世界的に見ても希有な自然環境を有しており、世界的な固有性、非代替性という性格を持ち、世界共通の財産というべき、高い価値を有している。

(イ)生態系の有機的一体性

 自然環境は、本来的に、生態学にいう生産者である植物から、大型肉食獣のような高次消費者まで、有機的なつながりを持った、一体性を有している。西表島では、これに加えて、人間の活動も、自然を大切にし、これとの調和を図りながら形成されてきたことから、自然環境と一体のものとして融合し、その文化・生活環境を含め、全体として、有機的な繋がりをもった一つの生態系を形成しているものと捉えることができる。住民の日常生活や日常的経済活動も、自然と調和しているからこそ、成り立っているものと言える。

(ウ)生態系の脆弱性

  ??のような自然環境・生態系は、西表島が地理的に孤絶した離島であるという条件下で、これまで大規模な人為的開発から免れてきたからこそ、形成されたものである。したがって、大規模な人為的開発に対しては、極めて脆弱な側面を有している。そして、?のように、同島の生態系が、人間の文化・生活環境を含む、一体性を有していることからすれば、人為的開発による破壊の影響は、絶滅危惧種の絶滅ないし激減から始まり、文化・生活環境の広汎な破壊にまで至ることになる。

(3)地理的制約を設けない権利主張がなぜ可能か

 本件訴訟の、従来にない特色として、西表島の環境破壊を憂慮する個人は、居住地・国籍を問わず、誰でも請求が可能であると主張している点がある。これは、次のような理解に基づく。

 そもそも、人格権は、生命・身体から精神活動に至るまで、人の人格にかかわる利益を総体として捉えたものである。そこには、精神面における、人間としての尊厳の保持の利益が含まれる。名誉権やプライバシー権は、今日では独立した権利として理解されているかが、もとは、精神的人格権から生成したものである。宗教的人格権も、独立した人格権として生成の途上にあると言える。このように、人格権、とくに精神的人格権は、新たな権利を生成する母胎として機能を有する。

 名誉権やプライバシー権のように、独立した権利としての位置付けが明確になればなるほど、これに基づく権利主張は容易になるが、独立した権利としては生成途上のものであっても、精神的人格権として位置付けることによって、権利主張を行うことは可能である。例えば、上級審で否定されたものの、宗教的人格権の侵害を理由とする損害賠償請求が認容された事例もある。

 人格権に基づく主張は、損害の事後的回復措置である損害賠償請求に限らず、事前の差止請求まで可能である。これは、いわゆる大阪空港訴訟最高裁大法廷判決以来、確立した法理となっている。このような差止請求の主張は、従来、生命・身体に対する侵害を根拠として主張されてきたが、理論的には、精神的人格権を根拠とすることも可能である。人格権に基づく差止請求は、人の人格ないし尊厳が、これを侵害するものに対する排他性を有することを根拠とするものであり、このような排他性を有することは、身体的な側面であれ、精神的な側面であれ、変わりないからである。

 精神的人格権を根拠として主張する場合、理論的には、地理的な制約はあり得ない。例えば名誉権が侵害された場合、侵害行為が行われた場所がいかなる遠隔地であろうと、差止請求が可能であるのと同様である。

 本件では、原告らは、西表島の自然的・文化的環境を破壊する行為が、同島の環境を貴重なものと考える個人の精神的人格権を侵害する行為であることを主張している。これは、同島の自然的・文化的環境を保持する利益が、上記のような意味での、精神的人格権の一つとして、法的保護に値するものであるとの理解に基づく。

 このような主張を可能にするのが、(2)で述べた、西表島の環境の特殊性である。同島の環境は、世界的に見ても、高度の固有性、非代替性を有するものであり、かつ、これに対する破壊行為は、これを2度と回復し得ない状態に陥れる(回復不能性)ことからすれば、このような自然的・文化的環境を自己の精神的支えとする個人にとっては、いわば、肉親を傷つけられるにも等しい、重大な精神的苦痛を生ずるものである。

 このように理解すれば、西表島の自然的・文化的環境を貴重なものとして自己の精神的支えとする個人は、居住地を問わず、自己の精神的人格権の侵害を理由として、これに対する破壊行為の差止を請求することができることになる。

 このような理解は、自然環境の保全が世界的な焦眉の課題となっている今日において、世界中の個人にその保全の利益を認めるという理解につながるものであり、裁判所が原告らのこのようなに対し、積極的な対応を示すときは、自然環境の保全活動に対し、新たな次元を開く可能性をも有するものであると見ることもできよう。