「蟻について」(校内新聞に載せて頂いた文章)
道を歩いている時などよく見かける、私達人間の100万分の1も無い、動く黒い点・・・。それは蟻です。ここでは、その蟻のについて話をしていこうと思います。
約1億年前の恐竜時代のまっただ中に現れ、急速に世界に蟻は広まっていきました。そして、地上の至る所で種数を増やしていきながら、とても目ざましい適応拡散を遂げました。
蟻は裸眼ではすべて皆同じ様に見えるかもしれませんが、実際は違います。試しに、虫眼鏡で拡大し、顔を近づけて見て下さい。既知の蟻種は、とても変化に富んでいるのが分かります。大きさだけでも変異に際立っています。例えば、最も小さい蟻の仲間である、南アメリカのコビトアリやアジアのコツノアリの仲間の1コロニー全体が、最大の種であるボルネオ産のオニオオアリんぽ兵隊蟻の頭部の殻の中で優々暮らせるほどなのです。
蟻の脳の容量は、その身体の大きさに従って種ごとに異なっており、既知全体で見ると、その差は100倍にものぼります。だから、大きな物が知的であるとか、あるいは少なくとも複雑な本能のセットによって動かされている事を意味するのかと言うと、知性の正確な測定方法は存在しないのですが、本能に関してはそうだが、その差はわずかでしか有りません。グルーミング、卵の世話、匂いの道しるべ付けなどの様々な行動のカテゴリーの数を、最大の蟻は最小の蟻の約50パーセントほどカテゴリーを多く持つに過ぎません。つまり蟻の知能は、身体の大きさでさほどの差は出ないという事です。
蟻の強みはその小さな脳を使って、堅い団結力と複雑な社会組織を作り出す能力に有ります。限定された極めて特殊な刺激を行動開始の引き金にすることにより、それを可能にしています。ある種のテルペンが匂いの道しるべになったり、口の下部を叩くこ事が餌を乞うシグナルになったり、また脂肪酸がしたいの印になるなど、数十に上るこのようなシグナルが、1匹の蟻に日々の仕事を行わせるシグナルとなっています。
蟻のコロニーが作り出した組織の上部構造には感銘を与えられますが、その強さの源である単純な合図の連鎖は、同時にもろさ最大の原因となってしまいます。ですから、蟻は騙されやすいのです。他の生物が暗号を解読し、一つないし数種類の重要な暗号を真似するだけで、蟻の社会的な結束を上手く利用する事が出来ます。もしかしたら、暗号さえ分かれば蟻の社会に人間でも入り込む事が出来るかもしれません(笑)。この様な事は、人間の世界でもあます。泥棒が暗証番号を打ち込んで防犯システムを解除して、まんまと他人の家に侵入するのに似ています。
人間の場合、面と向かって相手を騙すのは非常に難しいことです。身長、たたずまい、顔の特徴、声の響き、たまたまお互いの知っている事柄など、膨大な数の微妙な手がかりによって、友達あるいは家族であると認識するからなのです。蟻の場合は家族すなわち巣の仲間を、身体の表面に存在するたった数種類の炭水化物の混合物の匂いだけを頼りに認識します。甲虫をはじめとする寄生生の昆虫の多くは、身体の形や大きさが見るからに違っているのに、蟻の仲間として許容されてしまうのはこのためです。
宣伝活動、奴隷行使、暗号解読、罠、擬態、物乞い、トロイの木馬、追い剥ぎ、カッコウの様な托卵・・・これらのすべてを、蟻やそれを犠牲にして生きている捕食者・社会寄生者の中に見ることが出来ます。このような言い方はとても擬人的で、蟻やその取り巻きを無理矢理小さな人間になぞらえて解釈しすぎているように見えるかもしれません。でも世界で進化する事の出来る社会形態の総数は限られているため、恐らくそうではないと私は思います。