No.8--------→ 石井夫人の天敵現る 〜ドンちゃん編〜



お昼になりました。

麦太郎は 飼い猫の柘榴さんと 牡蛎さんとで

お昼ご飯を食べています。

今日のご飯は 焼き魚なので

柘榴さんも牡蛎さんも 大喜びです。

牡蛎さんは あわてて食べているので

小骨を喉に詰まらせてます。

何となく のんびりした午後でした。

すると どこからともなく 音楽が聞こえてきます。

それは ロックのリズムでした。



窓を開けると そこにはオトコのヒトが立っていました。

ロックンロールは 彼から聞こえてきます。

皮ジャンを身にまとい ロンドンブーツを粋に履きこなして

なんと マンドリンでロックを奏でていました。

麦太郎は「こんにちは」と 声を掛けてみました。

すると、



「こんにちわんわん♪」



と 返してくれました。

悪いヒトでは無さそうです。

彼は名前を「donovan」(ドノバン)と名乗りました。



「呼びにくかったら ‘ドンちゃん’ でもいいよ♪」



だから麦太郎は donovanさんのコトを

ドンちゃんと呼ぶコトにしました。

ドンちゃんは お腹が空いているらしく、

焼き魚を見つめています。



「ドンちゃん、一緒にご飯を食べますか?」



「うん♪ ご馳走になるぅ♪」



そんなワケで ドンちゃんとの楽しいランチが始まりました。

ドンちゃんはご飯を食べながらも マンドリンを離しません。

足でリズムをとりながら、

器用な指先でマンドリンを弾きながら、

更には 歌いながら 上手に焼き魚を食べてます。

きっとドンちゃんのアタマの中は

ロックンロールで一杯なのでしょう。

とっても賑やかなお昼ご飯になったので

麦太郎はドンドン ロックンロールが大好きになりました。



「ロック最高〜〜〜♪」



「いえ〜〜い」



「にゃ〜〜ん(いえ〜〜い)」



ソコへいきなり 隣りに住む中年のご婦人がやって来て



「ちょいと!麦太郎さん! 静かにしとくれよっ!」



と、怒鳴り込んできたから さぁ大変です。

そのヒトは石井夫人と言って

近所でも有名な 怖いおばさんでした。

麦太郎と柘榴さんと牡蛎さんは

一気に小さくなってしまいました。



「ごめんなさい 石井夫人。

でもロックは楽しいですよ
 
ご一緒にロックを楽しみませんか?」



麦太郎は恐る恐る 石井夫人にそう持ちかけてみました。



「はんっ! あたしゃ音楽は大っ嫌いなんだよ!」



・・・けんもほろろな態度に 麦太郎はビビりました。

しかしドンちゃんはマンドリンを止めません。

石井夫人の怒りは 頂点を極めた模様です。

ドンちゃんからマンドリンを手荒に奪うと

地面に叩きつけて 壊してしまいました。

マンドリンはボロボロに壊れて

もう見る影もありません。



「ああ! 石井夫人! 何てコトをっ!」



「・・・はんっ! あたしゃ悪くないよっ!」



麦太郎と石井夫人のやりとりを見ていたドンちゃんは

それほど凹んだ様子もなく

おもむろに自分の鞄を開き

その中からなんとバラライカを取り出して

演奏し始めました。



『バっ・・・バラライカっ!!
 (しかも特大っ)』




みんなは口に出さずに 心で叫びました。



「エレキやアコギもいいけど

民族楽器のロックもいいよね♪」



ドンちゃんは何事も無かったかのように ロックしてます。

それは魂の雄叫びのような 熱い熱いロックでした。

麦太郎は知らず知らずの内に

身体全体でリズムをとってました。

石井夫人まで なんだか腰を振ってノってます。

そしてみんなはひとつになりました。

酒池肉林のロックパーティーが始まったのです。





・・・ランチを楽しんでいたはずの麦太郎たちでしたが

気が付くともう陽は暮れていました。

石井夫人は踊り疲れて

汗びっしょりのままウトウトしてます。

柘榴さんと牡蛎さんもグッタリしていますが、

その顔はとても満たされていました。



「あ♪ もうこんな時間♪」



ドンちゃんは急いで帰り支度を始めました。



「ドンちゃん、もう帰ってしまうんですか?」



「うん♪ もっともっとみんなにロックを広めなきゃ♪」



麦太郎は寂しくなりましたが

またいつか会う約束をして

快く見送るコトにしました。



「ドンちゃん、またね」



「うん♪ 麦太郎くんも元気でね♪」



そうしてドンちゃんは

夜の暗闇にまぎれていきました。

石井夫人も目を覚まし、

自宅へと帰っていきました。

きっと今夜は

マンドリンとバラライカの夢でも見るのでしょう。

麦太郎も楽しい夢がみられそうです。

しかしバラライカとは・・・ 恐れ入りました。

渋いぜ、ドンちゃん。



麦太郎のお友達、ドンちゃん(donovanさん)のお話でした。